巨人・阿部慎之助監督、超一流選手の条件って何ですか?
就任3年目のシーズンがスタートする、現場の最高責任者・阿部慎之助監督をキャッチ。巨人が進めるさまざまな変革や選手の育成について、指揮官の頭の中にあることとは?
取材・文/Tarzan、中島大輔 撮影/下屋敷和文、吉松伸太郎、北尾 渉
初出『Tarzan』No.922・2026年3月26日発売

Profile
阿部慎之助(あべ・しんのすけ)/1979年生まれ。2000年ドラフト1位で巨人入団。09年日本シリーズMVP。12年には首位打者、打点王、最高出塁率を獲得し年間MVP。19年現役引退後は巨人二軍監督などを経て、24年から現職。
自分で考えて動き、稼ぐ。それがプロ野球選手なんです。
現役時代は2012年にMVPを獲得するなどプロ野球史上屈指の「強打の捕手」として通算19年間活躍し、抜群のリーダーシップで8度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献。19年にユニフォームを脱ぐまでジャイアンツの顔としてチームを牽引し、現在一軍を率いるのが阿部慎之助監督だ。

「昭和の頃から“ジャイアンツは強くあれ”と言われ、長嶋茂雄さんや王貞治さんをはじめ数々の名選手を輩出し、球界の盟主として歴史を築いてきました。そのために世間やマスコミの反応が、他球団とは多少異なるのがジャイアンツならではと感じています」
24年、第20代監督に就任。1年目からセ・リーグを制した。昨季は3位に終わり、「前進」とチームスローガンを掲げる今季は王座奪還を誓っている。

「プロ野球なので当然、必要な練習量をやらなければ勝つことはできません。それは僕にすれば普通のことだと思って口にすると、メディアには“地獄の練習”とか大袈裟に書かれちゃう(苦笑)。でも選手もプロなので、高い基準を求めていかなければいけない」
常勝を求められる巨人は令和のプロ野球でどう結果を残していくのか。「プレッシャーはないですけど、ストレスは感じますよね」と阿部監督は本音も。翌日の試合に向けて考えることは多く、夜中に目が覚めることも少なくないとか。年間143試合、さらにポストシーズンで決着をつけるプロ野球は過酷な世界だ。
テクノロジーも大事だし自分自身の感覚も大切です。
近年はボールの動きを自動追跡するカメラからスポーツ科学に基づくトレーニングまで、最先端の取り組みを球団主導で進める一方、阿部監督は独自の感性をうまくミックスさせている。

「今は理想のスイングに近づけようと思ったら、最新機器で計測し、自分の現状との差を詰めていくこともできます。そうやって数字に表れるからこそできるアプローチもあるけど、バッターは単純に来た球を強く打つという感覚も重要。テクノロジーの使い方は間違えてほしくないですね」
科学的根拠に基づいたアプローチは当然必要。打撃練習ではデータで打球速度やバットの入射角度を確認したうえで、阿部監督や首脳陣が自分たちの目で見た感覚と照らし合わせて選手を評価する。
「打球速度を見れば、この選手は春季キャンプまでにちゃんと練習してきたなとわかりますからね」
データと感覚は、互いを補完するような関係にあるのだ。

試合で高いパフォーマンスを発揮するには適切な栄養補給が不可欠だが、プロ野球選手のスケジュールは独特だ。一軍では夜の試合が22時頃に終わり、23時から焼き肉を食べに行くことも珍しくない。
「確かに理想的な食事時間ではないけど、次の日の練習や試合でカロリーを消費するし、食べられる時にしっかり食べることは大事。栄養バランスよく食べることも必要だけど、嫌いなものを食べるのはストレスになる。それなら好きなものをたくさん食べて、体重を減らさないほうがいい」
昔も今もプロ野球には大食漢が多く、「食が細くて大成した選手はいない」。若手の頃には後輩の坂本勇人を連れて朝から特盛りの蕎麦を食べることもあったという。
「朝から大変だったかもしれないけど、この世界で長くやっている人、すごい成績を挙げた人はみんな、たくさん食べますからね」
特に肉体的に成長途上の若手選手は、一定以上のカロリー摂取が不可欠になる。そこで阿部監督が二軍を率いていた頃、試合後の補食で「俺の監督経費から出すからハンバーガーにしてみよう」と試したところ大好評だったことも。常に教科書どおりに対応するのではなく、どうすれば一人ひとりの選手が力をより発揮しやすいかと思考を巡らせ、最善手を打つ。そうした対応も、選手たちを前向きに導くためには重要になる。


スポーツで重要な「心技体」という3要素をバランスよく高めることに加え、ジャイアンツが大切にしているのは「考」。一流プロ野球選手が決まって備える資質で、阿部監督は二軍を率いた20年には「考動(こうどう)」というチームスローガンを掲げた。
「考えて動く、動いてからまた考える。自分で考えて動くことが大事。ファームの若手選手たちには“プロ野球は学校の授業とは違う。自分で考えて動き、稼ぐのがプロ野球だよ”と口を酸っぱくして言いました。周囲のコーチをいかにうまく利用するか。成長するためには、周囲とちゃんと会話できることも重要な要素です」
指導者に教わるのではなく、選手が自ら学ぶ姿勢をいかに養わせるか。阿部監督が二軍を指導していた頃、入団したばかりの山﨑伊織や井上温大はファームで腕を磨いていたが、そこから投手陣の主軸に上り詰めた。今季優勝奪還を果たすうえで、二人には大車輪の活躍が期待される。

いざ新シーズンへ。就任3年目の阿部監督は胸を高鳴らせている。
「今年は新しいチームを作り直したいと思っています。育成と勝利を同時に行うのはとてつもなく難しいけれど、あえて難しいことに挑戦したい。我々も楽しみにしている選手が多いので、優勝してファンの皆さんに喜んでもらえるように、僕自身もいろいろ考えながら取り組んでいきます」
選手たちをどう伸ばし、リーグ優勝と日本一を勝ち取るか。チームの最善を引き出すべく、阿部監督はさまざまな策を練って臨む。


