稲田弘、93歳。世界最高齢アイアンマンが走り続ける理由。
78歳でアイアンマン世界選手権に初出場。世界最高齢完走のギネス記録を打ち立てた93歳、稲田弘。その挑戦は、老いの常識を軽々と超えていく。
text: Mariko Uramoto photo: Naoto Date
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Profile
稲田 弘(いなだ・ひろむ)/1932年生まれ。NHKに勤務し社会部記者として活躍。退職後、60歳で水泳、69歳でロードバイク、70歳でトライアスロンを開始。78歳でアイアンマン世界選手権初出場。9年連続出場し、ギネス記録を持つ。
年齢を理由に、自分の限界を決めない。

78歳で世界一過酷な競技といわれる『アイアンマン世界選手権』に初出場。世界最高齢完走のギネス記録を持ち、93歳の今もレースに出場する稲田弘さん。きっかけは60歳で始めた水泳から。やがて70歳でトライアスロンに挑戦し完走する。そして76歳の時、アイアンマンレースに初挑戦するも、制限時間に間に合わず、無念の失格。
「あまりに悔しくて、うなだれていました。でも失敗したままで終わりたくなかった。自主トレでは限界があると思い、オリンピックを目指す選手も所属するトライアスロンクラブに加入したんです」
ハードな練習をこなす日々は過酷だったが、“絶対に完走したい”という思いが、力になった。そして、79歳で挑んだ世界選手権では年代別クラスで初優勝。競技の向き合い方にも変化が起きた。
「自分のためというよりも、応援してくれる人たちの期待に応えたいと思うようになりました。練習は毎日欠かしません。私の年齢になると、1日動かないだけでも筋肉が落ちてしまいますから」
トレーニングは、骨盤の動かし方や筋肉の使い方を試しながら、カラダと対話する時間でもある。
「今日は内腿を意識しようとか、膝の上の筋肉を使おうとか、考えながら走る。そうすると楽になったり、速くなったりするんです」

バイクやランはその日の体調や天候を見ながら内容を調整する。
最近は、膝の負担を減らすために、臀筋を使ってペダルを漕ぐフォームを研究。すると、これまでより速く坂を上れるようになり、若い選手を追い抜くことも。
また、若々しさを支えるもう一つの柱が食生活。現在は一人暮らしで、朝晩の自炊を欠かさない稲田さん。朝は果物を食べた後、たっぷりの野菜を入れたスープと、肉や貝類を入れた2種類のスープ、そこに全粒粉パン、豆乳を合わせる。夜は玄米、めざし、味噌汁、納豆キムチなど発酵食品を中心に。
「カラダは食べたものでできているから栄養バランスを意識して」
こうした食習慣を10年以上続けてきたことが、過酷なトレーニングを支える土台になっている。そして今、稲田さんには100歳までレースに出場するという目標が。
「年齢を理由に、やる前から諦めてしまう人は多い。でも、やってみると意外とできるんですよ。意識しながらトレーニングをすると、小さな変化を感じられる。それがタイムにつながる瞬間が何よりうれしい。できなかったことができるようになる。その喜びがある限り、人はいくつになっても成長できると思います」

世界最高齢完走のギネス記録を達成した、ハワイでのアイアンマン世界選手権のゴールの瞬間。沿道から大歓声が響き渡った。「あの光景は今も忘れられません」。
稲田弘さんの年表。
| 1992年 (60歳) |
退職後に水泳を始める。 |
| 2002年 (70歳) |
トライアスロンを始める。 |
| 2009年 (76歳) |
アイアンマンレースに初出場。 |
| 2011年 (78歳) |
アイアンマン世界選手権に初出場。 |
| 2012年 (79歳) |
アイアンマン世界選手権の年代別(80〜84歳)にて、 コースレコードで優勝。この記録は未だに破られていない。 |
| 2018年 (85歳) |
アイアンマン世界選手権の年代別(85〜89歳)優勝。 世界最高齢完走のギネス記録。 |
| 2025年 (92歳) |
アイアンマン70.3ケアンズの年代別で優勝。 |

