ゴールデンタイムに寝るべき… 実は間違いの睡眠習慣8つ

睡眠の質に焦点が当たるようになり、ますます実感するようになった寝ることの大切さ。情報が世に溢れ、真偽の見極めもより困難に。睡眠の専門家、北村真吾さんに眠りの知識をアップデートしてもらった。

取材・文/門上奈央 取材協力/北村真吾(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部 臨床病態生理研究室室長)

初出『Tarzan』No.842・2022年9月22日発売

ゴールデンタイムに寝るべき…。実は間違いの睡眠習慣8つ

間違い① カラダが冷えないように寝る時は靴下を履く

正:靴下を履くと熟睡ができなくなる場合も

寝冷えしないように履いた靴下が仇に!? 国立精神・神経医療研究センターの北村真吾さんは但し付きで解説。

「末端が冷えて眠れない場合は、それがストレスになり睡眠の質を下げる原因になりうるので、靴下を履いてもOK。ただし入眠時に冷えを感じていないならば履かない方がいい。

体温を下げることが睡眠の目的の一つであるため、入眠前に深部体温を徐々に下げ手足から放熱することが重要です。靴下を着用していると熱が逃げにくくなり、結果、熟睡の妨げになることも」

よって靴下は履かない方がベター。睡眠中の冷えが気になる場合は暖房器具のオフタイマー機能を使ったり、寒くて目が覚めるのに備えて靴下をすぐ履けるよう枕元に置いておくなどの工夫を。

間違い② 早寝早起きにシフトするため就寝時間から早める

正:まずは起床時間を早めよう

就寝時間を前倒しする方がハードルは低いという人も一定数いるはず。

「普段深夜2時~3時に寝ている人が23時に寝るのは難しい。就寝2~3時間前は深部体温が最も高く活動モードなので、寝付けないはず。

まずは起床時間を早め、少々眠くても日光を浴び続け、体内時計を少しずつ前倒しにし、そこから早寝を進めるのが吉です」

間違い③ カラダのためにゴールデンタイムに寝る

正:ゴールデンタイムに科学的根拠はない

筋肥大を狙う人ほど睡眠時の成長ホルモン分泌を意識するもの。そこで根強くはびこるのが“ゴールデンタイム(22時~翌2時頃)”の睡眠が大事、という説。

「成長ホルモンの点で、その時間帯に寝ないといけないとは言えません。成長ホルモンは時刻に依存せず、徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠の際に分泌されるためです」

では、熟睡できないと成長ホルモンが一切分泌されない?

「短時間の睡眠になっても徐波睡眠は確保するよう調整されるので、成長ホルモンが一切分泌されないことはまずないかと。とはいえ、就寝時間は気にしなくていい、短時間睡眠でも大丈夫とは言えません」

健やかな睡眠リズムを、自分なりに確立するべし。

間違い④ 長時間寝られる日はとことん寝る

正:睡眠負債の返済、睡眠の前借りはできない

“寝溜め”は不可能。

「ある程度決まった時間に寝て起きるのは体内時計によるもので、長時間寝たところでその時間になれば眠くなるのが自然。また恒常性という機能により、砂時計のように一定時間が過ぎれば眠くなるので睡眠の“前借り”はできません」。

付け焼き刃で長く寝ても睡眠負債や疲労感は消えないので、やはり、日頃の睡眠を充実させるよう工夫するべし。

間違い⑤ 深い睡眠と浅い睡眠のサイクルは90分

正:一概には言えない

睡眠の質を意識すると、深い睡眠と浅い睡眠のサイクルは無視できない。

「よく90分周期といわれますが、あくまで平均値。人それぞれで周期は異なるし、また日によっても変わります。

決定要因は明らかになっていませんが、90分から多少前後すると捉えるのが正確です。また深い睡眠と浅い睡眠、両方健康には大事です」

間違い⑥ 作業効率を上げるために時間の許す限り昼寝

正: 1時間以上は死亡リスク増?

パワーナップ(積極的仮眠)が周知され、また在宅勤務も定着したことで、昼寝が習慣化した人もいるはず。

「昼寝がパフォーマンスの改善に有効なのは確かです。作業効率向上の観点では、夜の睡眠の3倍ほど有効とする研究結果もあります。ただし、昼寝を取れば取るほど健康に良くないとするデータがあるのも事実。1時間以上の昼寝を取る人は循環器疾患になりやすく、死亡率も高いという報告があります」。

また20分以上眠ると深い睡眠に突入しやすく、覚醒しても脳が目覚めず作業効率が下がるという。よって昼寝をするなら20分程度にとどめるべし。

「そもそも昼寝が必要なほど夜の睡眠が十分でないこと自体問題。日頃の睡眠を見直すべきです」

間違い⑦ 上質な睡眠のために間接照明をつけ、そのまま寝落ち

正:間接照明のつけっぱなしは肥満につながる恐れも

睡眠の質を上げるには、入眠時に副交感神経が優位な状態に自律神経を整えることが理想。その対策として、夜は明るい照明から光量がより少ない間接照明に切り替えて、心身のリラックスを狙うのが一案。

「寝る時に忘れず消灯するのであれば、もちろん有効です。しかし夜間(睡眠中)の人工照明が肥満につながるというデータもあります。具体的なメカニズムは明らかになっていませんが、体型管理をしたい人は消灯するのが無難。

そもそもヒトは本来夜の時間帯に明るい環境にいることがなかったので、夜に光を浴びると体内時計の乱れなどは免れません」

間接照明を灯したムーディーな空間にまどろみ、そのまま寝落ちするなんてトレーニーにはご法度だ。

間違い⑧ 8時間睡眠が理想。それ以上も以下もダメ

正:睡眠時間は人によってバラバラ

8時間睡眠はあくまで目安にすぎない。今の睡眠量が適当か、セルフチェックも可。

「休日でも平日以上に寝なくて平気な人は普段の睡眠時間で十分。逆により長時間寝ている人は睡眠負債が溜まっていることが考えられる。数日かけて体内時計を朝型化して早寝することで、睡眠時間を徐々に延ばしていきましょう」。