睡眠不足も「ツボ押し」で調える|東洋医学と自律神経①
五臓六腑のうち、「胆」が弱いと優柔不断になり、内臓の働きも乱れがちに。すなわち自律神経のバランスを崩すリスクが高くなる。これを防ぐのが東洋医学の真骨頂のツボ刺激だ。
取材・文/石飛カノ 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/小野寺光子 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.821・2021年10月7日発売
教えてくれた人
瀬戸郁保さん/〈源保堂鍼灸院〉院長。東洋医学の学問と技術を集約させた伝統的な「本治法」を中心に治療を行う。短時間でカラダに負担をかけない鍼灸治療には定評あり。genpoudou.com
ツボ押しで自律神経バランスを調える
古代中国では陰陽という基本的な二元論をベースに、宇宙の万物を5つの要素に分ける「五行説」という哲学が生み出された。これを五臓六腑に当てはめたのが下の図。この考え方でいうと、五臓の“肝”と六腑の“胆”は同じグルーピングとなる。
五臓六腑の関係
「肝は言ってみれば将軍で、力はありますが勝手に暴走しがちです。それをコントロールするのが胆。胆は決断を司る臓腑で、“肝が太い”とか“胆力”があるという言葉はここから派生したものです」(鍼灸師・瀬戸郁保さん)
胆が弱いと優柔不断になり、内臓の働きも乱れがち。すなわち自律神経のバランスを崩すリスクが高くなる。これを防ぐのが東洋医学の真骨頂のツボ刺激。すべての人がまず押すべきは、胆を助けるツボだ。
胆を助ける2つのツボ
ツボの正式名称は経穴。その名の通り、経絡上に位置するエネルギーの出入り口。でたらめに並んでいるのではなく、目的の臓腑に影響を与えるツボが規則性に従って並んでいると考えてほしい。
胆の経絡は目の縁から始まり、側頭部をぐるっと回って、耳の下から体側部を通り、太腿横をまっすぐ下って足の薬指に至る。日月は脇の下にあるツボから続く肋骨内にあるツボ。足臨泣は胆の経絡の終点近くにあるツボだ。押して痛みを感じる方を重点的に刺激しよう。
睡眠に悩む人はカラダの前後の経絡に着目
12本ある経絡は全身に気をぐるぐる循環させる大河のような本流ルート。これ以外に、大河の流れの連携を調える8本の経絡の支流がある。前者を「十二正経」、後者を「奇経八脈」と呼ぶ。
で、この「奇経八脈」に当たるのがカラダの前後を流れる督脈と任脈という経絡だ。
胆のツボは万人共通。奇経のツボは症状別。コロナ禍で朝の起床時間が遅くなり、交感神経のスイッチが入りにくい人は督脈にあるツボ、夜更かしの習慣がついて寝つきが悪いという人は任脈にあるツボを刺激してみてほしい。
朝起きられない人のツボ
督脈に関わるツボは背中から後頭部、額周辺以外、末端の四肢にもある。四肢にあるツボは少々強めに、後頭部や額周辺のデリケートな位置にあるツボは指で軽めに刺激することがポイント。
鍼灸治療は本来、問題の症状が見られる時間に合わせて施術するのがセオリー。というわけで、朝起きられずにベッドの中でゴロゴロしているときに刺激するのがおすすめだ。すべてのツボを刺激しなくてもよし。目覚めの感覚が得られやすいツボを探そう。
夜寝つきが悪い人のツボ
夜眠れないという人はカラダの前面にある任脈を助けるツボを基本にし、足の裏、耳の後ろにある睡眠に有効とされるツボを刺激。
こちらも朝のツボ同様、刺激のタイミングは問題症状が見られるときに。たとえばバスタイムに浴槽の中で失眠穴や関元を押す、ベッドに横になったときに安眠や璇璣を押すなどすると、即効性が期待できる。
一生懸命押すと筋収縮が起こって眠りにつきにくくなるので、指で触れる程度でOKだ。
ツボの押し方の基本とバリエーション
指で圧をかけるときの基本は、カラダの中心に向かって垂直に押すこと。2〜3秒かけてゆっくり押し、2〜3秒かけてじんわり離す。指圧がしんどい場合はペンで押す、米粒を貼るなどしてもよし。
顔や頭以外の部位は、できればお灸で刺激を入れるのがおすすめ。ツボの奥にまで刺激が入るため、効果が得られやすいからだ。手軽にセルフお灸ができる製品を使ったり、ペットボトルにお湯を入れてツボに当てる、お湯で温めたスプーンの柄で刺激するというやり方もあり。