ホルモンとの相関関係から「気持ちいいセックス」を考える

せっかくなら、より気持ちよく愛し合いたい。そう思う人は男女問わず多いはず。そこで知っておきたいのがホルモンの働き。愛し合うその時はどんなホルモンによって支えられている? 前戯から後戯まで、ホルモンでひもとくセックスの一部始終。

取材・文/神津文人 撮影/内田紘倫 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮二 取材協力/久末伸一(国際医療福祉大学成田病院腎泌尿器外科)

初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売

ホルモンとの相関関係から「気持ちいいセックス」を考える

セックスとホルモンの相関関係

言わずもがな、セックスは、いくつかの段階を踏んで進行する(下表参照)。

性的な興奮状態(Arousal):テストステロン、オキシトシン

性行為(Sexual intercourse):一酸化窒素、ドーパミン、バソプレッシン

オーガズム(Orgasm):セロトニン、エンドルフィン

射精(Ejaculation):オキシトシン、アドレナリン、プロラクチン

まずは、性的なスイッチが入り心身が高ぶる興奮期が。そして男女ともに性器の準備が整ったら、挿入へ。やがて性的興奮が絶頂に達し、オーガズムを迎える。男性はわかりやすい射精というゴールがあるが、女性のオーガズムにはバリエーションがある。

そしてどの段階においても、ホルモンは密接に関わってくる。

そもそもホルモンの分泌が低下すれば性欲は湧きにくく、最高のオーガズムを迎えることもできない。段階ごとに分泌されるはずのホルモンの量が少なければ、“相性が悪いのかも”と感じてしまうかもしれない。

性行動の最中にどんなホルモンが、どのようなタイミングで分泌されるのか? それを知れば、互いのカラダとココロへの理解が深まり、より良いセックスに繫がっていくはずだ。

あの子に惹かれる! そんな時は、どんなホルモンに支配されている?

ホルモンとの相関関係から「気持ちいいセックス」を考える

男性の性欲は男性ホルモンに、女性の性欲は女性ホルモンに支配されていると勘違いしがちだが、実は性欲については男女ともにテストステロンが司っている。

「女性は閉経するとエストロゲンが大きく減少しますが、テストステロンについてはほぼ変わりません。なので、カラダが健康で、特に副腎が元気ならば閉経したからといって異性への興味を失うということはないんです」(国際医療福祉大学成田病院腎泌尿器外科・久末伸一医師)

性欲をドライブするテストステロンは男性なら精巣と副腎、女性なら卵巣と副腎から分泌される。もしも最近性欲が湧かないと感じていたならば、ストレスや疲労、生活習慣の乱れからテストステロン値が低下している可能性がある。

健全な性欲を維持するには、カラダの健康も不可欠なのだ。

触れ合うだけでドキドキするのはなぜか?

ホルモンとの相関関係から「気持ちいいセックス」を考える

ベッドインして、いざ性行為へ。前戯を始めるとペニスが勃起し、胸がドキドキする男性。これにはいったいどんなホルモンが作用しているのだろうか。

「ペニスが勃起する時には副交感神経が優位になります。副交感神経が優位になると血管内皮細胞から一酸化窒素が放出され、血管が拡張されます。それで血流が促されるため、心臓がドキドキするわけです。

馬の性行為中の心拍数、ホルモン値、一酸化窒素の値を計測した実験でも、アドレナリンなどの交感神経系のホルモンが多く分泌されているわけではありませんでした」

つまり同じドキドキするのでも、決して交感神経優位で血管が収縮した状態ではないということ。勃起時には副交感神経が優位に働き、気持ちはリラックス。全身にゆったり血液が巡っている状態なのだ。

前戯時に女性はオキシトシン、男性はバソプレッシンが上がる

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愛情ホルモン、絆ホルモン、幸せホルモンなどとも呼ばれることがあるオキシトシンは、脳の視床下部にある神経細胞が作るホルモン。一部は血液を介して全身を巡り、残りは脳内で作用している。

オキシトシンは、肌の触れ合いやキス、ハグをすることで、分泌が高まっていく。オキシトシンが分泌されると自分は愛されていると感じられるうえに、相手とより親密な関係を築きたいという気持ちも増す。

女性は前戯中、それからオーガズム時にもオキシトシンの分泌が高まる。一方の男性は、性的興奮を覚えた際にバソプレッシンの分泌が高まり、射精の際にオキシトシンの分泌が高まる傾向があるようだ。

「バソプレッシンは体内の水分調整に関わるホルモンなのですが、性行為では男性の愛情表現を高めることがわかっています」

射精直後は交感神経優位。アドレナリンが急上昇する理由

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前述の通り、ペニスが勃起する際には、副交感神経が優位になり血管は拡張するが、逆に射精時には交感神経優位に変わり、アドレナリン値が急上昇。血管は収縮し、カラダはリラックスモードから緊張状態に。

「交感神経が優位になると、カラダは戦闘モードになります。野生動物に喩えるとわかりやすいのですが、交尾を終えた後、種をしっかりと宿すべくメスを安静にさせるのに、オスがメスを外敵から守るために必要なのだと思います」

当たり前ながら自律神経が切り替わるのにも、ホルモンの分泌にも本能的な理由があるのだ。

挿入時にはリラックスモードだった男性が、射精時には一転して戦闘モードに。女性はその変化に驚くことがあるかもしれないが、メカニズムがわかれば、愛しさが増すかもしれない!?

ところで、女性が考える充実したセックスとは?

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女性はセックスにおいて何を重要視しているのか。久末先生が5000人の女性を対象にアンケートを取ったところ、1位は圧倒的に前戯、そして2位は後戯だったそうだ。

「オーガズムや挿入、勃起の硬さを求めている女性は少数派。多くの女性にとっては、スキンシップの充実こそが、満足度の高いセックスに繫がっているようです。

ホルモン的に言えば、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシン、そしてオキシトシンによって分泌が促されるセロトニンを求めているということ。セロトニンには精神を安定させる働きがあり、不足すると不安になったり、落ち込みやすくなったりします。

女性が安らぎを求めていることを理解して、男性が独りよがりではない相手を思いやるセックスを心がけることで、カップルの絆はより深まるのではないでしょうか」

2回戦ができないのは、プロラクチンのせい

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性行為の前は性欲が溢れていて“何度だってできる”と感じていた男性。なのに、一度射精をするとたちまちやる気が収まり、冷静に。賢者タイムとも呼ばれる時間が訪れる。

女性視点では、男性が射精後に突然冷たくなったと見えるかもしれないが、これも生理現象。射精をすると、プロラクチンというホルモンが分泌されることによって、興奮モードから冷静モードに切り替わる。

これは、射精時のアドレナリンの分泌と同様、性行為という無防備で外敵に狙われやすい状態が続くのを回避するためだと考えられている。“賢者タイム”は“警戒タイム”なのだ。

「自慰による射精後よりもセックスによる射精後の方が約4倍の量のプロラクチンが分泌されるという研究報告があります。守るべきものがあるからプロラクチンが分泌されると言えるかもしれません」

オキシトシンを増やすために…

繰り返しになるが、多くの女性がセックスで重要視するのは前戯や後戯。言い換えればスキンシップによるオキシトシンの分泌。少々極端に言えば、よりオキシトシンを分泌させてくれる人をパートナーにしたいと感じているとも考えられる。

そのオキシトシンだが、性行為中にだけ分泌されるわけではない。

日常生活で肩に触れたり、手を繫いだり、それだけのことでも分泌される。スキンシップのある生活で、女性は幸福感を感じられるし、逆にスキンシップが性行為のときに限定されると、パートナーの愛情不足、思いやり不足を感じてしまう。

女性がその気にならなければ、もちろん男性だって満足のいくセックスはできない。日頃からパートナーと触れ合い、オキシトシンを分泌させることは、とても大切なことなのである。