櫻間達也(ローイング)「まずはアジア競技大会で優勝を目指していきたい」
ローイングは体力的には非常に厳しく、高い瞬発力、持久力ともに求められる。日本の第一人者は世界を目指して日々格闘する。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2026年6月11日発売〉より全文掲載)
text: Ichiro Suzuki photo: Tsutomu Kishimoto
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Profile
櫻間達也(さくらま・たつや)/1997年生まれ。189.7cm、90kg、体脂肪率11%。2017年、全日本大学選手権男子シングルスカル優勝。20、21年、全日本選手権男子エイト優勝。22年、全日本選手権男子ダブルスカル優勝。24年、全日本ローイング選手権大会男子エイト優勝。25年、滋賀県国民スポーツ大会男子ダブルスカル優勝。同年、アジアローイング選手権男子ダブルスカル優勝。NTT東日本所属。
ローイングという競技は、スクワットを繰り返しているようなもの。
2025年にベトナムのハイフォンで行われたアジアローイング選手権。男子ダブルスカルで優勝したのが、櫻間達也だ。もともとボート競技と呼ばれたローイングはオリンピックでも歴史が古く、第2回の1900年パリ大会から行われている。
種目は大きくスカルとスウィープに分かれる。両手に1本ずつオールを持つのがスカルで、1本のオールを両手で漕ぐのがスウィープだ。スカルには1人で漕ぐシングル、2人のダブル、4人のクオドルプルがあり、スウィープには2人のペア、4人のフォア、8人のエイトがある。
アジア選手権で櫻間と組んだのは宮口大誠で、所属はNTT東日本と同じなのだが、2人で練習を始めたのは大会の2週間ほど前からというから驚きだ。ローイングは力一杯漕げばいいという競技ではない。技術が非常に大切だし、複数人で行う場合は動きの同調性も重要になる。

「3週間前には国民スポーツ大会が滋賀県であって、相方の宮口は滋賀県代表で4人乗りに、僕は京都代表でダブルスカルに出場していました。それぞれバラバラの艇に乗っていたんですね。ただ、同じチームでのエイトでは、彼がストロークという一番前(注・艇は後方へと進むので進行方向に対しては一番後ろ)に座っていて、僕はその次の7番だった。だから、彼の漕ぎを間近に真後ろで見ていたんで、どんな感じなのかはわかっていました。スタイルもだいたい知っていたので、それほど戸惑うこともなかったんですよ」
ただ、ダブルスカルとエイトではかなり違う。2人で漕ぐのだから、タイミングが少し狂えば失速するし、だからといって調子を合わせるだけではスピードに乗れない。大胆かつ繊細な動きが求められるのだ。

「選手権までに10回ぐらいしか一緒に乗る機会はなかったのですが、1回ごとの練習で感覚はどうだったとか、お互いにフィードバックしていって、ちょうどいいところを捉えていったんですね。本番では練習ですり合わせたことを、無自覚で発揮するというか……。あんまり考えてもダメですからね。それで互いのテクニックとかタイミングとかが一致すると、軽く漕いだだけですごく進んだりする。距離は2000mなんですが、中盤に体力を温存して、最後は持っている力をしっかり解放することで勝つことができたんです」
やってきたことへの自信が、決戦での勝利に結びついたのである。
レートを落とすことが、優勝へと繫がった。
同志社大学に入学し、歴史あるボート部でローイングを始めた。3年時には全日本大学選手権のシングルスカルで優勝する。それまで、出場したことすらない大会で、だ。そして、ここで今に至るローイングで大切な事柄を初めて学んだのだ。

「予選で3位までが準決勝進出だったのですが、4位で敗者復活に回った。そのときボート部のトレーナーが1分当たりの(漕ぐ)回転数、レートと言うんですが、これを4回ぐらい落としたほうがいいと言う。一本の伸びで勝負したほうが櫻間は勝てるって。それで練習して次の日の敗者復活戦で30秒ぐらいタイムが伸びて1位通過。このときは逆風だったのですが、決勝では順風(艇の進む方向へ風が吹く)になって。そこで敗者復活戦より少しだけレートを上げたら優勝に繫がったんです」
簡単に言えば順風では大きく伸びやかに漕ぐ。逆風では、それに抗うように強く漕ぐということか。ローイングは刻々と変わる自然環境に対応するテクニックがひとつ重要になってくるのだ。ただ、いくらテクニックに秀でていても、それだけでは勝てない。基本は体力だ。ダブルスカルであったら2000mで250回ほど漕ぐ。一回一回で大きな力を発揮し、それを継続しなくてはならない。つまり、瞬発力、持久力を兼ね揃えたカラダが必要なのだ。大きなポイントとなるのが脚だ。

「多くの人はオールを腕で漕ぐと思っているでしょうが、ローイングでは艇のシートが前後に動くんです。キャッチという動作でオールのプレートを水に入れて、つかむ。このとき膝が曲がり、シートは一番手前に来る。次のストロークではプレートで水を押し出す。このとき膝を伸ばしてシートを後方へ移動させ、同時に上体も後ろに倒す。つまり、下半身の屈伸運動、スクワットを繰り返しているようなものなんですよ」
そのためのトレーニングはローイングエルゴメーターで行う。このマシンは負荷を正確に数値化、制御できるのが特徴で、これを使えば自分の出力を視覚で確認できるのだ。

「たとえばレースより心拍数がやや高い状態をキープしたり、出力を上げるトレーニングがあります。わかりやすく言えば、本番では何度もジャンプするように膝を曲げ伸ばすのですが、練習では跳び箱の上に跳び上がるような、一瞬で大きな力を出すことを繰り返していくんです。これはかなり高強度になりますね」
もうひとつのポイントが背中の筋肉である。オールを引く動作は、この筋肉によって力強くなっていく。
「だから、背筋系のトレーニングは毎セッションやっています。ベンチプレスもやりますが、それは週に2、3回という感じですね。ほかにはスクワットやデッドリフト、それにクリーンなんかも取り入れています。持久系はといえば、これもエルゴメーターですね。低強度で、もう何百回とか何千回とか漕ぐので、日々鍛えられていると思いますよ」
競技人生の集大成は2年後。オリンピックでメダルを獲得したい。
今年9月、名古屋でアジア競技大会が開催される。櫻間は3月中旬に行われた代表選考会で1位となり、シングルスカルでの出場が決まっている。そして、この大会では未だ日本人の優勝者は出ていない。

「もちろんそこを目指したいです。まだやれることはある。今、体力レベルでは日本でトップだし、外国選手にも対抗できると思っています。ただ、水上でのカラダの使い方、テクニックは改善する余地がある。たとえば、勝とうと緊張してしまうと、肩に力が入る。するとカラダの重心が上に来てしまって、艇を安定できなくなる。リラックスして、全体をしなやかにしていられれば、艇の揺らぎにも対応しやすいし、水の抵抗もかかりにくくなる。今季から日本代表のヘッドコーチになったオーストラリアのマックス・ロワンさんは、水上で静止した状態で行う、基礎動作の確認を非常に丁寧にする方で、テクニカルな部分は伸ばしていけると思う。集大成として、2年後のロサンゼルス・オリンピックでメダルを獲得したいんです」


