義足や義手がカラダの一部になってこそ一流のパラアスリート(パラ陸上選手・池田樹生)
text: Kai Tokuhara photo: Yuichi Sugita illustration: Shinji Abe
(初出『Tarzan』No.763・2019年4月18日発売)
“道具”ではなくカラダの一部。
池田樹生選手は、来年に迫った東京パラリンピックでの活躍が期待される日本屈指のスプリンターの一人。先天性の障がいで右脚の膝下と右腕の肘から先がない彼が、コンマ数秒を競う世界で勝負するための相棒が義肢装具(義足・義手などの総称)だ。
「競技用義足を使い始めた当初はバネ板を走りながらたわませるのが思いのほか難しく、なかなか思うように体重移動やコントロールができませんでしたが、何年か使い込むうちにそのあたりのテクニックが身につき、タイムが伸びていきました」
強度と反発性に優れた特殊カーボン素材の義足はアスリート向けスポーツ義足専門メーカー〈Xiborg〉のもので、池田選手も開発チームの一員としてパフォーマンスを常にフィードバック。そして「ソケット」と呼ばれる脚との接着パーツと競技用義手は、義肢装具士として有名な沖野敦郎氏が手がける〈オスポ〉で製作している。
「ソケットは走る時に体重そのものがグッとかかる部分なので、状態が悪いといわゆる靴擦れのような状態になり脚に傷ができたり激しい痛みに繫がります。だからとても重要なパーツですね。義手は普段の生活では身につけていませんが、クラウチングスタートの際に均等に体重をかけるために走るときだけ使うようになりました。
しかし、義足や義手に対して“道具”という感覚を持っているうちはまだまだ半人前。本当に自分のカラダの一部であるかのように扱えてこそ真のアスリート。その領域を目指して自分を磨いていきたいですね」