更年期の心身バランスをフルリセット。東洋医学的食養生のすすめ。

「医食同源」とは言い得て妙。1日3食、1年1000回を超える食生活をテコ入れすれば、更年期の不調に抗うことは当然可能だ。加齢で減る“先天の気”を東洋医学が選んだ6大更年期予防食材で、腎をパワーアップ!気血を巡らせ、乱れた心身バランスをフルリセットしよう。

取材・文/板倉みきこ 撮影/内田紘倫 料理製作/田村つぼみ 取材協力/溝口 徹(みぞぐちクリニック院長)、河尻澄宏(東京女子医科大学附属東洋医学研究所准教授)

初出『Tarzan』No.907・2025年7月17日発売

東洋医学的、更年期予防・対策の第一歩。

「カラダやメンタルの不調、そして性力の衰え。更年期の代表的な症状は、食事と栄養を見直せば、6割以上の人が変化を実感できるのでは」と、心強い言葉を発する医師の溝口徹さん。溝口さんは22年前、日本初のオーソモレキュラー栄養療法(分子栄養学)専門クリニックを開設。男性の更年期障害の治療にも取り組んでいる。

一方、男性ホルモンの概念がない2000年前から、今の更年期障害に近い症状や対策に触れていた東洋医学。今に伝わる「食養生」の観点から、効果的な更年期対策も導き出せる。

最新のエビデンスも反映した東西の叡智を味方に、日々の食を「更年期対策食」に変えていこう。

東洋医学による6大更年期予防食材。

東洋医学による6大更年期予防食材

「更年期の症状は、カラダの機能を担う五臓の一つ“腎”の気が失われていると診る“腎虚”と似ています」(東京女子医科大学附属東洋医学研究所・河尻澄宏准教授)。そこで「腎」を補う代表的な食材を挙げてもらった。

東洋医学的食養生のススメ。

2000年続く知見を生かし、心身の変化や衰えに対処するため「食事」「睡眠」「運動」などの養生を推奨するのが東洋医学。

「なかでも自分の状態に合わせてコントロールしやすいのが食養生だと思います。先天の気(親からもらったエネルギー)は、女性は28歳、男性は32歳をピークに下降するので、食事から得る“気”でこまめに後天の気(日々補充するエネルギー)を補っていくことが重要です」(河尻さん)

古来のカラダのサイクルと、ホルモンの分泌量の増減がほぼリンクすることが驚きだ(下図参照)。

女性と男性のカラダの変化。

女性と男性のカラダの変化

「腎」の気を性ホルモンと解釈。男女の年齢と性ホルモンの分泌量などを表す「腎」の気の変化をグラフで示した。カラダの変化は2000年前と現代でほぼ一致する。

体質や体調を解釈する際に大事なのが、カラダの機能を分類した五臓という概念。更年期には、生殖機能や内分泌機能などを司る「腎」に影響が出やすいと診る。

今回は更年期症状の代表的な3タイプを挙げてもらったので、チェックしてみよう。

互いに関連する五臓。

互いに関連する五臓

西洋医学の臓器の役割を担う一方、その他の働きもある五臓。心身の働きまで含めた広い概念で、互いに働きを強めたり、働きを抑制したりする関係にある。

更年期のタイプチェック。

身体症状と精神症状から診る簡易的なチェックで、更年期の代表的な3タイプに分類。チェック数が同じ場合は、タイプ別診断を読み、より自分に近いものを選ぼう。

    • 下半身の力が入りにくい。
    • 性機能、性欲の低下。
    • 腰が痛くなりがち。
    • 思考力低下が気になる。
    腎虚(じんきょ)タイプ
    • 抑うつ傾向にある。
    • イライラすることが多い。
    • 筋痙攣がたまにある。
    • 不眠、眠りの質が悪い。
    肝気鬱結(かんきうっけつ)、肝血虚(かんけっきょ)タイプ
    • 気分の落ち込み。
    • エネルギーの低下。
    • 食欲不振。
    • 冷え性。
    気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ

    タイプ別・おすすめの食事。

    3タイプそれぞれの症状改善に向く、おすすめの食材をわかりやすい調理例で紹介。自分なりの方法でうまく取り入れてほしい。

    【腎虚タイプ】腎のエネルギー不足を補塡。

    腎虚タイプ

    「腎虚」とは、加齢や過労などによって腎の機能が低下した状態。西洋医学でいう更年期障害の症状に合致しやすい。疲れやすく、精力の低下を感じやすくなったり、残尿感や頻尿などの排尿障害、不妊やインポテンツなどの生殖機能の低下をもたらす。白髪や脱毛が増えることもある。

    「腎を補う食材は、海藻類やエビ、牡蠣、シジミなどです。また黒豆やゴマなど黒色の食材も推奨されています。山芋やオクラなどのネバネバ系も腎を補う食材になります」(河尻さん)

    【肝気鬱結、肝血虚タイプ】肝の乱れを酸っぱいもので整える。

    肝気鬱結、肝血虚タイプ

    五臓のひとつ「肝」は、感情や気分の安定化にも関わり、気(エネルギー)を巡らせる作用がある。肝気鬱結は肝の気を巡らせる作用が失調し、気の流れが鬱滞した状態。イライラなどの精神症状が強く出る。一方肝の血が不足した状態の肝血虚も、イライラしたり、集中力が欠けやすくなる。

    「肝を補う食材は酸味の効いたもの。香りの良い食材を合わせてもいいでしょう。ただストレスで胃が弱っている人は空腹時にいきなり酸っぱいものを食べないように」(河尻さん)

    【気血両虚タイプ】よく嚙んでエネルギーをチャージ。

    気血両虚タイプ

    疲れやすく、全身の機能が低下し、さまざまな症状が表れやすい気血両虚。生命エネルギーの「気」と、血液そのものと血液によって運ばれる栄養や熱を司る「血」の両方の不足が同時に起こっている状態。

    「鶏肉、牛肉、イモ類、きのこ類、豆類は気を補う食材。レバーや赤身肉、ホウレンソウなどの血を補う食材も取り入れ、気血同時に補って。過労や不摂生は不調を助長するので、食生活の見直しをして、胃腸に負担がかからないよう注意しましょう」(河尻さん)

    心身の健康のために食養生を身につける。

    東洋医学では、生まれつき元気旺盛で身体強健な人でも、40歳以降は保養に努めないと、父母からもらった天寿さえ全うできないとする。特に、西洋医学でいう性ホルモンと関連する「腎」は、親から授かった気(先天の気)を蓄える場所でもあるので要注意。

    「年を経るにつれて消耗する先天の気を補うため、食事から得る気が必要になります。食事の栄養をしっかり吸収するには、五臓の“脾”を整えることも大事です。今回、代表的な3つの更年期症状を挙げましたが、目指すのは、弱った気を補い過剰になった気を抑えるなど、五臓全体の崩れたバランスを整えること。漢方薬や鍼灸からもアプローチでき、西洋医学との併用も可能なので、自分に合う養生法を見つけてください」(河尻さん)

    更年期症状を悪化させる4つの食習慣。

    食養生の考えは食べるものだけでなく、どんなふうにいつ食べるか、食習慣にも及ぶ。更年期症状を悪化させる、代表的な4つの食習慣を避けるのも大事だ。

    1.満腹、偏食。

    甘味、塩味、酸味、苦味、辛味の五味をバランスよく、ほどほどの量を摂取すること。

    2.酒の飲み過ぎ。

    酒は薬にも毒にもなる。適量なら気を巡らせる助けとなり、飲み過ぎれば五臓に悪影響が。

    3.冷たいものの多食。

    消化吸収を司る「脾」の気を弱める冷たいものは控えめに。夏温かく、冬熱すぎずが理想。

    4.食直後の睡眠。

    食後すぐ眠ると、脾のエネルギーを損なうと解釈。食後はゆっくりとした運動を推奨。