ディーン・アイザワ 1993年生まれ、東京都出身。イラストレーター/水彩画家。サンフランシスコ・アカデミー・オブ・アート大学ファイン・アート・ペインティング科卒。自身の個展等アーティスト活動と並行しながら、広告、雑誌などさまざまな場でビジュアルを制作している。2019年ごろからハイキングやトレイルランニングをはじめ、現在はアウトドアコミュニティ「open country」のオーガナイザーも務める。
いつでも動き出せるよう、身軽でいたい
ディーン・アイザワさんが描く水彩画には、そよぐ風や草木を照らす光が確かに息づいている。何気ない日常の風景がディーンさんの目にはどのように映り、どう捉えているのか。その視点をなぞってみたくて、日々の習慣だというランニングについていくことにした。
「クローゼットの中身をすべてアウトドアウェアにしたいと思っているんです。いつでも動き出せるよう、身軽でいたいから」
そんなことを話しながら〈マウンテンハードウェア〉の《コアエアシェルフーディ》をさっと羽織り、素早く身支度を整える。トレイルランニング用のザックには、山へ入る際に持ち歩くという携帯パレットと筆、そして筆を洗う水が入った小さなジャムの瓶を詰める。
外の気候も日中の暑さが和らいで、走るにはちょうどいい頃合いだ。
自分に合ったリズムで、ランニングを習慣化
「ランニングは日々の生活に欠かせない習慣の一つだけど、決めているのは“3日に1回走る”というルールだけ。あとは距離や時間も、その日の気分。ルーティン化しなくても長年続いているのは、リフレッシュになることをカラダが知っているからだと思います。毎日この時間に絶対に走るぞと決めてしまうと達成できなかったときに悔しい思いをするけど、1日単位で考えないようにすれば焦らない。そのリズムが僕には合っているのかなと」
お気に入りのランニングコースは4つある。調布飛行場をぐるりと一周するコース、味の素スタジアムを目指す多摩川沿いコース、成城学園方面まで足をのばすコース、そしてこの日走る野川公園の緑と小川を楽しむコースだ。距離はどれも5〜10km。
野川公園へ向かう途中、調布飛行場をのぞむ気持ちのいい展望スポットでひと休憩することにした。
「空気を纏っているよう」と、ディーンさんが表現する《コアエアシェルフーディ》は、側から見てもその軽さが伝わってくる。
さらに驚くのは、防風のみを目的としたウインドシェルとは一線を画す生地の柔らかさだ。極細糸を束ねた20デニールの糸を、
「トレイルランニングや登山で山へ行く際は、稜線を吹き抜ける風で汗冷えしないようウインドシェルを着ます。雨が降ってきた場合、防風シェルは脱いでレインウエアを着ることが多いけど、通気性に優れた《コアエアシェルフーディ》なら上から防水ジャケットを羽織っても汗がこもる心配がない。肌触りもいいので、室内着として山小屋でも快適に過ごせそうです」
呼吸を整え水分を補給した後、再びゆっくりと走り始める。ちょうど頭のすぐ上を、大きな音とともに飛行機が通り過ぎていった。
バリエーション豊かなコースを、軽やかなウェアで楽しむ
野川公園の正門を入ると、樹齢40年以上のヒマラヤスギが茂る深い森のようなエリアに出る。「サンフランシスコの北に広がる、ミューアウッズ(国定公園)に雰囲気が似ていますね」と、懐かしさに浸るディーンさんの足取りも思わず軽くなる。
実は〈マウンテンハードウェア〉もカリフォルニア州バークレーで誕生したブランドだ。立ち上げ初期からヒマラヤ8,000m峰などの高所に挑む登山家に向けた高機能製品を多く展開する一方で、アウトドアスポーツを気軽に楽しむアメリカ西海岸特有のカジュアルさも兼ね備えている。
「〈マウンテンハードウェア〉に親近感を感じるのは、ルーツが近いからかもしれません」
東八道路をまたぐ欅橋を渡り、野川公園の北側に移動する。ときどき、ふと思い立ったように足を止め、風景を眺めながらカラダを伸ばす。そんなときでも目線は常に遠くにある。
野川沿いの草木、西武多摩川線を走る黄色い電車、散歩中の人や犬……。目に飛び込んできたものすべてを画として捉え、記憶し、インスピレーションを掻き立ててゆく。
「野川公園の小川は小さい頃からよく遊んでいました。今でも自然の多い場所を好んで足を運んだり作品に落とし込んだりしているのは、そういった幼い頃の原体験と、家族で長野の野尻湖に頻繁に通っていたことが影響しているかもしれません。自然の中に身を置く環境が、いつも近くにあったから」
折り返し地点を超え、暑くなってきたところでウインドジャケットを脱ぐ。《コアエアシェルフーディ》はわずか148gと軽量なので、くしゃくしゃっと片手にまとめて持ちながら走ってもノーストレスだ。
近くに湧水が流れる木陰に入ると、空気がひんやりと冷たい。汗が冷えないよう手にしていたジャケットに再び袖を通し、大きく深呼吸する。
「ランニングはクリエイティビティを喚起する、瞑想のような時間」
「公園の中で、ここが一番好きなスポットなんです」と案内されたのは、野川公園が元ゴルフ場であったことがよくわかるゆるやかな起伏のある芝生広場。大きな赤松の木の下に腰をおろし、おもむろにスケッチ道具を取り出した。
「一枚のスケッチにかける時間は20〜30分。ずっと同じ場所にいるよりも、動きながら画角を探すのが好きです。絵を描くためのコースの下調べはしない。たとえば稜線の絵を描くために山頂まで登って、雲で何も見えなかったらガッカリするじゃないですか。だから走っている途中でなんとなく腰を下ろしてみて、描きたい風景があるかないかを判断する。そのために、外ではとにかく視野を広く色々なところを見ています。通った道のランドマークはすべて把握しているし、時間帯や天候による光、色、影も“画”として瞬時に記憶する。その記憶を頼りに本番の絵を仕上げるので、アウトドアでの20分スケッチは観察力を養うトレーニングにもなっているんです」
わずか20分足らずで、あっという間にスケッチが完成した。
「ランニングをしている間はそのとき自分の身の回りで起きているあらゆることを考えているけれど、走り終わったあとには考え事がクリアになっていることが多い。瞑想に近い感覚ですね。クリエイティビティを喚起してくれると思うこともあります。カラダも元気になるし、70歳、80歳になってもずっと走っていたいです」
INFORMATION
防風性と通気性を兼ね備えた《コアエアシェルフーディ》。写真のウィメンズモデルでは、ホワイト(Fogbank)やレモンイエロー(Light Sun)といったパステルカラーも。手のひらサイズに収納できるため、アウトドアシーンではもちろん、肌寒いとき用の上着として日常や旅先で気軽に持ち運べる。18,150円。