剣先から相手の心理状況や人となりが伝わってくるんです(近代五種競技・フェンシング選手/才藤歩夢)

雑誌『ターザン』の人気連載〈It's My Buddy!〉より。

text: Kai Tokuhara photo: Yuichi Sugita illustration: Shinji Abe

(初出『Tarzan』No.761・2019年3月20日発売)

歴史も古く1912年のストックホルム大会から五輪の正式競技となったフェンシング、水泳、馬術、ラン、射撃からなる近代五種競技。

才藤歩夢選手は若くして国内トップクラスの実力者であり、フェンシング単体でも“エペ”のホープとして期待される“二刀流”アスリート。

近代五種競技・フェンシング選手 才藤歩夢
才藤歩夢(さいとう・あゆむ)/1996年、東京都生まれ。近代五種のトップ選手であった父の影響で幼少から同競技を始め、現在はフェンシング単体でもトップクラスの実力を誇る。二刀流での東京五輪を目指す。

黒よりも白のほうが相手に目線がわかりにくい。

「近代五種は父の影響で始めて以来ずっと続けていて、フェンシングはなかでも得意な種目。確かに練習はよりハードになりますが、両方で世界を目指すことは自分の中でごく自然なことだと思っています」

近代五種競技・フェンシング選手 才藤歩夢の剣とマスク
フェンシングはフルーレ、エペ、サーブルの3種目があり、種目ごとに使われる剣が異なる。才藤さんの種目であるエペの剣は先端がスイッチになっており、相手を突いてそれが押し下げられることで電気回路が反応し、ポイントになる。お椀形のガードも特徴だ。マスクは電気を通さない絶縁マスクが用いられる。「剣は〈アルスター〉のもので、専門のショップに何十本と置いてある中から硬さや重さなど自分の好みに合ったものを選びます。マスクは〈PBT〉というハンガリーのメーカーです」。

今回紹介してくれたのはそのフェンシングの道具。種目名を表すエペという名の剣と、フェンシング特有の近未来的な雰囲気をアイコニックに彩るあのマスクだ。

「剣の長さは決まっているのですが、硬さや太さ、曲がり具合などが選手によって異なります。私は細くて軽いほうが好み。ただ全く同じ剣というのはほとんど探せないので、試合に3〜4本持っていく中の“一番剣”が折れたりしてしまったら結構ショックです(笑)。

マスクは網の部分が白というのが気に入って去年ハンガリーで購入しました。黒よりも白のほうが相手に目線がわかりにくく、そこが自分のスタイルに合っているなと感じて。ちなみにフェンシングって剣さばきに人柄が表れるというか、相手の心理状況が剣先からよく伝わってきます。

それに本当に強い選手は、相手が痛くないようにギリギリのところを突いてくるんですよ。そこが面白いところですね」