整形外科の受診原因3位。
中年になると手の痛む人が増える。仕事や家事で指を使うと痛んだり、深夜に手首が痛くなって目が覚める人も現れる。それを放置して関節が腫れ、指が曲がっていく人も。いわゆる変形性関節症が手に表れたケースもあり、高齢になると男女ともに非常に高い確率で手の痛みを訴えるのは事実だ。
また、整形外科を受診することになった原因箇所としても、手関節と手は3位。小さな部位に多くの骨と関節が密集するため、トラブルも発生しやすいのだろう。
全6疾患にほぼ集約できる。
症状はいろいろだが、下記に図示した4疾患と「ヘバーデン結節」と「ブシャール結節」を合わせた全6疾患にほぼ集約できる。結節とはこぶやしこりのことだ。
・ヘバーデン結節・ブシャール結節/母指CM関節症
ヘバーデン結節やブシャール結節は関節内部で軟骨がすり減り、骨同士が擦れて骨棘(軟骨が肥大、増殖し、とげ状になったもの)を生じることがある。これができると関節をさらに傷つけ、痛み、関節が腫れ、指が曲がっていくことも。
曲がった指に自然治癒はないので、変形前に整形外科を受診し、患部にはテーピングを施すなど、極力患部を動かさず、腫れや痛みが治まるのを待つべし。
症状次第では手術もありうるが、第1関節に起きるヘバーデン結節なら、金属製のスクリューネジで関節を固定する術式が一般的。当然だが第1関節の曲げ伸ばしはできなくなるので、熟考が必要だ。
第2関節に起きるブシャール結節は人工関節を使える場合もあるが、手術は高度な技術を要する。日本手外科学会に登録されている専門医に相談するのが安心だろう。
筋トレで高重量を扱う人や、重労働で手を酷使する人などに見られるのが「母指CM関節症」。
人の母指は他の4指と向き合うよう発達し、握る、つまむなど多彩な動作も可能だが、他の4指に比べ関節の可動域が広く、CM関節にかかる負担は重い。酷使から周囲の靱帯が緩み、関節に亜脱臼を生じたり、母指の外見がおかしなことになる人も現れる。
軽症ならば、患部の固定とステロイドの関節内注射で痛みを抑える治療も可能だが、重症なら手術で関節を再建することも選択肢となる。
・更年期女性に多い「ばね指」。
その名の通り指を伸ばそうとするとある角度で引っかかり、さらに伸ばそうとすると、ばねで弾かれたように急に指が伸びる症状だ。
初期は違和感や軽い痛みだけだが、関節の硬くなる拘縮から指をまったく動かせなくなる人も現れる。早期受診では安静だけで回復も期待できるが、手術で腱鞘を切開すると再発はほぼなくなる。
・夜半に症状が強くなる「手根管症候群」。
小指以外の4指の先にしびれや痛みを生じ、夜半に症状が強くなりがちなのが「手根管症候群」。
起床時に手がこわばるが、手を振ると楽になる人が多い。服のボタンを留めるなど細かい動作が苦手になり、母指根元の筋肉が痩せて、物をつかめなくなることがある。
進行すると腱移行手術など、大がかりな治療が必要になることもあり、これも早期受診に限る。患部へのステロイド注射も有効とされるが、腱と正中神経を押さえている横手根靱帯を切開し、圧迫を取り除く手術も行われている。
・親指が痛む「ドケルバン病」。
パソコン操作や楽器演奏、筆記やスポーツで手を使い過ぎる人に多発し、親指が痛むのは「ドケルバン病」。
母指だけでスマホをスワイプするとダメージが大きい。手を休ませるのが一番だが、テーピングで患部を固定し、痛まない範囲で手と指のストレッチをするのが初期の対応。痛みが強ければ消炎鎮痛剤やステロイド注射も選択肢となる。また、手術で腱鞘を切開する処置も考えられる。
糖質・脂質も関節に影響する?
中年以降こうした手の疾患が増える理由は実は未解明だ。日本整形外科学会もヘバーデン結節の原因は不明としている。
ただ、遺伝を含む多因子疾患ではないかと考える医師、研究者は多い。2007年、理化学研究所は変形性関節症の軟骨で多く発現しているタンパク質、アスポリンを原因遺伝子として発表している。
また、人工透析を受けている患者の血中には、β2―マイクログロブリンというアミロイド(不溶性のタンパク質)が増え、骨や靱帯に沈着することがある。こうした状態の患者がばね指や手根管症候群の治療を受けても、再手術を要するケースは多いという。
変形性関節症は生活習慣病としても考えられるかもしれない。18年ロチェスター大学は高脂肪食で増える腸内細菌がマクロファージを関節内に浸潤させ、サイトカインを発生させ軟骨を破壊するという動物実験の結果を発表した。
動物実験の結果をそのまま人間に当てはめることには問題もあるが、生活習慣病を招き寄せるような糖質、脂質過多の食生活は、手のためにも厳に戒めたいものだ。