細胞レベルで代謝を上げる。「魚を食べる」で痩せる理由

牛丼やハンバーガーばかり食べているうちに太ってしまった。そういうタイプは、1日最低1回は魚を食べる「魚食」にトライしよう。魚介類を食べると、細胞レベルで代謝がアップ。肉と違って生食できるので、痩せるのに欠かせない大事なアミノ酸も効率的に摂取できる。魚を食べるだけで痩せ体質になれる理由を解説。

取材・文/井上健二 撮影/藤本和典(モデル) スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/岩崎真宏(日本栄養コンシェルジュ協会代表理事、管理栄養士)

初出『Tarzan』No.841・2022年9月8日発売

細胞レベルで代謝を上げる。「魚を食べる」で痩せる理由

海に囲まれている日本では、魚介類は大事なタンパク源。日本人は世界に冠たる魚好きだったが、漁獲量の減少や嗜好の変化で、魚の消費量は減っている。

いわゆる「食の欧米化」が進み、肉類の消費量が右肩上がりを描き続けているのと対照的に、魚介類の摂取量は右肩下がり。昔は魚介類の摂取量の方が多かったのに、2010年前後に形勢逆転。いまでは肉類の摂取量が魚介類を上回る。

魚介類の消費量推移

ピーク時の2001年は1人当たり年40kg以上(1日約110g)の魚介類を消費していたが、2017年は年間24.4kg(1日約67g)に。別の最新調査では1日約64gとピーク時の58%まで減っている。出典/農林水産省「食料需給表」

お肉を食べることも悪くはないけれど、魚介類はタンパク源となるほかにも、適正体重へ導いてくれる優れた機能性が次々と見つかっている。

この記事では、魚食で痩せる理由を解説。缶詰やチルド製品など、魚を手軽に食べる方法はいくらでもある。魚をモリモリ食べる「魚食」生活にスイッチし、痩せ体質を手に入れよう!

理由① 細胞膜を柔らかくし、細胞レベルで代謝を上げる

カラダはおよそ37兆個もの細胞からなる。その細胞を一つひとつ包んでいるのが、細胞膜。糖質脂質などのエネルギー代謝は、細胞内のミトコンドリアで行われる。代謝をスムーズに進めるには、さまざまな物質が細胞膜を通り、ミトコンドリアまで運ばれる必要がある。

「この細胞膜の機能を高めるのが、サバ、イワシ、サンマといった青魚などに含まれる必須脂肪酸であるEPAとDHA。細胞膜の機能が上がれば、細胞一つひとつの代謝がアップするので、細胞レベルで太りにくい体質に変身できるのです」(管理栄養士の岩崎真宏さん)

摂ったEPA、DHAは、細胞膜を作るリン脂質に取り込まれる。すると細胞膜が柔らかくなり、いろいろな物質が通過しやすくなるのだ。

さらに大きな影響を受けるのが、血中の赤血球。37兆個の細胞のうち、およそ28兆個は赤血球である。

エネルギー代謝には酸素が不可欠。赤血球はその酸素をカラダの隅々まで運ぶ。毛細血管の細いところは赤血球の直径より狭いから、赤血球は変形能を持ち、身をよじるように難所を通り抜ける。

EPAとDHAが赤血球の細胞膜を作ると、変形能が向上。酸素が全身に行き渡り、エネルギー代謝が一層活性化するのだ。

理由② 脂肪を溜める白色脂肪細胞を、脂肪を燃やすベージュ細胞に変える

青魚などに含まれるEPAとDHAには、細胞膜を柔軟にする以外にも驚きの作用がある。脂肪細胞の性質をガラリと変えて、体脂肪が燃えやすい体内環境へと導くのだ。

脂肪細胞には、詳しく見ると2つのタイプがある。ひとつ目は、体脂肪を溜めるおなじみの脂肪細胞。顕微鏡では白っぽく見えることから、白色脂肪細胞と呼ばれる。2つ目は、体脂肪を燃やしてくれる脂肪細胞。顕微鏡では茶色く見えるので、褐色脂肪細胞と呼ばれる。

褐色脂肪細胞は、エネルギー代謝の要となるミトコンドリアを多く含む。そのミトコンドリアには、UCP1という特殊なタンパク質が備わり、体脂肪を空焚きして熱に変える。

褐色脂肪細胞が多ければ、代謝が上がって太りにくいはず。新生児や乳幼児は多くの褐色脂肪細胞を持つが、成長につれてその数は減る一方。大人がV字回復させるのは難しい。

そこで登場するのが、EPAとDHA。両者は、何の変哲もない白色脂肪細胞を、褐色脂肪細胞に似た性質を持つ「ベージュ細胞」に変えて、安静時に体脂肪を燃やしやすくしてくれるのだ。毎日青魚を食べよう。

理由③ 鮭やイワシのビタミンDが筋肉の萎縮を抑えて代謝を保つ

「魚には、タンパク質や脂質だけではなく、ビタミンミネラルも含まれています。なかでも注目なのが、ビタミンDです」(岩崎さん)

ビタミンDは、日光の紫外線を浴びると皮膚で合成される。日焼けを避ける傾向が強い現代人では、欠乏気味。日本人の大半はビタミンD不足に陥っているという報告もある。

だからといって日焼けをしてシミやシワを増やすのもイヤ。そこで大切なのが、食品からのサプライ。

ビタミンDはきのこに多いという印象も強いけれど、供給源としては魚の方が優秀。ビタミンDが多いきのこの大半は干したもの。乾燥重量当たりでは含有量は多く思えるが、日常的に摂る量で比べると、鮭やイワシといったおなじみの魚の方が効率的に補いやすい。

ビタミンDは、腸管でカルシウムの吸収を助ける働きが有名だが、実は減量にも関わる。近年の研究で、ビタミンDは筋肉を萎縮させる遺伝子の働きを抑えたり、筋肉を作るアミノ酸(BCAA)の分解を抑制したりするとわかった。

筋肉が萎縮&分解されると代謝は下がり、太りやすい。魚のビタミンDは筋肉を保ち、代謝が落ちないように支え、太りにくい環境にリセットしてくれるのだ。

筋肉を萎縮させる転写因子(FOXO1)を増加させる処置(DEX)をし、24時間後に転写因子の標的となる筋萎縮遺伝子(Atrogin 1、CathepsinL)の増加を確認した後、活性型のビタミンDを添加した。すると前述の遺伝子の発現が抑制された。
Hirose Y et al, J Nutr Sci Vitaminot, 64, 229-232, doi: 10. 3177/jnsv. 64. 229, 2018

理由④ 生食できるのでグルタミンが小腸の機能を正常化

カラダの本当の入り口は、口ではなく腸管。腸管は外界とつながっており、腸管の先からが体内だ。そんな腸管で、あらゆる栄養素を最終的に吸収するのは小腸。長さが7〜9mもあり、全部広げるとテニスコート1面ほどの面積を誇る。

小腸の調子が悪いと、必要な栄養素が効率的に消化吸収できなくなり、代謝が落ちて太りやすくなる。小腸を元気にして代謝を上げるために欠かせないのが、グルタミン。

グルタミンは、タンパク質を構成するアミノ酸の一種。小腸を作る細胞のエネルギー源となり、その活性化にひと役買う。この他、グルタミンは、外敵の侵入を防ぐために小腸に集まるリンパ球のエネルギー源であり、免疫だって活性化する。また、激しい運動時の筋肉の分解も防いでくれる。まさに万能選手だ。

グルタミンは、体内でも合成できるため、食べ物で摂るべき必須アミノ酸ではない。でも、ストレス下や運動後は、グルタミンの需要が増えて合成が間に合わなくなるため、必須アミノ酸と同じくタンパク源から摂り入れることが求められる。

ただし、グルタミンは40度以上で加熱すると変性する。このため、刺し身など生で食べられる魚介類は、グルタミンの貴重な供給源となる。

おまけ:魚食ビギナー向きの魚5選!

カツオ

カツオ/縄文時代から食されてきた大型魚。EPA、DHA、ビタミンB1を含む。ツナ缶の原料にも。

サバ

サバ/青魚の代表。EPA、DHA、ビタミンDを含む。ノルウェー産は国産よりEPA、DHAが多い。

ホッケ

ホッケ/北海道の味覚の一つ。鮮度低下が早いため、干物にするのが一般的。EPA、DHAを含む。

鮭

鮭/日本人がもっとも好む魚。EPA、DHA、ビタミンDを含む。身はピンク色だが、本来白身魚。

サンマ

サンマ/秋の味覚の代表格。かつては庶民の味だったが、現在は漁獲量が激減。EPA、DHAの宝庫。