エイジングの転換点は44歳と60歳。美容の最新キーワード12選。
老けない暮らしを目指すうえで欠かせないのは、人がなぜ老いるのかというエイジングの知識。細胞研究や百寿者の追跡調査などに携わる4人の専門家に、注目のキーワードを聞いた。
text: Kenji Inoue photo: Hiroki Oe
『Tarzan』No.926 on sale May 28

教えてくれた人
大平哲也(おおひら・てつや)/福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。60年以上にわたり1万人以上の日本人を追跡調査する「CIRCS研究」などに携わる。専門は疫学、公衆衛生学、予防医学、内科学、心身医学。
中西真(なかにし・まこと)/東京大学医科学研究所癌防御シグナル部門特任教授。医学博士。研究テーマは老化細胞と個体の老化制御。老化細胞を除去する技術開発は内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」に選定。
新井康通(あらい・やすみち)/慶應義塾大学看護医療学部教授、同医学部百寿総合研究センター長。医学博士。百寿者や110歳以上のスーパーセンテナリアンの疫学調査やバイオマーカー検査などで健康長寿の秘密を解明。
早野元詞(はやの・もとし)/東京理科大学研究推進機構総合研究院准教授。博士(生命科学)。一般財団法人ASAGI Labs代表理事。アメリカXプライズ財団によるコンペティション「XPRIZE Healthspan」に挑戦中。
44歳と60歳|長い人生、エイジングの転換点。
老化は1日ずつじわじわと進むというイメージもあるが、長い人生には2度老化が一気に加速するポイントがある。25〜75歳の108人を調べた2024年の論文によると、44歳と60歳に明らかな転換点があったのだ。
具体的には、44歳前後ではおもに代謝機能、60歳前後では加えて免疫や腎機能の衰えが進む。目の前に節目が迫った人は、『Tarzan』926号「老けない技術。」で紹介する、老けない習慣をチェックしたい。
ことに最初の転機に備えるには30代から、代謝を乱すメタボ対策に本腰を入れるべき。お腹を膨らませる内臓脂肪の蓄積による肥満を避け、血圧、血糖値、コレステロール値などを健康診断でつねにモニタリング。異変があれば軽視せず、担当医に指示を仰ごう。
「対策すれば、実年齢より最大10歳若々しくなることも可能。何もしないと逆に実年齢より10歳老ける恐れもあります」(福島県立医科大学医学部の大平哲也教授)
エイジングに訪れる2つの壁。

スタンフォード大学のグループは、対象者の血液、便、皮膚、口腔、鼻腔のサンプルからタンパク質や代謝物、微生物叢を含む13万種以上の生体分子を網羅的に計測。老化を示す44歳と60歳で分子レベルの急速な変化を発見。
平均寿命より健康寿命|後者を縮めることのリスク。
日本人の平均寿命は男性81歳、女性88歳。でも、老けない暮らしで延ばしたいのは健康寿命。平均寿命とは新生児が何歳まで生きるか(平均余命)。一方、健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されない生活期間」だ。
平均寿命と健康寿命の差は男性9年、女性12年で、その間は元気に人生を楽しめない恐れもある。この差をできるだけ縮め、人生を最後まで享受してこその長寿。平均寿命に関わる死因の1位はがん、2位心臓病、3位老衰、4位脳卒中。でも、健康寿命を縮めるリスクは少々異なる。
「健康寿命を縮める要介護になる原因は1位が認知症、2位が脳卒中、3位が骨折・転倒を含むフレイルです」(大平先生)
このうちトップ2の認知症と脳卒中に関わるのは高血圧。減塩や減量に励み、まず血圧対策。3位のフレイルは、加齢で心身が衰えて虚弱になった状態。予防には筋トレやタンパク質摂取が有効だ。
DNAのメチル化|遺伝子の働きが変化すると起きること。
遺伝子に何らかのエラーが起こるとその積み重ねでエイジングが促進されやすい。発端となるのが「DNAのメチル化」。そもそも遺伝子とはカラダを作り、機能させるタンパク質の設計図。その情報を記録する媒体が、DNA(デオキシリボ核酸)だ。
DNAは4つの塩基からなり、二重螺旋を描く。メチル化とは、塩基のうちのシトシン(C)につく水素が、メチル基に置き換わること。本来作られるべきタンパク質ができなくなる。このようにDNAの配列は不変なのに、遺伝子の働きが変わることを「エピジェネティックス」と呼ぶ。
「すべての細胞が持つ遺伝子は同じですが、心臓の細胞は心臓に関わる遺伝子、肝臓の細胞は肝臓に関わる遺伝子だけを読み出します。それを制御するのもDNAのメチル化。この仕組みが乱れると細胞が仕事をこなせなくなり、老化につながると考えられます」(慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの新井康通センター長)
メチル化のイメージ。

DNAを構成する塩基はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つ。このうちシトシンの水素がメチル基(M)に置き換わるのがメチル化。
エイジングクロック|老化の進行度の目安。
私たちは毎年誕生日を迎えると1歳ずつ歳を取る。これを実年齢または「暦年齢(クロノロジカル・エイジ)」と呼ぶ。だが、同い年の同級生でも、外見が若々しくて健康な人がいるかと思えば、見た目も老けてカラダのあちこちにトラブルを抱える人もいる。差はどこから来るのか。
この違いの背景にあるのが、老化の度合いを表す「生物学的年齢(バイオロジカル・エイジ)」。心身の機能レベルから割り出した年齢であり、暦年齢が同じでも一人ひとり異なる。暦年齢をカウントするのがカレンダーなら、生物学的年齢をカウントするのは「エイジングクロック(老化時計)」。老化の進行度の目安となる。
前述のDNAのメチル化は、2013年にアメリカ・カリフォルニア大学のスティーブ・ホーバス博士により、世界で初めてエイジングクロックの一つとして提案されたもの。それ以降多くのエイジングクロックが見つかっている。
老化細胞|細胞が老いることで、何が起きる?
ヒトは37兆個ほどの細胞からなる。その細胞から老化するのではないか。初めてそう言い出したのは生物学者ヘイフリック。彼はヒトの細胞を培養すると、分裂できる回数に限界(ヘイフリック限界)があることを発見。のちに、細胞内でDNAの束を収めた染色体の末端にあるテロメアが、分裂するたび短くなり、ヘイフリック限界を決めることも判明する。
その後、ヘイフリック限界以外に細胞の老化を示す重要な現象が見つかった。老化した細胞は、炎症を起こすサイトカインや酵素などを盛んに分泌し始めるのだ。
「老化細胞の多くは炎症性物質を分泌する。この炎症物質により、まだ老化していない細胞の働きまで落ちるのが、全身の老化の一因と考えられます」(東京大学医科学研究所の中西真特任教授)
老化細胞が生じる誘因は一つではなく、有害な活性酸素による酸化や遺伝子の損傷などが積み重なって生じるという説が有力。
未病|病気を招きにくいカラダになるには。
人体には200種以上の細胞がある。そのうち増殖する細胞それぞれに性質が微妙に異なる老化細胞が存在し、それが増えると炎症物質が広がり、炎症が慢性的に続く「慢性炎症」に発展。老化は進む。ウイルス感染や怪我などで起こる急性の炎症は正常な免疫反応だが、炎症がだらだら続く慢性炎症は細胞ストレスとなり万病の元。
「動脈硬化や認知症などにも慢性炎症が深く関わっています。老化自体は病気とまでは言えませんが、慢性炎症の蔓延で放っておくと病気を招きやすい“未病”の状態と捉えられます」(中西先生)
慢性炎症の進行度を捉えるマーカーは残念ながらまだ見つかっていない。でも、サインはある。
「一つは肥満。慢性炎症があると太りやすく、太って内臓脂肪が溜まると慢性炎症が促されるという双方向性があります」
未病を病気にしない鉄則は、適度な運動と食事管理により適切な体重と体脂肪率を保つことだ。
臓器老化|健康寿命を左右する“中身”の老化。
老化というと肌や髪の毛といった外見ばかり気になるけれど、健康寿命を左右するのは中身の老化。もっと言うと臓器の老化だ。
ことに老化に直結する臓器が、心臓、腎臓、肝臓。心臓はタフなポンプ。腎臓は血液を濾過してキレイにしており、肝臓は各種栄養素を巧みに代謝し、解毒なども一手に引き受ける。なかでも心臓と腎臓には「心腎連関」という深い関係があることも知られている。
「105歳以上の超高齢者は、それぞれのありようを表すバイオマーカー(病気の有無などを反映する生物学的指標)から、心臓、腎臓、肝臓の老化が遅いことがわかっています」(新井先生)
そして私たちにはもう一つ大事な臓器がある。他ならぬ脳だ。
「脳は神経細胞の固まり。神経細胞の健全度を反映するNfLというタンパク質の解析からも、超高齢者では神経細胞のダメージが少ない方が認知機能も高く、長生きなことが示されています」
バイオマーカーと死亡率の関係。

85歳以上の1427人を対象とした研究で、105歳以上に限りバイオマーカーと死亡率との関わりを分析。心臓と腎臓では悪化と関連するものが多いほど死亡率が高く、肝臓では状態の良さを示すものが低いと死亡率が高くなる。
出典/Hirata T, et al. Nat Commun 2020; 11: 3820.
YAMANAKA FACTOR|若返りを実現する可能性。
老化は不可避、若返りは不可能。その常識を覆す偉大な発見を日本人が行った。京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥先生だ。
すべての細胞は1個の受精卵から分裂を繰り返し、特定の役割や機能を持つ細胞に分かれる。これを「分化」という。一度分化した細胞は以前の状態に戻ったり、他の細胞に変わったりできない。
だが、山中先生が特定した4つの遺伝子を分化した細胞に入れると、初期化されて若返ったように他の細胞に分化できる。この4つの遺伝子が「山中ファクター」。それで初期化したのが「iPS細胞」だ。この偉業で山中先生はノーベル生理学・医学賞を受ける。
「山中ファクターを使い、若返りの実現を狙うベンチャーが世界中でしのぎを削っている。僕のボスで若返り治療の第一人者であるハーバード大学のデビッド・シンクレア教授は、緑内障患者さんの目の神経を山中ファクターで蘇らせる研究を進めています」(東京理科大学の早野元詞准教授)
スーパーセンテナリアン|元気な百寿者の特徴について。
100歳を超えて長生きする人も日本には大勢いる。彼らを1世紀(センチュリー)生き抜いたという意味で「センテナリアン」と呼ぶ。日本語では百寿者だ。
「1992年にセンテナリアンの調査を始めた頃は全国で5000人ほどでしたが、現在は9万人以上に上ります」(新井先生)
新井先生らがセンテナリアンの特徴を調べたところ、動脈硬化を招くプラークが少なくて血管年齢が若い、糖尿病や肥満が少ない、喫煙しない人が大半だった。ただセンテナリアンで、自立して健やかに過ごせているのは全体の20%程度。そこで新井先生らは元気なセンテナリアンを増やすため、110歳以上のスーパーセンテナリアンの研究も続ける。
「スーパーセンテナリアンは自立している割合が多く、糖尿病や高血圧といった血管に対するリスク因子も認知症も少ない。カラダも頭もしっかりしている人が110歳以上まで生きられるのです」
総人口に占める長寿者の割合。

5年ごとに行われる国勢調査からセンテナリアンとスーパーセンテナリアンになる割合を調べたもの。センテナリアンは1600人に1人、スーパーセンテナリアンは90万人に1人だ(110歳以上の人口は国勢調査のみで発表される。2025年のセンテナリアン人口は9万9763人)。
出典/『2020年国勢調査』から新井康通作成
タンパク質の品質管理|ただ摂ればいいわけじゃない!
筋肉や骨といったカラダを作るのはタンパク質であり、それを正しく機能させるのもタンパク質。
前述のように、タンパク質の作り方を書いたレシピブックが遺伝子。遺伝子が傷つくと、レシピ通りにタンパク質が作られない。こうして生じた不良なタンパク質が溜まるのも老化の引き金。たとえば、認知症へ導くアルツハイマー病はアミロイドβという異常なタンパク質の凝集により起こる。
「細胞内で異常なタンパク質を処理するのは、リソソームという小器官。その膜が何らかの理由で傷つくと、異常なタンパク質の処理が滞るだけでなく、細胞内が酸性化されて炎症性の物質を分泌。老化を促進します」(中西先生)
酸性化した細胞は周囲に迷惑が及ばないように自ら死を選ぶアポトーシスを行うが、老化細胞は悪賢く細胞内の酸性化を中和する酵素を増やして生き延びる。
「この中和酵素を阻害すれば老化細胞をアポトーシスに導き、老化進行が抑えられる可能性がある」
ブルーゾーン|健康な長寿者の多い地域。
世界には100歳以上の老けない強者たちが数多く暮らすエリアがある。それはイタリアのサルデーニャ島、日本の沖縄、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカ・ニコジャ半島、ギリシャのイカリア島の5つ。これを「ブルーゾーン」と呼ぶ。ロマリンダ以外は島か半島だ。
ブルーゾーンを調査したのは、研究者で探検家でもあるダン・ビュイトナー氏。現地での長寿者への聞き取りなどを踏まえ、民族や文化の違いを超えた共通点がブルーゾーンにはあると指摘する。
「それは日常生活で適度にカラダを動かしたり、全粒穀物や豆類といった植物性の食事を愛し、肉を控えめに食べたりするといった点です。この他、昔ながらの地域社会の絆が色濃く残っており、助け合いの精神が息づいていることなども挙げられます」(新井先生)
沖縄やイカリア島へ移住しなくても、ブルーゾーンを意識した暮らしを心がけるだけでも、老化のスローダウンにつながりそう。
行動選択|長寿とパーソナリティの関係性。
東京都健康長寿医療センターは60歳から85歳の高齢者とセンテナリアンとで性格を比べてみた。するとセンテナリアンには「外向性」「開放性」「誠実性」という共通する3つの性格が見つかった。
外向性とは、社交的で人との出会いに積極的な性格。開放性とは創造的で好奇心旺盛であり、誠実性は意志が強くて几帳面。
たとえば、105歳まで陸上競技選手として活躍し、世界記録も打ち立てた宮崎秀吉さん(2019年逝去)が陸上を始めたのは92歳になってから。大会に出るなど社交的で、いくつになっても新しいことに興味を持ち、これと決めたらやり続ける性格が、100歳を超えて現役アスリートとして勝負できた秘訣の一つだろう。
とはいえ、いまさら性格は変えられそうにないけれど……。
「性格を無理して変える必要はない。性格から導かれる行動(下記参照)を真似すればいいのです」
はい。それならできそうです!
長寿者の性格と行動。

出典/Age(Dordr). 2006 Dec; 28(4): 353-61.
