「フシギダネの蕾が咲きかけて、フシギソウくらいにはなったかな」笑いとウェルビーイング。ラランド・ニシダ(後編)
笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第8回後編のゲストもラランド・ニシダさん。身体の悲鳴を聞きながらも解決しようとはしない、ニシダさんの生き方とは。
インタビュー/白武ときお 文・編集/飯田ネオ 撮影/鳥羽田幹太
Profile
ニシダ/1994年、山口県生まれ。2014年、上智大学在学中にお笑いサークルで出会ったサーヤとラランドを結成。趣味はギャンブル全般とマッチングアプリ。小説家としても活動し、近著に『不器用で』(KADOKAWA)、『ただ君に幸あらんことを』(同)。@mouEyo_Nishida
「ドラゲナイをめっちゃ歌う」っていうブームが来た。
白武ときお(以下白武)
最近は爆笑しました?この半年で、いちばん笑った出来事は?
ニシダ
小説を読んで笑うことももちろんありますけど、爆笑とまではいかないのが小説なんですよね。でも笑うこと自体は多い気がします。他の芸人さんのYouTubeとか、深夜番組とか、結構笑ってますよ。結局、自分の失敗は笑われたくないと言いながら、人の失敗がいちばん笑えたりして。
白武
どういう失敗が笑っちゃいますか?
ニシダ
ロケの途中にカメラマンさんのズボンの股のところがめっちゃ裂けて大爆笑したり。それぐらいのやつでもめっちゃ笑ってます、正直。

白武
健やかですね。誰といる時に笑いますか?
ニシダ
誰ともいない時間の方が長いんですよね…。まあ同棲してるんで、家に帰ったら彼女がいるという状態はあるんですけど。
白武
パートナーと爆笑することもありますか?
ニシダ
あります。あんまり良くないんですけど、俺は自分がボケて笑うタイプの人間で。去年の春ぐらいに俺の中でドラゲナイ(SEKAI NO OWARIの『Dragon Night』)をめっちゃ歌うっていうブームが来て、本当に誰もドラゲナイのことを思い出してない時にこうやってトランシーバーで歌うっていうブームが来て、パートナーも笑ってましたけど、確実に俺の方が笑ってて。もう面白すぎて。
白武
芸人仲間を誘って飲みに行くことは?
ニシダ
よくメシに行く人は何人かいます。自分はほとんど酒を飲まないし弱いんですけど、かが屋の加賀さんとか、あと東京ホテイソンのたけるさんも飲まないから、一緒に行ったり。あとは収録終わりに誰かが声かけてくれたら行きますね。この前初めて品川さんと飲みに行ってめっちゃいい人でした。怖いイメージがあったけど。
白武
ニシダさんから見て、スタンスが生き生きしていて素敵だなと思う人はいますか?
ニシダ
お見送り芸人しんいちさんとかめっちゃ楽しそうだなと思います。めっちゃ元気だし、毎回ちゃんと活躍してるなっていう感じだし、いいな、楽しそうだなって。
白武
ニシダさんは楽しくやれていますか?
ニシダ
どう見えてます?どうなんでしょう。
白武
ひとりの時間は楽しく過ごしてるわけですよね。
ニシダ
小説を書いたりとか、なんかわりと一人で考えるのが好きっちゃ好きなので、考えてることの方が多いですね。読んだりとか、映画見たりとかすることが多い。
白武
スポーツなり運動なり、身体を動かすことはしていないですか?
ニシダ
歩くのは嫌いじゃないので、たまに歩きますね。あとまあ、たまに筋トレをしてます。ダイエットしようとは全く思ってないんですけど。

白武
なんで思ってないんですか。
ニシダ
そのつもりはないから(笑)。めちゃくちゃ筋トレをした後もカロリー制限とか別に何にもしないし。
白武
その筋トレはどういう目的の筋トレなんですか?
ニシダ
筋トレ自体そんなに嫌いじゃないんだと思うんですよ。中学高校でバレーボールをやっていて、筋トレで達成感があった思い出もあるし、そんなに嫌いじゃないから。それがストレス発散といえばそうなのかもしれないですね。
白武
家でダンベルとか?
ニシダ
えっと、去年の春に家から徒歩30秒ぐらいのところにジムができたんですよ。なので入会して、深夜誰もいない時間に筋トレしてます。でも週に行けて2回ぐらいですけど。
競馬では回収率100%。お金が減りも増えもしない時間を過ごしている。
白武
現状、自分を整えるためのルールはありますか?大事な収録の前のルーティンとか。
ニシダ
なんだろうなあ。趣味は読書と競馬なんですよね。
白武
競馬は調子いいですか?
ニシダ
えっとね、去年はいくらかけていくら戻ってきたかでいうと、ずっとぴったり100%ぐらいだったんですよ。なので意味がないです。
白武
ただ興奮してるだけ(笑)。
ニシダ
わあ!わあ!とか盛り上がって、お金が減りも増えもしないっていう時間を過ごしてます。でも競馬もグッて考える時間が好きみたいなところがあるので、思い描いた通りに馬が走ってくれたら嬉しくて。タダでできる趣味みたいになってるから。昨日ちょっと勝ってぴったり100%に戻って。楽しいです。
白武
本はどれぐらいのペースで読むんですか?
ニシダ
小説を書き出す前はずっと年100冊ぐらい読んでたんですけど、ここ2〜3年くらいはやっぱり書く時間が増えて、読む時間が減ってしまっているので、年にすると60冊とか70冊ぐらい、平均して月に5冊以上は読んでる感じですね。
白武
どういうジャンルが好きなんですか?
ニシダ
小説がいちばん多いんですけど、新書も読みますよ。

白武
昨年読んで面白かった本はありますか?
ニシダ
『このミステリーがすごい大賞』あるじゃないですか。あれは本当に外れがなくて割と読むんですけど、2025年の『一次元の挿し木』っていう小説がすっごい良かった。
白武
読みました。面白かったです。あらすじ見ただけで面白そうって思いましたね。
ニシダ
主人公には何年か前に失踪した妹がいるんです。その妹の DNA が400年前に死んだとされる遺体のものと一致した、というところから始まるミステリーで。ストーリーがもちろん面白いのもそうだけど、情報の出し方がちょうどいいし、めちゃくちゃ面白かったですね。読みやすいし、みんなワクワクしながら読めそうなやつ。あと個人的に読んで良かったのが、文芸誌の『すばる』に載っていた石田夏穂さんの『わたしを庇わないで』っていう小説が良かったです。『「笑い」は難しい』がテーマの特集号で、鈴木ジェロニモくんや立川流の落語家さんが登場してて、俺のことも呼んでくれてもいいのになあ、なんて思いながら読んで、その中にあった小説です。
白武
どんな話なんですか?
ニシダ
水産会社で働いているちょっと太ったOLさんが主人公で、自分の部署で魚を卸しているレストランに行って食べる食レポ動画をYouTube のショート動画で作って出してるんです。最初は綺麗どころの先輩が動画に出てたんですけど、その方が出れなくなって、主人公の女性が動画に出ることになって、最初は美人じゃないということであんまりバズらないし、会社の人にも色々言われちゃうんですけど、途中で自虐に振り切ってデブキャラでどんどんバズっていくんですよ。悪意あるコメントに晒されることもあるし、行くところまで行っちゃう話で、すっごい面白かった。ぜひ読んでほしいです。普通に笑える小説でもあるし。
白武
繊細ですね。
ニシダ
そうなんです。ルッキズムやSNSにも主軸が置かれているし。昨年でいちばん良かったです。
亜鉛、マカ、そして亜鉛&マカを持ち歩く。
白武
ニシダさんが普段持ち歩いてる、欠かせないものってありますか?
ニシダ
まずコカ・コーラですね。今はコカ・コーラゼロです。これはデブが強がってると思われるかもしれないですけど、普通に味が好きなんです。砂糖が入ってる普通のコーラみたいにベタベタしていなくて、味が好き。なので何でもない時に水みたいに飲むにはコカ・コーラゼロが良いなっていう。焼肉を食べるなら普通のコーラですけど、普段はゼロですね。

白武
バッグが凄いですね。
ニシダ
広告を付けて歩いてます。今は静岡のスーパーですね。中に入ってるのは、筆箱でしょ。本は必ず何冊か入ってますね。あとグミ。モバイルバッテリーはピカチュウのやつ。ポケモンが好きなんでね。あと着替えのTシャツね。あとは相方からもらった台湾のお土産のこんにゃくみたいなやつ。そしてのど飴。飲みかけのお水、これいつのかわかんないですね、最悪ですね。使いかけウェットティッシュ。iPadは結構使うな。パソコンのキーボード操作が絶望的にできないので、小説も手書きなんですよ。だから小説の修正はiPadでタッチペンでやってます。ボディシート、歯磨き。
白武
中に何が入ってるか、全部把握できてるんですね。
ニシダ
いや、何が出るかわかんないっていう感じです。
白武
サプリ系多いですね。
ニシダ
はい。これが亜鉛で、これがマカ。そして亜鉛&マカです。

白武
(笑)。サプリがたくさん入ってるんですね。
ニシダ
出先でも飲みたいじゃないですか。サプリは。
白武
なぜ亜鉛とマカなんですか?
ニシダ
ストレスなのか栄養素なのかわかんないんですけど、爪がガタガタになったときに「亜鉛がいい」と聞いて飲むようになったんです。マカは完全に下半身のほうなんですけど。
白武
それを持ち歩いていると。
ニシダ
はい。あと薄毛治療の薬もちゃんと定量飲めてます。これだけは本当に続いてる。
白武
どこを探しても薬が出てきますね。ポーチに入れたりはできないんですか?
ニシダ
出来ないんですよ。バックインバッグって意味わかんなくないですか?
白武
でも小分けして整理したいじゃないですか。
ニシダ
気持ちはわかるんですけど、どっかにはあるからねっていう。
白武
わかりました。
ニシダ
わかっていただけました?良かったです。
上手なドッキリは何も気づかないまま始まる。
白武
ニシダさんってドッキリ企画も多いじゃないですか。ああいう時はメンタル的な揺らぎが出るもんですか?
ニシダ
そんなに揺らぐことはないですけど、これドッキリかもな、これなんか怪しそう、と思いながら1日過ごして何もない時とか疲れちゃいますね。スタッフさんが怪しい動きしてるな…と思って1日見てたけど、ただ変わってる人だったとか。
白武
キレようにもキレられない。

ニシダ
そうなんですよ。ADさんが水をこぼしたけどそこから何か続くわけじゃない?普通に水こぼしただけ?みたいな時は、揺らぎとは違うと思いますけど、グッとなっている気はしますね。
白武
緊張と弛緩が生まれて。
ニシダ
そうですね。こっちとしては何が起きても対応できるようにとは思ってるけど、別に何も起きない時もあるし。やっぱり上手なドッキリは何も気づかないまま始まるんですよ。だから難しいですね。
フシギダネの蕾が咲きかけて、フシギソウくらいにはなったかな。
白武
ニシダさんは5年前から変わってないっておっしゃってましたけど、サーヤさんはドラマや音楽の活動があったり、ラランドとしても活動の幅が広がっているように思います。お二人の関係性に変化はありますか?
ニシダ
そんなに変わらないんじゃないですかね。サーヤさんは5年前より確実にステップアップしてますし、それこそ武道館だったり、番組の出演本数も増えてレギュラー番組がちゃんとあったりしますから、全然違う気がしますね。
白武
でもニシダさんも小説を書いたりバラエティのMCを任されたりするわけじゃないですか。番組を任されるって凄いことですよ。
ニシダ
それはめちゃくちゃありがたいです。だから相方はもうカメックスとかリザードンなんで、めっちゃ強そうなんですけど、俺はフシギダネの蕾が咲きかけてフシギソウくらいにはなったかなってくらい。あと5年間やってきて下がったことがあんまりないっちゃないんですよね。徐々に上がってきてる感じがするので、そこはありがたいなと思いつつですね。

白武
素晴らしいですね。最後に、ニシダさんにとってウェルビーイングとは?
ニシダ
こっちが聞きたいぐらいですけどね、ウェルビーイング。でも、やっぱり心身というのは両輪であるなと、歳を取れば取るほど思いますね。俺は心は別に悪い状態じゃないと思うんですけど、片輪の「体」が全然回ってない状態なんで、両輪をなんとか回さなきゃなとは思いますね。
白武
片輪が小さいと同じところをぐるぐる回るだけですもんね。じゃあ体が課題ですか?
ニシダ
そうです。
白武
でも解決していこうとは思ってないですよね。
ニシダ
行く気もないんですよ。
白武
朽ち果てていくのみってことですか?
ニシダ
なんかギリ我慢できそうなのがね。良くないんですよね。その全てが。腰痛とかもギリ我慢できる。本当に痛かったらもうなんとかするんですけど。
白武
泥船のように沈んでいくだけ?
ニシダ
そうっす。本当にそう。でも、もし40歳までに大きい病気をしたら、多分ガラッと生活を変えると思うんですよ。必要に駆られたら何か変えるだろうなとは思うんです。でも、必要に駆られないまま80歳になる怖さもあります。
白武
それはそれで貫いたわけですもんね。
ニシダ
そうですね。悪いことじゃないと思いますね。




