「オリンピックを機に、女子バスケを盛り上げたい」髙田真希(バスケットボール)「オリンピックを機に、女子バスケを盛り上げたい」

自らの意思で選んだ強豪校で、自分のプレイを磨き上げていった。銀メダルに輝いた今の彼女の思いは…。(雑誌『ターザン』の人気連載「Here Comes Tarzan」、No.821〈2021年10月21日発売号〉より全文掲載)

取材・文/鈴木一朗 撮影/中西祐介

初出『Tarzan』No.821・2021年10月21日発売

売りである「スピード」が海外に通用した

バスケットボールでのリバウンドとは、シュートが外れたときのボールをキャッチする、あるいは弾いて味方にトスするようなプレイを指す。そして、これをもっとも得意とするのが髙田真希である。

髙田真希

日本のWリーグでも2019年シーズンまで、5年連続でリバウンド女王だった。バスケットのシュートの成功率は40%前後だから、リバウンドがいかに重要かは、わかってもらえるだろう。

2021年の東京オリンピックでも、この武器が生きた。髙田は185cmと日本人の中では大柄だが、世界にはもっと大きくて強い選手はたくさんいる。そんな中でボールを掴み取り攻撃へと繫げた髙田のプレイは銀メダルの大きな原動力の一つだったのである。また、彼女にはもう一つキャプテンという大役があった。

オリンピックでは試合に勝つごとに選手たちの表情がよくなっていったし、動きにも恐ろしいほどのキレが出てきた。準々決勝であるベルギー戦などは神がかり的な勝利だった。

その中心に立っていた髙田は、チームについてどう思っていたのか。

「いつもだったら、合宿に行って海外のチームと試合をして、自分たちの何が通用して、何が課題なのかを明確にできたんです。ただ、今回はコロナ禍の中でそれが難しかった。だから、フラストレーションは溜まっていましたね。

ただ、大会近くになって強化試合などがあって、自分たちの売りであるスピードが海外の選手に通用するのがわかってきた。オリンピックでは初戦のフランス戦に勝ったとき、私たちがやってきたことは間違っていなかったという自信に繫がりました。

いつも通りやっていけば勝てる、そんなことも全員が思っていた。本当に気持ち的な部分というのが大きかったんですよ」

“タフな攻め”を作ったハードな練習

ただ、海外と戦えなかったことは、プラスに働いた部分もあるのだ。今回、日本のバスケットボールは世界を驚愕させた。体格で劣る選手たちは、最後までタフに攻め続けた。

そして、3ポイントエリアからのシュートを多用。ディフェンスを潜り抜けてゴールの下へと進むのではなく、ディフェンスの外からシュートを打つことで、体格差による当たり負けを防ぐことに重きを置いた。

その体力と試合運びは、外国人選手にとってすべて初めての経験だったろう。相手は何も知らなかったのである。しかし、この作戦を遂行するために、とてつもない努力をしなくてはならなかったのも事実だ。

「特別なことはやってないんです。ただ、練習は常に100%の力でやっていました。私は日本人の中では大きいほうだから、(相手と)ぶつからなくてもよかったり、ボールを取れてしまえるシーンとかがたくさんあるんです。

でも、常に自分より身長が高くて、フィジカルが強い選手と当たるという意識で激しくやっていた。そういう、一つひとつの練習で手を抜くことが一切なかった。それがハードになった要因。

ヘッドコーチ(トム・ホーバス氏)も練習だけを一生懸命やってほしかったようです。それで、練習の後にシュート練習をすると“まだ元気なんだ? もっとできるんだな”なんて言われて(笑)」

練習後のシュート練習は選手にとっては感覚を掴むうえで必須である。体力を使い切ったあとでも、やってしまうのは自然な成り行き。ホーバス氏もそれをわかっていて、ジョークとして声をかけたのだろう。このことでも日本代表が非常によくまとまっていたのがわかるのだ。

髙田真希

高校に入学後に、一度だけやめたいと思った

中学校から本格的にバスケットボールを始める。といっても、チームは県大会を目指すには程遠いレベル。だが背の高かった髙田は、愛知県にある桜花学園高校の井上眞一先生の目に留まり、進学を決めた。

「バスケットをやめたいと思ったときが一度だけあって、それが高校に入ったときです。桜花高校は全国の強い選手が集まってくる。だから、同級生でも実力が違うし、先輩なんてとんでもない。

ついていけなかった。ただ、ここに来ることは自分で決めたので絶対に引けない。最後までやり通さなければと思いました」

髙田真希

バスケットボールの練習ではカタカナ用語が飛び交う。まず、それがわからない。監督が話をしていても理解できない。フォーメーションだって、これまでよりずっと複雑だし、どう動けばいいのかもわからない。

「聞き取って理解することから始まりました。理解して、やっている人を見て、それを真似る。そこからのスタート。練習が終わった後には何度も繰り返して覚える。

ただ、そういう中でもリバウンドとか通用する部分があったので、少ない手数なんですが、それをいかに伸ばしていくかを常に考えてやっていましたね」

その努力は実る。多くの全国タイトルを獲得し、高校バスケットボールの頂点を決めるウィンターカップでは、大会で最も優れた働きをした選手にポジション別で贈られる、ベスト5に選出されたのだ。

現在、髙田はWリーグのデンソーアイリスに所属している。高校卒業後に加入し、1年目からルーキー・オブ・ザ・イヤーなど輝かしい成績を残して現在に至っている。そして今シーズンの目標は優勝だ。

「うちはもちろんいい選手はいますが、まだまだ若い選手が多いので、そういう子をしっかり引き上げるために、私は全員に目を向けないといけない。最初は上手くいかなくても、やっていくなかで少しずつ成長してくれたらと思っているんですよ」

たとえば、デンソーのマリーナ・マルコヴィッチヘッドコーチからの指示はすべて英語で、通訳の人が選手に伝える。ところが、練習も熱を帯びて指示も早くなると専門的なニュアンスの理解は難しい。

そんなときに全員を導くのが髙田だ。語学が堪能というのではない。32歳のベテランはバスケットボールにおける引き出しが多いのだ。それだから、コーチの言葉だけでなく、動作や表情で内容を読み取れるのだろう。まさしくチームの大黒柱だ。

この競技のよさを伝えたい

そして今、髙田にはもう一つ情熱を懸けていることがある。それが、多くの人にバスケットボールを知ってもらうこと。この競技の将来を思い、〈TRUE HOPE〉という会社を立ち上げたのだ。SNSやさまざまな現場でファンと交流するなどの活動を行っている。

「私はデンソーに所属しているんですが、何かをやりたいと思っても、許可を得るまでに何か月もかかってしまう。だから、いつでも早く動けるように会社を作った。

もちろん、その許可はデンソーにもらっていますよ(笑)。いろんな活動で多くの人と触れ合い、バスケットのよさを知ってもらえたらと思っています」

日本では男子のBリーグは人気を確立していて、多くのファンを獲得しているという現状がある。いっぽう、女子はといえば、残念ながらそこまでの認知度には至っていない。

「これまでWリーグでは、観客が満員になることはほぼなかったんです。でも、オリンピックを機に、バスケットを見たい人が増えてくれるかもしれない。そのとき“やっぱりバスケって面白い”と思ってもらいたいんです。

その先へと繫ぎたいから。そのためには、アスリートとしてプレイでしっかり見せていくのが、絶対に大事だと思うんですよね」

銀メダルを勝ち取った選手たちが、敵味方に分かれて勝敗を決するWリーグ。これが面白くないはずがない。髙田の活躍を会場で見てもらいたい。