抑うつ・不安を抱えやすい etc…。データで学ぶ座りすぎの危険性
座りすぎによる弊害が近年の研究で続々と明らかになってきている。特に、コロナ禍でリモートワークが浸透した今、事態はより深刻に。今回はいかに座りすぎが恐ろしいかを示す数々の証拠を紹介する。
取材・文/井上健二 取材協力・監修/岡浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売
目次
日本人は世界でいちばん座っている時間が長い
世界の平均値より40%長く座る
世界20か国で比べると日本人の座位時間がもっとも長かった。座りすぎの弊害について早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授は「座りすぎは各国共通の課題。どの国でもデスクワーカーは座りすぎています」と警鐘を鳴らす。
仕事形態によって座位時間はどう違う?
40〜64歳の働く日本人に加速度計を装着。仕事形態別に座位時間の割合を分析。約15時間装着しているから、デスクワーカーは勤務日は1日10時間以上(約70%)座っている計算。休日は、どの職種でも約9時間(約60%)座っている。
デスクワーカーは1日、10時間以上座っている
休日はどの職種も約9時間座っている
座りすぎだと寿命が短くなる
大酒やタバコで寿命が縮まると言われたら、誰もが納得するだろう。不摂生をすれば、その報いを受けるのは当たり前だと思える。でも、近年、飲酒や喫煙と同様に、座りすぎも寿命を縮めることが明らかになってきた。
座りすぎが、寿命にどのようにインパクトを与えるのか。メカニズムは複雑だが、まずは論より証拠。
オーストラリア在住の45歳以上の成人約22万人を2.8年間追跡したところ、1日8時間以上の座りすぎにより、総死亡リスクがアップ。11時間以上座っていると、4時間未満の人より死亡率が40%も上がる。
8時間以上座り続けると死亡率が上がる
座りながら行う行動の代表は、テレビ視聴。同じくオーストラリアで行われた研究では、テレビを1日4時間以上観ている人は、1日2時間未満の人より、総死亡率がおよそ1.5倍になるという。
テレビではなく座りすぎが悪いのだから、座ってゲームしたり、スマホを見たりするのも同罪。おそらく同様に寿命を縮めると覚悟した方がいいだろう。
座りすぎだとがん死亡リスクが1.5倍に上がる
日本人男性の3人に2人、女性の2人に1人は生涯に一度はがんに罹り、3人に1人はがんで死ぬ。がんは正しく怖がりたい病気の代表格だが、座りすぎは、がんで死ぬ確率を上げるようだ。
最新の成果では、アメリカ在住の45歳以上の8000人ほどを、5年間追跡したものがある。
加速度計を使い、1日の座位時間の長さで3群に分けて分析したところ、座位時間がもっとも短い群を1.0とすると、もっとも長い群では、がん死亡リスクは1.5倍以上になっていた。
座っている時間とがん死亡率の関わり
がんを部位別に見ると、日本人男性で死亡者数がいちばん多いのは、肺がん(男女合計でも肺がんによる死者数がもっとも多い)。
この気になる肺がんと、前述のように座る時間とリンクするテレビ視聴時間の関わりを、日本人で調べた研究もある。
それによると、テレビ視聴時間が1日平均4時間以上の男性は、2時間未満の男性と比べ、肺がんの罹患リスクが1.36倍に上がっていた。がんが怖いなら、即立ち上がろう。
座りすぎだと抑うつ・不安を抱えやすい
座りすぎは、カラダにダメージを与えるだけではない。メンタルにも十分悪い。
それを明らかにしたスウェーデンの研究がある。働く人約2万3000人を対象に、週末などの余暇、平日などの仕事中に、それぞれ全体の何%座っているかでグループ分け。グループ間で抑うつ・不安症状が生じる確率(オッズ比)を比べた。
すると、座っていない人のオッズ比を1.0とすると、余暇時間のほとんどを座っている人は3.9倍、仕事中にほとんど座っている人では1.5倍も、抑うつ・不安症状が生じやすかった。とくに、余暇の半分以上を座っているグループでは、より頻繁に抑うつ・不安症状が起こりやすくなっている。
座位行動時間と抑うつ・不安症状の関わり
平日忙しいと、休日の余暇タイムくらいはカウチポテトになり、動画配信サイトなどをまったり見てリラックスしたいもの。それもストレス発散に一役買うが、夢中になりすぎるのはNG。休日も一日の半分以上座り続けないように気をつけたい。
座りすぎだとコロナが重症化しやすい
コロナ禍以降、おうち時間が増えたり、フードデリバリーやテレワークが普及したりしたことで、座っている時間が長くなっている。
首都圏在住の1200人ほどを対象とした2020年のインターネット調査では、在宅勤務アリの日は、在宅勤務ナシの日と比べて仕事中に座っている時間が約2時間(111分)も長くなっていた(Fukushima et al. J Occup Health, 2021)。
困ったことに、座っている時間が長い人にとって、新型コロナはより厄介な敵になりそうだ。
身体活動状況で3つの群に分け、新型コロナの入院率・重症化・死亡率を調べたアメリカの調査では、一貫して活動的な群を1.0とすると、一貫して不活動な群(≒座っている時間が長い群)の入院率は2.3倍、集中治療室(ICU)入室率は1.7倍、死亡率は2.5倍になっていた。
身体活動と新型コロナの入院・重症化・死亡率の関わり
ワクチン接種も大事だが、新型コロナに本気で備えるなら、立ち上がって動き回ることも忘れずに。