秋の澄んだ空気の中で、美しい水の色に出会う。|11月の山・大杉峡谷

季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の根本絵梨子さんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。

取材・文/小林百合子 撮影/根本絵梨子

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今月の山 大杉峡谷
おおすぎきょうこく
|三重県

標高/約490m

おすすめコース

1日目
大杉峡谷登山口(1時間10分)京良谷(50分)千尋滝(1時間)シシ淵(40分)平等嵓(40分)桃の木山の家
歩行時間計:4時間20分

2日目
桃の木山の家(40分)平等嵓(40分)シシ淵(1時間)千尋滝(50分)京良谷(1時間10分)大杉峡谷登山口
歩行時間計:4時間20分

ひとつとして同じではない、自然の中にある「ブルー」。

群馬県で生まれ育った私にとって、山は身近な存在でした。幼い頃は父に連れられて登山やキャンプに親しみましたが、東京で働き始めてからは足が遠のいていました。

27歳の頃、写真家のアシスタントとして忙しく働いていた時期に、幼馴染に誘われて久しぶりに山へ出かけました。その時、なぜだかわからないのですが、すごくしっくりきて、心の底から癒やされた、リフレッシュできたと感じました。それ以来10年近く、国内外の山を歩き、写真を撮っています。

場所や季節、一緒に登る人によって唯一無二の体験をくれる登山は、何事にも飽きやすい性分の私にはもってこいで、山を歩くたびに新鮮な感激をもらえます。これから1年間、季節ごとの山の魅力を写真とともにお伝えできたらと思います。

11月は標高の低い場所では紅葉が見頃ですが、高い山では雪の気配が漂う、登山には少し難しい季節です。そんな時季には無理をせず、のんびりと風景を楽しめる山歩きを選びます。

三重県にある大杉峡谷は、黒部峡谷や清津峡とともに日本三大峡谷に数えられる場所。急峻な崖と沢に沿って歩くルートにはいくつも滝があって、光の加減によって水の色が美しく変化します。周囲には豊かな原生林が広がっていて、11月には色とりどりの紅葉が迎えてくれます。アップダウンはそれほどなく、天気が良ければ気持ちのいい場所に腰を下ろして、変わりゆく水の色や清らかな流れを眺めつつ、お弁当を食べたり、写真を撮ったり。どこまでもゆったりしたハイキングです。

涼やかな峡谷歩きは夏向きかと思いがちですが、夏の沢沿いはヒルが多く、私は少し苦手。秋にはヒルの心配がないですし、何より冷たく澄んだ空気が心地いい。秋の柔らかな光を受けた水も、澄み切って見えます。

大杉峡谷の登山ルートは奈良県の大台ヶ原までつながっていますが、それは健脚向け。私は途中にある山小屋・桃の木山の家で一泊して、またのんびりと同じ道を戻ります。川のすぐそばにある桃の木山の家にはお風呂があって、食事もとてもおいしい。川の音を聞きながら過ごす時間は清々しくて、ここでもまたゆっくりと時間を過ごします。

山を歩いていて沢や滝に出合うことはありますが、これほど手軽に峡谷と水の美しさを楽しめる場所は、そう多くありません。山にばかり向いていた関心が水にも広がっていったのは、この峡谷に出会ったことが大きかったかもしれません。自然の中にあるブルーは、ひとつとして同じ色がない。そんなことを教えてくれた場所です。

日本最大の多雨地帯が作り出す、水の王国。

「日本の秘境百選」にもあげられる大杉峡谷は、登山初心者でもダイナミックな峡谷と神秘的な色をたたえる沢に出会えるスポット。

桃の木山の家まではアップダウンは少ないが、歩行時間は5時間ほどあるので、無理のない計画を立てること。岩場が多く、とくに雨の後は滑るため、防水や滑り止めがしっかりした登山靴が必須。また天気が変わりやすい山域のため、晴れ予報でも雨具は必ず携帯すること。

11月に入ると気温が下がるので、フリースやダウン、ニット帽などの防寒具も必要になる。天候や気温、水量などによって状況判断が難しくなる場合があるので、初心者だけの入山は控え、登山経験者を伴うことを勧める。大杉峡谷登山口までは公共交通機関がないため、タクシーかマイカーを利用する。紅葉シーズンの土日は駐車場が混雑するので、注意を。

おすすめスポット情報

桃の木山の家

大杉峡谷登山口から4時間半〜5時間ほどの場所にある山小屋。山小屋では珍しく風呂があり、木の香りが清々しい檜風呂が人気。手作りの温かい夕食、予約すれば中華ちまきの弁当も用意してもらえる。11月の週末は混雑するので、必ず予約を。

三重県北牟婁郡紀北町海山区相賀480-170
0597-32-2052
https://www.momonokigoya.jp/