40歳を越えての発症が半数
日中は普通に活動できるのに、夜中や明け方に咳き込んで目が覚める。花粉の飛散する時期は咳だけでなく、鼻の状態も悪化しがち。そんな人は成人喘息の疑いがある。
成人喘息は過去30年間で約3倍に増加したという報告がある(厚生労働省)。いまでは10~20人に1人の成人が罹患し、その半数以上が40歳を越えてからの発症だという。
喘息の年齢別・性別総患者数(2014年)
「その場しのぎ」を続けてはいけない
早期に発見し、治療を開始すれば成人喘息はよくなる。だが、市販の咳止めなどでその場しのぎを続けると、気管支は回復不可能な状態になることがある。気管支の断面図を見てほしい。
気管支の断面図
正常な気管支は内腔がしっかりと開き、気流に妨げはない。ところが、喘息の発作を繰り返すうちに、炎症を起こした気管支の壁は厚くなり、次第に気道は狭くなり、呼吸しづらくなっていく。
こうなると喘息の発作はますます起こりやすくなり、気管支の壁はさらに厚くなっていく。困ったことに、いったん厚くなった気管支の壁を元に戻すのは不可能。こうした気管支の不可逆的変化をリモデリングと呼ぶ。
3週間以上咳が続いていたら、咳喘息の疑いがある。また、何らかのアレルギーを抱えているなら、1週間をめどに受診すべきだ。必ずリモデリングが起こる前に呼吸器内科の喘息専門医にかかることだ。
「炎症性疾患」が隠れている場合も
だが、早期に受診し、気管支だけ治療を受けても、思うようによくならない人もいる。その背景にアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの炎症性疾患が隠れていることが多く、その悪影響があるからだ。
鼻から肺の奥(肺胞)まではひと連なりの気道。鼻に炎症があれば、そこを治さないと鼻汁が喉の奥まで垂れ落ち(後鼻漏という)、その中に含まれる炎症性サイトカインが気管支の奥まで炎症を広げる。
鼻の炎症が多彩な疾患を合併しがちなのは、下図の通り。そして、アレルギー性鼻炎の患者は多い。
鼻の炎症が一因となる病気・症状
驚くなかれ、日本人のアレルギー性鼻炎の有病率は49.2%に上るという(『鼻アレルギーの全国疫学調査2019』)。ということは、2人に1人はいつ喘息を発症してもおかしくないのだ。
治療に広く用いられる吸引ステロイド
鼻に炎症がある喘息患者は鼻と気管支、ともに治療を受けると効果的だ。ダニアレルギーの人は舌下減感作療法を受けるといい。この治療は喘息の発症自体への予防効果が認められている。
初期の気管支喘息ともいえる咳喘息には気管支拡張薬、炎症を抑える吸入ステロイドが広く用いられる。その効果は高く、多くの場合1~2週間で咳の症状は改善できる。
ステロイドの吸入剤は局所に効くだけで、ほとんど副作用はない。妊婦が使用しても問題はない。喘息治療におけるステロイド剤の出現は革命で、かつて甚大だった喘息死を劇的に減少させた。
吸入ステロイド(含配合剤)と喘息死の推移
ただ、ここで重要なのは症状が軽くなっても、自己判断で薬をやめないことだ。完治を待たず薬を中止すれば、リモデリングがひそかに進行し、再発・重症化する可能性がある。薬のやめどきは医師と十分に相談をして決めよう。
ステロイド以外にもできることは多い
このほか一部の医師、医療機関が行っている治療にBスポット療法というものがある。主に耳鼻咽喉科で慢性上咽頭炎の治療に用いられる術式だが、これを受けると喘息と同時にアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などの症状をやわらげることが期待できる。
Bスポット療法(保険適用)
また、治療の効果を後押しする自助努力に鼻うがいがある。市販品も利用できるが、洗浄液は手作りも可能だ。
鼻の炎症を鎮める鼻うがい
- 頭を逆さにして、容器から洗浄液を左右の鼻に2~3mLずつ流し込む。通常の姿勢で立っては副鼻腔内の篩骨洞が洗浄しにくい。
- ゆっくり深く息を鼻から吸い、口から出す。1セット5回、1日2~3セット。終了後は頭を上げて、鼻をかむ。
洗浄液の作り方・使い方
水100mLに食塩1g、重曹0.5mgをよく溶かし、使用のたびに1回分ずつ清潔なプラスチック容器に取る。1か月冷蔵保存可能。
これを使って1日2回程度、副鼻腔を洗浄すると、鼻の炎症が鎮まり後鼻漏も減る。ひいては気管支の炎症も軽くなるはずだ。
喘息を悪化させる因子も意識
他にも生活の中にある喘息を悪化させる因子を取り除けば、治療効果も増すだろう。たとえば禁煙はもちろん、他人のタバコによる受動喫煙にも用心すること。コロナだけでなく、呼吸器の感染症は間違いなく悪化因子だ。マスク、手洗いは今後も必須だ。
メタボリックシンドロームや肥満だと、内臓脂肪から炎症を促すサイトカインが分泌されるから、適正体重を維持しよう。
2006年調査におけるBMIと喘息期間有症率の関係
ストレス、急な温度変化や大気汚染も喘息の敵。なかには運動が引き金となって発作の始まる人もいる。こういう人は処方された薬をしっかり吸入、服薬し、準備運動に時間をかけるといいだろう。
残念ながら成人喘息は長い闘いになることが多い。一度診断がついたら、症状のない時期も自己判断で通院を怠ると非常に危険だ。担当医の指示を守って、定期的に検査、治療を受け続けよう。