若々しさを保つには?アンチエイジングのホルモン学

歳を重ねるごとに、同じ年齢でも若く見える人、老けて見える人の差は大きくなる一方。この差は一体どこからくるのか。若見えを握る鍵は5つのホルモン。意外にもちょっと習慣を変えるだけで、どうやらドバドバとこれらのホルモンは増えそうなのだ。朗報の詳細をいざ!

取材・文/井上健二 取材協力/米井嘉一(同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授)

初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売

若々しさを保つには?アンチエイジングのためのホルモン学

ホルモンパワーで老化に抗う

年齢より若く見える人、老けて見える人。その違いはどこにあるのか。

「それは実年齢(暦年齢)と、心身の機能レベルで判定する機能年齢の差。心身の機能が高ければ、暦年齢より機能年齢は若くなり、見た目にも影響を与えます。アンチエイジングとは、機能年齢の老化予防と若返りのことなのです」(同志社大学生命医科学部の米井嘉一教授)

機能年齢は個人差が大きく、同じ人でもパーツによって差がある。医学的には、筋肉、血管、神経(脳)、内分泌系(ホルモン)、骨という5つのパーツに分けて考える。

ホルモンパワー 老化

老化度を医学的に判定する項目には、血管年齢、筋年齢、骨年齢、神経年齢(脳年齢)、ホルモン年齢の5つがある。それぞれの年齢の平均値と比べて、劣っているか・勝っているかで相対的な評価が下される。

機能年齢と深く関わるのが、ホルモン。ホルモンがきちんと働けば、筋肉、血管、神経、骨などの機能年齢が若くキープできて、過度なエイジングは抑えられる。

一方、ホルモンの働きを邪魔し、機能年齢を老けさせる危険因子には、酸化、糖化、免疫、心身の4大ストレス+悪しき生活習慣という5つがある。

機能年齢を老けさせる危険因子

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① 酸化ストレス:呼吸で吸う酸素の約2%は反応性の高い活性酸素に変わり、酸化で細胞を傷つける。抗酸化酵素の力を超える酸化が続き、酸化ストレスが増える。

② 糖化ストレス:糖質、脂質などに由来するアルデヒドがタンパク質と結びつき、AGEs(終末糖化産物)が生じるリスクが高い状態。酸化や炎症も進めてしまう。

③ 免疫ストレス:免疫力には感染への防衛力と、がんなど異常な細胞と正常な細胞を見分けて排除する能力がある。酸化や糖化で落ち、老化を促すストレスとなる。

④ 心身ストレス:精神的、化学的、物理的な力が加わり、体内環境を一定に保つホメオスタシスが崩れると、心身のストレスに。酸化が進み、生活習慣も乱れる。

⑤ 生活習慣:老化に響く生活習慣には、睡眠、飲酒量、運動量、屋外での活動量(紫外線を浴びる量)などがある。これらは免疫力低下や酸化ストレスの増大を招く。

今回は機能年齢を若返らせ、アンチエイジングを促すホルモンを5つピックアップ。それぞれがエイジングといかに関係するか。危険因子を避け、ホルモンを味方につける具体策には何があるのか。考えよう。とくに、見かけが実年齢より老けていると自覚するタイプは要注意。

「外見と中身は表裏一体。老けて見える人の8~9割は、カラダの内側も老けている恐れがあります」

機能年齢が若い人と、老けている人。その差を生み出す5つのホルモンの機能や特徴を見ていこう。

① 成長ホルモン

アンチエイジングホルモンの代表は成長ホルモン。成長ホルモンを分泌するのは、脳の下垂体。そのまま作用する場合もあるが、多くは成長ホルモンにより、肝臓や筋肉で作られるIGF-1を介して働く。

成長ホルモンは、その名の通り、筋肉や骨などの成長を促し、子どもから大人へのカラダの成長と成熟を支える。成長が終わると分泌量は減ってくるが、大人も分泌しており、細胞の新陳代謝を促して全身にアンチエイジング作用を発揮する。

一日の成長ホルモンの分泌には、波がある。もっとも分泌されやすいのは、就寝して2~3時間後に訪れる深い眠りの時間。睡眠中に行われる心身のメンテナンスをサポートする。眠りの質が下がり、深い眠りが得られないと、成長ホルモンの分泌量が落ち、エイジングは進みやすい。

成長ホルモンは、筋トレやランなどの運動時にも分泌されるから、適度な運動も不可欠だ。加えて大事なのは、一日のうちに空腹の時間をちゃんと設けること。

「胃が空っぽになると、胃から食欲を促すグレリンというホルモンが分泌されます。グレリンが成長ホルモンの分泌を促してくれるのです」

成長ホルモンは、血糖値を上げたり、体脂肪を分解したりする。だから、空腹時のエネルギー不足に備えるため、グレリンが成長ホルモンの分泌を促進するのだろう。空腹=若返りの時間とポジティブに捉え、間食、ダラダラ食い、夜食を避けよう。

② DHEA

次に目を向けるホルモンは、副腎皮質で作られるDHEA。男性ホルモンや女性ホルモンなど、多くのホルモン合成に関わる“マザーホルモン”だ。

男性ホルモンは筋肉や骨を保ち、意欲や集中力を高めるし、女性ホルモンは自律神経のバランスを整える。この他、DHEA自体も免疫力を上げたり、炎症を抑えたりして、アンチエイジングを支援する。DHEAを減らさないために重要なのは、ストレスマネジメント。

ストレス下では、副腎からコルチゾールというホルモンが分泌される。DHEAもコルチゾールも、原料はコレステロール。ストレスが長引き、コルチゾールの需要が高まると、材料不足でDHEA分泌が滞りやすい。

また、コレステロールからDHEAを合成するには、ビタミンB群やCが欠かせない。未精製穀物やレバーなどからB群、緑黄色野菜や果物などからCを摂ることもお忘れなく。抗酸化と運動もDHEAを守る。

「副腎の細胞内の脂質が酸化してリポフスチンという老廃物が溜まると、DHEAの分泌が落ちます。また、筋肉量が多い人ほど、DHEAの分泌量は多いことがわかっています」

最後にDHEAの不思議なお話を。

「ホルモンは、キャッチする受容体を持つのが普通ですが、DHEAの受容体は未確認。DHEAは脂溶性ホルモンで、脂でできた細胞膜を通過できます。おそらく細胞核内に侵入し、遺伝子の発現を調整する核内受容体に働きかけるのでしょう」

③ メラトニン

生活習慣の中でも、アンチエイジングを大きく左右するのは眠り。成長ホルモンなどによる睡眠中のメンテで、機能年齢は若返る。寝る子は育ち、寝る大人は老けないのだ。

その眠りをコントロールするのが、メラトニンというホルモン。メラトニンの原料は、セロトニンという別のホルモン。暗くなると、セロトニンからメラトニンを作る酵素の活性が上がり、夜間に分泌量が増える。

朝起きて、朝日を目の網膜でキャッチすると、メラトニン分泌がストップ。体内時計が24時間周期に正確にリセットされる。半日経って暗くなると、メラトニンが分泌され始め、眠る準備をしてくれる。

眠るのが仕事のような子どもでは、メラトニンの分泌量は多い。だが、加齢でメラトニンの分泌量は落ち、70~80代では、子どもの頃と比べて20分の1くらいまで落ちるとか。

メラトニン分泌を促すため、体内時計のリズムに従い、起きている間は明るいところで活動的に過ごし、日が落ちたら強い光を浴びずに休息。明暗と活動&休息のメリハリをつける。光刺激はメラトニン分泌をダウンさせるから、夜間は照明を落とし、できるだけ暗くして眠ることが大切。

「光だけではなく、騒音を抑えることも大事。不快な音を吸収する調音パネルを用いると、メラトニン分泌が上がることがわかっています」

こうして最低7時間の睡眠時間を確保。ひどいイビキを伴う眠りは質が悪く、メラトニン分泌も望めない。

睡眠だけじゃない。酸化&糖化もブロック

さらにメラトニンは、老化の危険因子である酸化も糖化もダブルでブロックする、頼もしい活躍を見せる。

初めに抗酸化作用について。体内で酸化を促す毒性がもっとも高いのは、ヒドロキシルラジカルという物質。抗酸化ビタミンや抗酸化酵素の多くは歯が立たない超悪玉だが、メラトニンはヒドロキシルラジカルを効率的に処理してくれる。

「目が見えない人は、がんの発生率が低いことが知られています。それは網膜が光刺激を受けにくいと、日中もメラトニンの分泌量が落ちづらいため、がんの引き金となる酸化が抑えられるためと考えられます」

続いては、抗糖化作用について。糖質を摂りすぎ、食後に血糖値が跳ね上がる食後高血糖が起こると、体内でAGEs(終末糖化産物)という物質が作られる。AGEsはカラダのタンパク質の機能を阻害する。

見た目を老けさせる肌のシミやシワも、肌を作るタンパク質であるコラーゲンにAGEsが沈着して生じる。AGEsは酸化を進める働きもある。AGEsは一度溜まると排泄されにくい厄介者だが、メラトニンはこのAGEsを分解してくれる。

この他、免疫を担う細胞には、メラトニンの受容体があり、メラトニンは免疫細胞を激励して免疫を活性化する。免疫力が上がれば、細胞のがん化や老化も抑えられる。メラトニンは八面六臂の最強アンチエイジングホルモン。メラトニン推しの生活で、眠りながら若返ろう。

調音パネルでメラトニンが増える
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不快な音を吸収し、快適な音を残す特性がある調音パネルを被験者10人の寝室に置いて、尿中のメラトニン代謝物の量を調べた。調音機能を持たないパネルを置いたときと比べ、調音パネルを置いた方がメラトニン量は増えている。Glycative Stress Research 2020; 7(2): 123-131

④ アディポネクチン

橋や上下水道といった社会的インフラの老朽化が話題だが、人体でいちばん大切なインフラといえば、血管。隅々の細胞に必要な酸素と栄養素を届け、不要な二酸化炭素や老廃物を回収する。だから、「人は血管とともに老いる」というように、血管の老朽化は、全身の老化に直結する。

血管の老朽化の正体は、動脈硬化。動脈がしなやかさを失い、硬くなり、血栓という血の塊が詰まりやすくなった状態だ。血流が悪くなるし、血管で血栓が詰まると、心臓病や脳卒中といった死に至る病を招く。

この動脈硬化を防ぎ、血管の老化に待ったをかけるのが、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンというホルモン。その役割は多彩だ。

動脈硬化の発端は、酸化。余分なコレステロールが血管内に入り込み、酸化されると、ドミノ倒し的に動脈硬化が進行する。アディポネクチンには優れた抗酸化作用があり、動脈硬化の出鼻をくじく。

老化を進める糖化を抑える働きもある。血糖値を下げ、糖化を抑えるのは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモン。肥満や加齢などで、このインスリンの効き目が落ちる「インスリン抵抗性」が生じる。アディポネクチンは、インスリンの効き目を上げ、抵抗性を抑えて糖化にブレーキをかけてくれる。

分泌に必要なのは「適正体重」を保つこと

アディポネクチンを十分分泌させるために気をつけたいのが、適正体重を保って太りすぎないこと。肥満とは体脂肪の溜まりすぎ。すると、体脂肪を抱える脂肪細胞が肥大化。こんな脂肪細胞では、アディポネクチンの分泌量は減ってしまう。

ことに、お腹の奥に溜まる内臓脂肪が増えすぎる内臓脂肪型肥満になると、アディポネクチンが減るだけでなく、動脈硬化を加速させる悪玉ホルモンが増える。血圧を上げて血管に負担をかけたり、インスリン抵抗性を起こしたり、血栓を生じやすくしたりする物質が分泌されるのだ。

膨らんだ脂肪細胞で、なぜアディポネクチン分泌が減るのか。長年謎だったが、近頃詳しいメカニズムが判明した。糖化が原因だったのだ。

「脂肪細胞で合成されたアディポネクチンは、3つの分子が結合した三量体を2つ合体させて、6分子の六量体として、細胞膜を通って分泌されています。ところが、脂肪細胞内のミトコンドリアが糖化ストレスでダメージを負うと、六量体が形成されにくくなる。それにより、細胞膜をうまく通れなくなり、アディポネクチンが減ってしまうのです」

アディポネクチンで血管を守るなら、適正体重まで痩せるのが先決。体重(kg)÷身長2(m)で求めるBMIは22が理想で、「身長2(m)×22」が適正体重。身長170cmなら1.7×1.7×22≒63.6kgだ。

減量には、運動が有効。内臓脂肪は、運動で分泌されて体脂肪を分解するアドレナリンの感受性が高く、ウォーキングなどの有酸素運動で減りやすい。ひと駅分歩くなどの工夫を重ね、内臓脂肪を減らしたい。

アディポネクチンが少ないと心臓病になりやすい
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血中の脂質、血糖値、血圧、肥満といった要因を統計的に補正し、血漿中のアディポネクチン量と冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の罹患率を調べた。アディポネクチン量が4.0㎍/mL未満だと、罹患リスクが約2倍になっている。Kumada M. Kihara S et al., Arterioscler Thromb Vacs Biol 2003

⑤ オキシトシン

オキシトシンは、出産と授乳に欠かせないホルモンとして知られる。そもそもオキシトシンは、出産時に子宮を収縮させるホルモンとして発見された。オキシトシンは、子宮収縮剤や陣痛促進剤の主な成分だ。

出産後、赤ちゃんがママの乳首をくわえると、その刺激でオキシトシンが分泌。オキシトシンが母乳を作る乳腺の筋線維を収縮させると、乳頭から母乳がたっぷり出てくる。

出産も授乳もしない男性でも、オキシトシンは分泌される。オキシトシンには、家族や仲間との絆や信頼感を高める作用があるからだ(男性でも、乳首への刺激でオキシトシンは分泌されるという)。

オキシトシンは、酸化を進めて老化のアクセルを踏むストレスと対抗する武器でもある。愛情ホルモン、幸せホルモンとも呼ばれるように、気持ちをハッピーにし、ストレスを和らげるのだ。ストレス解消には、心の痛みや不安をシェアしてくれる仲間のサポートも心強いが、オキシトシンはそうした絆を強化する。

前述のように、ストレスがあると、副腎からコルチゾールというホルモンが分泌される。そしてコルチゾールとオキシトシンには、互いの分泌を抑える関係がある。

コルチゾールは、オキシトシンの分泌を抑えるし、オキシトシンは、コルチゾールの分泌を抑えるのだ。コルチゾールが出すぎると疲労も老化も進むから、オキシトシンでコルチゾールの過剰な分泌をセーブすることも有益だ。

この他、オキシトシンには、炎症を抑える抗炎症作用、筋肉や骨や神経を保護して再生させるといった多様な働きがある。最新の研究では、オキシトシンは肌の細胞からも分泌されており、表皮の再生を促すなど、肌のアンチエイジングにも一役買う。

オキシトシンは、ハグなどのスキンシップでも分泌が促される。ハグする相手がいなくても大丈夫。触り心地のいいペットや、ぬいぐるみを抱き締めるだけでも、オキシトシンは分泌されることがわかっている。

オキシトシンとAGEsの面白い関係

オキシトシンに関して、最近ちょっと面白いことがわかってきた。糖化で生じる悪玉物質のAGEsが、オキシトシンに関しては、どうやらポジティブに働いているらしいのだ。

オキシトシンは脳下垂体から分泌され、一周回って脳で働く。脳へ入る血管には、血液脳関門という関所のような仕組みがある。その血管の内皮細胞には、オキシトシンをキャッチして脳内へ誘導する受容体がある。それが、AGEsと結合するRAGEという受容体なのである。

「AGEsは、糖質やタンパク質を含む食べ物を加熱すると生じます。これはメイラード反応と呼ばれており、こんがり焼けた食べ物の美味しさの元。人類が火を使うようになると、食べ物から入るAGEsが増え、それにつれて受容体であるRAGEも増えたのでしょう。

それでオキシトシンが脳内に入りやすくなり、その作用で脳が大きくなったり、社会的な絆が強くなったりして、人類は文化や文明を発展させることができたという解釈も成り立つのです」

食後高血糖で生じる無駄なAGEsや高温加熱で焦げすぎのAGEsはNGだが、トーストや粉モンのようにこんがりキツネ色に焼けた料理のAGEsは、適量ならオキシトシンを脳へ導くのにプラス。そうした食べ物を仲間と美味しく味わう機会を増やせば、オキシトシンが増えて働きやすくなり、若返りも叶いそう。