長座位の椎間板にかかる負担は立位の1.5倍。カラダの痛みを生む15の悪いクセ
日々の生活でついついやりがちなクセの中には、関節や筋肉にいらぬ負荷をかけてしまう動作がある。知らずに続けていると思わぬ痛みにつながる可能性も。すぐにできる対処法を知っておこう。
取材・文/井上健二 撮影/五十嵐一晴 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/林田秀一 取材協力・監修/高林孝光(アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長)
初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日発売
教えてくれた人:高林孝光さん
たかばやし・たかみつ/鍼灸師、柔道整復師。アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。延べ10万人以上を施術。オリンピアンやプロ選手もクライアント。著書『身長は伸びる!―子どもはもちろん!大人になっても』(自由国民社)が好評。
目次
壁に寄りかかってテレビを観る
椎間板の負担となり、ぎっくり腰に陥る
冬になると、ぎっくり腰で治療院へ駆け込む人が急に増えるとか。寒さで筋肉が硬くなるのも多少あるが、他にも意外な理由がある。
「こたつに入ると、両脚を伸ばした“長座位”の姿勢を取りがち。それが腰のストレスを誘発して、ぎっくり腰の一因となるのです」(アスリートゴリラ鍼灸接骨院の高林孝光院長)
なぜ長座位で腰を痛めるのか。
長座位を90度回転させてみるとよくわかる。これは立位で上体を90度前屈させた状態。それだけで背骨の間にある椎間板にかかる圧力は立位の1.5倍にもなる。
姿勢別の椎間板の圧力
スウェーデンの整形外科医による研究。立位の腰の椎間板への圧力を100とした場合、姿勢の変化でその圧力がどのように変化するかを評価。前傾すると1.5倍になる。
こたつに入らなくても、壁に寄りかかって長座位でテレビやスマホを観たりするのも同罪。
腰への荷重を減らすには、片脚を立てることが手軽&有効。加えて骨盤が後傾しすぎないように、肛門を後方へ向けるように骨盤を立てる意識を持つようにするとなおヨシ。
改善ポイント:片膝を立てよう
両脚を伸ばした長座位になることを避ける。片脚(または両脚)を立て、肛門を後ろへ向けるように骨盤を前傾させると腰に加わるストレスがかなり軽くなる。
関節をポキポキ鳴らす
変形性関節症の恐れ。首は絶対に鳴らすな
ポキポキと小気味よく鳴るのは、関節を包むカプセル状の関節包という部分。しばらく動かさないと、骨の間の関節腔というスペースが狭まる。それを急に広げるような動きをすると、ポキポキ音(クラッキング)が生じやすいのだ。
音を鳴らすのがクセになると関節を傷めてしまい、関節に炎症や痛みが走る変形性関節症のリスクが高まる。特に避けたいのは、首を傾けてポキポキ鳴らすこと。首(頸椎)を通る大事な神経や動脈を損傷する危険がある。整体やカイロなどの治療院でも、音を出すような治療は控えてもらおう。
立ち上がるときに手を使う
お尻や脚が痺れる坐骨神経痛になる
椅子や床などから立ち上がる際、「どっこいしょ」という掛け声とともにデスクや床、太腿などに手を添えて押していないだろうか。
それはお尻の大臀筋が衰えているサイン。立ち上がるには、曲がっている股関節を伸展させる必要がある。この動きの主役が大臀筋。大臀筋が弱くなっているため、手でアシストしようとするのだ。
大臀筋が衰えると下半身に痛みが走ることも。坐骨神経痛だ。
坐骨神経は、脊髄からお尻を通って脚まで延びる。この神経が圧迫されると、お尻から脚にかけて痺れや痛みが出てくる。
原因はさまざまだが、大臀筋の衰えも一因。大臀筋が弱体化して薄くなると、坐ったときに坐骨神経を圧迫する力が高まるのだ。薄いクッションを敷いて坐ると、お尻が痛くなりやすいのと同じ理屈。
「なるべく手を使わずに立つ以外にも、後ろ向きで歩くのも大臀筋の良いトレーニングになります」
改善ポイント:後ろ歩きをしてみる
大臀筋は、脚を後ろに上げるように股関節を伸展させるときに働く。後ろ向きで歩くと股関節が伸展するため、大臀筋の筋トレとなる。安全な場所で試そう。
古い掃除機を使い続ける
前傾姿勢で腰にダメージを負う
掃除機をかけている最中、腰を痛めるケースも多い。掃除中に軽く前傾するだけでも、前述のように腰の椎間板に加わるストレスは、1・5倍になるからだ。
旧来のキャニスター型の掃除機には、腰を深く屈めないと使えないタイプもあり、腰への負荷は増えやすい。加えてコード式だと部屋を移動するたび、コンセントを抜き差しする必要があり、深く前傾する機会も増えてしまう。
充電式コードレスタイプのスティック型掃除機に買い替えれば、腰を深く屈める必要がなく、コンセントの抜き差しも不要で腰にも優しい。
トイレにいい姿勢で坐る
便秘になりやすく、肩こり・腰痛にも
しつこい便秘に悩んでいるなら、便座の坐り方を見直してみよう。洋式トイレの便座に“いい姿勢”で上体をまっすぐ起こして坐ると、排便が妨げられる恐れがある。
大腸末端のS状結腸と、肛門の手前で便を溜めている直腸は、上体を起こした姿勢だとほぼ直角に折れ曲がる。その角度だとさすがに排便しにくい。
「ロダンの彫刻『考える人』のイメージで上体を前傾させると同時に、両足を台などに上げると、直腸肛門角がストレートに近づくため、スムーズな排便が促されて便秘解消が促されます」
便秘だとつねに膨満感があり、お腹が張って食欲は減退しやすい。するとタンパク質が不足して筋肉が減り、筋力低下による肩こりや腰痛の誘因にも。快便生活になったらタンパク質摂取を増やそう。
改善ポイント:上体を30度前傾。両足を台に乗せる
便座に坐ったら上体を30度ほど前傾させたうえで、両足を低い台などに乗せる。これでS状結腸と直腸がまっすぐになり、溜まった便もすっきり出やすくなる。
腰を後ろから揉む
腰痛慢性化の知られざる要因
慢性化した腰痛があると、ついつい腰を後ろから揉みたくなる。
ただ、しつこい腰痛の元凶は、体幹深層のインナーマッスル。後ろからアプローチできるのは広背筋など表層だけで、腰からの手当てのみでは隔靴搔痒に終わる。
「背後から腰ばかり揉んだり押したりしても、腰痛は一向に良くなりません。お腹の腹横筋や股関節の腸腰筋といった深部のインナーマッスルを刺激すると腰の動きが良くなり、腰痛が緩和できます」
膝を触る習慣がない
滑車機能が低下。膝痛が発生する
太腿の大腿四頭筋は、膝を伸縮させて歩いたり走ったりするときの衝撃を吸収する。それを助けるのが膝のお皿=膝蓋骨。
大腿四頭筋は膝蓋骨を経由し、膝蓋靱帯という強力な靱帯で、膝下で脛の骨に付着する。膝蓋靱帯は伸び縮みしないので、膝蓋骨が滑車に似た役割を担い、移動しながら膝の曲げ伸ばしと衝撃吸収がスムーズに行われるようアシストするのだ。
膝蓋骨の動きが損なわれると、滑車機能が失われて膝ストレスが急増。慢性膝痛を招くことも。
改善ポイント:膝のお皿をマッサージする
坐って両手の指で膝のお皿をつかみ、上下、左右、斜め方向に10秒ずつズラす。それだけで膝蓋骨の働きが良くなり、運動不足などによる膝痛が軽快しやすい。
脱力した姿勢で坐る
腸腰筋弱体化のサイン。クセになると腰痛に
電車でも自宅ソファでも、坐った瞬間、背もたれに背中を預け、両脚を投げ出す人がいる。
「それは脚の付け根の腸腰筋が弱体化しているから。腸腰筋は股関節を屈曲させるインナーマッスル。坐る時間が長いと股関節は曲がったままで腸腰筋が固まり弱くなる。ゆえに伸ばしたくなり、脱力姿勢で脚を前へ投げ出すのでしょう」
腸腰筋が固まり、股関節が動きづらくなると腰痛になりやすい。坐ったらついでに腸腰筋を強化せよ。
改善ポイント:腸腰筋の筋トレに励む
両膝を90度曲げて坐り、上体を起こす。両手を片膝に重ねて体重を上からかける。その力に抵抗しながら、膝をできるだけ高く引き上げる。左右各10回×3セット。
毎日同じ枕で眠る
枕の高さを変えないと、頭痛や肩こりが起こる
服は毎日着替えるが、枕はいつも同じものを使うのが常識。そこに想定外の落とし穴がある。
「枕の役割は、首のアーチを支えること。でも、首の後ろが凝っている日と、前側が凝っている日がある。
傷んだ筋肉は伸ばした方がラクなので、後ろが凝ったら少し高め、前側が凝ったら少し低めにすると快適。高さが合わない枕で寝ると頭痛や首こりに陥ります」
あらかじめ低めの枕を買い、体調に応じてバスタオルを重ねて置き、日々最適な高さに調整しよう。
坐るとすぐ脚を組む
O脚→膝痛のリスク大。腰痛回避のヒントも潜む
腰のストレスを減らすには脚を立てるのが有効。坐って脚を組むのは、脚を立てて腰の負荷を減らしたいからだ。
組んでラクになるなら、遠慮せずに脚はどんどん組んでOK?
「脚を組み続けると脚の骨のアライメント(連なり)が崩れてO脚になり、膝痛の呼び水となります。腰のダメージを減らすため、骨盤前傾を心がけつつ、脚を組む時間も最小限に留めてください」
前述のように異変を抱えた筋肉は縮めるより伸ばす方がラク。たとえば、右脚を左脚に組む人は、伸びる右側の腰やお尻の筋肉を傷めており、放置すると腰痛に。反対の脚に乗せたくなる側の腰やお尻をストレッチでケアしよう。
改善ポイント:腰とお尻のストレッチ
床で仰向けに寝て、上に組みたくなる方の膝を曲げて引き寄せる。反対の手で膝の外側を持ち、逆サイドの床に近づけ、腰とお尻をストレッチ。20〜30秒キープする。
常にスマホが手放せない
肩も首も硬直。肩こり、ストレートネックにも
通勤ルートの地下鉄やバスの車内では、ほとんどの人がスマホを凝視する。スマホの使いすぎの弊害は多々指摘されるが、肩こりを招きやすいことも知っておこう。
狭い車内で腕を伸ばせないから、必然的に肘を曲げて脇を締めた姿勢でスマホを構える。それだと肘も肩関節も固まって動きが悪くなり、周辺の筋肉が緊張して硬くなる。それを毎日のように繰り返していると肩こりになりやすいのだ。通勤中のスマホ使用は、できる限りミニマムに留めたい。
低いポジションで構えると、覗き込もうとして首のアーチがフラットに近づくストレートネックに陥る。それを避けるため、スマホは目線の高さ付近にキープせよ。
さらに仕事場や自宅に着いたら、凝り固まった肩まわりをほぐすため、腕を思い切り回してみよう。
改善ポイント:腕をグルグルと大きく回す
脇の下に反対の手を添え、伸ばして片腕を勢いよく回してみる。左右各前回し7回+後ろ回し7回。これで肩まわりの関節と筋肉がほぐれて肩こり予防&改善につながる。
どこでもノートパソコンを開く
前傾して覗き込み、首こり&肩こりを招く
リモートワークの日は、ノートパソコンさえあればカフェでもどこでも仕事ができる便利な時代に。
ありがたい話だが、ノートPCはデスクトップより画面が狭くディスプレイの高さも低いため、自然と覗き込む前傾姿勢となり、肩こりや首こりを誘発しやすい。
それを避けるため、PCスタンドなどを利用して顔を正面に向けたままで作業できる高さに調整。加えて30分に一度程度はディスプレイを閉じて立ち上がり、軽くカラダを動かしてリフレッシュ!
改善ポイント:高さを上げ負担の少ない姿勢に
ディスプレイ上端が目の高さより少し低くなるのがベスト。PCスタンドがなければ、厚めの本を積み重ねてPCを置く。ディスプレイとの距離は40cmほど離そう。
ラクな靴ばかり選ぶ
股関節がサボると、腰に迷惑がかかる
手を使わず、しゃがまずにラクに履けるシューズがヒット。でも、その快適さに慣れるとしゃがむ機会が減り、股関節はサビやすい。
股関節がサビると、煽りを真っ先に受けるのが腰。股関節、骨盤、腰椎には「腰椎骨盤リズム」という仕組みがあり、3者は連携して働く。股関節の動きが悪いと、それだけ骨盤と腰椎の仕事が増え、腰痛の引き金になり得る。股関節が衰えないように、しゃがむタイミングを増やすように心がけて。
外出はいつもサンダル
浮き指で土踏まずが落ち、足腰を痛めやすくなる
「サンダルには踵がないため爪先立ち状態で歩く。足の指で踏ん張るようになり、足の指がそっくり返る“浮き指”になりがちです」
浮き指だと土踏まずのアーチが落ち、扁平足に。アーチのクッション機能が使えないので、少し歩くだけで疲れたり、着地衝撃で足腰の筋肉や関節を痛めたりする。サンダルばかりに頼らないこと。
いつも同じ手で荷物を持つ
利き腕の首や肩が静かな悲鳴を上げる
買い物にエコバッグ持参は令和の常識。では、あなたはエコバッグを何枚持って買い物に行く?
1枚と答える人が大半だろうが、カラダの痛みを減らしたいなら、2枚用意するのが正解。
買ったものを1枚に詰め込み、利き手で持ち運んでいると、利き手側の肩や首の筋肉のストレスになりやすい。エコバッグは2枚用意して荷物を二分して収め、両手に1枚ずつ持てば肩や首にかかる重さも分散できる。1枚しか持っていないときは、適宜持ち替えるようにしたい。
キャリーケースで 長時間移動する
捻りに弱い腰と膝を痛める可能性も
人気者の車輪付きキャリーケースも、使い方次第では腰や膝を痛める恐れもある。
車輪付きだと油断して重たいものだって片っ端から放り込むが、いざ移動しようとすると、そこかしこに段差や階段が待ち構える。そこで自力でバッグを持ち上げようとすると関節がヤバい。ことに割を喰うのは腰と膝。いずれも直線的な屈曲&伸展は得意だが、捻りにはからきし弱いからだ。
腰も膝も捻らないように、キャリーケースはつねにまっすぐ引く。お安いバッグには、挙動が安定せずにまっすぐ引きづらいものもあるからご用心。段差や階段でバッグを持ち上げるときは、腰や膝を捻らないように丁寧に扱いたい。