横隔膜を使った深い呼吸が、歪んだカラダを整える!
左右非対称のカラダは、呼吸も偏っている。多くの人が横隔膜を使えず、浅い呼吸で歪みを助長しているという。呼吸コンサルタント・大貫崇さんが提唱する、息を“吐き切る”ことで整う呼吸メソッド。
取材・文/井上健二 イラストレーション/ダン・マトゥティナ 取材協力・監修/大貫 崇(BP&CO.代表、呼吸コンサルタント)
初出『Tarzan』No.910・2025年9月11日発売

教えてくれた人
大貫崇(おおぬき・たかし)/呼吸コンサルタント。BP&CO.代表。米国フロリダ大学大学院修了。NBA、MLBでアスレチックトレーナー(ATC)を務めた後、帰国。PRT認定取得。大阪大学大学院医学系研究科にて特任研究員を務める。
息を吐き切れない人は“横隔膜”に要注目。
「カラダは構造的にも、神経的にも左右非対称。肺は左右で大きさが違いますし、それを動かす横隔膜の作りも左右非対称。運動を司る脳の運動野もいつも左右対称に指令を出しているわけではないのです」
そう指摘するのは、呼吸コンサルタントの大貫崇さん。デフォルトが左右非対称なら、歪みの本質は何か。それを大貫さんは「ニュートラリティ(均衡)」が崩れた状態と定義する。
「地面に対して垂直で偏りがないポジションが “ニュートラル”だとしたら、“ニュートラリティ”はその人にとっての主観的な中心軸から、振り子のようにあらゆる方向へ均等に動ける状態だと言えます」
ニュートラリティが十分かどうかの貴重な判断材料は、横隔膜。
呼吸は本来、胸郭の底の横隔膜をフル活用して鼻で行うもの。1分間に10回以下の深くゆったりした鼻呼吸ができていれば、横隔膜がきちんと使えている証拠だ。
毎分15回以上の浅く早い口呼吸では、息を吐き切る前に吸ってしまうため横隔膜が使い切れない。さらに吸ったところから吸うため胸郭を作る肋骨を広げなくてはならず、アバラが浮き上がる。
息を吐くときの横隔膜、肋骨、腹部の動き。

肺は自力で動けない。息を吐くときはドーム状の横隔膜が弛緩して上がり、肺の容積が狭くなり、外気より気圧が上がり空気が出る。肋骨は内側へ内旋し、下・後ろ・内側方向へ萎んで胸郭が狭まり、腹部の腹横筋も収縮。
息を吸うときの横隔膜、肋骨、腹部の動き。

息を吐き切ると自然に吸える。その際、横隔膜が収縮して下がり、肺の容積が広がり、外気より気圧が下がって空気が流れ込む。肋骨は外側へ外旋し、上・前・外側方向へ膨らんで胸郭が広がり、腹部の腹横筋は弛緩。
「アスリートでも90%は横隔膜を駆使した深い呼吸ができていない。横隔膜が使えないと、首、肩、背中、胸、お腹などの筋肉を動員して呼吸しようとする。呼吸は1日2万回以上繰り返しますから、カラダの中心の体幹でそうした不自然な筋肉の使い方をしていたら、ニュートラリティを失うのは当たり前です」
つねに肋骨を下げて鼻から息を深く吐き切る意識を持ち、横隔膜を用いて呼吸できるように整えると、ニュートラリティを失いにくくなる。
安静時のアスリートの呼吸パターン

1933人のアスリートの安静時の呼吸パターンを、Hi-Loテスト(胸と腹に手を置いて呼吸に応じた動きを確かめる方法)で評価した。90%以上は、横隔膜を使わない非効率的な呼吸パターンを示している。
出典/Yuka Shimozawa1, Toshiyuki Kurihara, Takashi Sugiyama, Tadashi Suga2, Tadao Isaka1, Masafumi Terada, et al: Point Prevalence of the Biomechanical Dimension of Dysfunctional Breathing Pattens among Competitive Athletes. Journal of Strength and Conditioning Research. 2022
お腹と胸をシンクロさせる、基本の呼吸法。
仰向け呼吸(10回)

- 仰向けで片手を胸、反対の手をヘソに乗せる。両膝を腰幅で曲げて立てる。
- 鼻の奥から軽く息を吸い、お腹と胸が平らになるように鼻から息を吐く。
- お腹と胸が同時に同じ高さに上がるように鼻から息を吸う。ここからが本番。
- 同じように8〜10秒で息を吐き、3秒ほど息を止め、次に優しく息を吸う。背中を反らさないように注意。

背中が反り、お腹と胸の高さが合っていない。
横隔膜をリラックスさせる方法。
肋骨を下げる呼吸(10回)

- 仰向けで両手を肋骨下部に当て、指を開く(この段階では肋骨がお腹より上がっている)。両膝を腰幅で曲げて立てる。
- 鼻の奥から軽く息を吸い、お腹の横を使って肋骨を下げるように8秒程度で息を吐く(両手で肋骨の動きを確認)。吐くときお腹は凹まさないように注意しながら、胸から空気を抜いていく。ここからが本番。
- 同様に徐々に吐く時間を長くしていき、できれば10〜12秒吐き、3秒止めてから吸う。10回終えて、肋骨とお腹の境目がなくなるのが理想。
呼吸を邪魔する筋肉を無力化するストレッチ。
1.お腹|腹直筋(60秒)

お腹の腹直筋が固まると肋骨が下がりにくく、横隔膜も動きづらい。そんな時は椅子に坐るか、仰向けでみぞおちの骨のキワに左右の指を当てて、痛気持ちいいところをほぐすとよい。みぞおちの中まで指を入れると不快感を感じるので注意。
2.鎖骨|鎖骨下筋、斜角筋(左右各60秒)

肩が上がって緊張し、浅い呼吸をしている人は首や胸の上部の筋肉を使っている。人差し指と中指を使い、左右の鎖骨の上下を満遍なくマッサージする。とくに凝っているところは、鎖骨を上下に動かしながら行うと効果的。
3.背中|広背筋(左右各60秒)
背中で呼吸するクセがあると、横隔膜が働きにくくなる。ことに広背筋は背中を反らせて肋骨を広げて呼吸をしようとするから要注意。改善するには広背筋のストレッチ。

- 壁の端やドア枠などに右手をかけ、両足は揃える。
- 右腕が床と平行になるまで背中と腰を丸め、カラダを後ろに引いて右足に体重をかけ、右の背中を伸ばす。左右を変えて同様に行う。
4.胸|大胸筋(4〜5回)
デスクワークが多いと猫背がクセになり、浅く肩を使った呼吸をしていると胸の大胸筋が硬くなる。大胸筋を呼吸から解放してやろう。

- バランスボール上で仰向けになり、両足を肩幅より広めに開いて姿勢を安定。頭と首はボールに休ませて、吐くときは肋骨が下がって平らになるのを手で触れて感じる。
- 肋骨はそのままにしてバンザイすることで胸の前面をストレッチ。吐く時間を長くしながら4〜5回呼吸する。





















