動悸と不整脈、その違いは?
運動したわけでもないのに夜半に胸がどきどき、心臓がばくばく。こんな経験のせいで、自分は不整脈かもしれないと不安に思う人は多い。
しかし、動悸と不整脈は同じように見えて、異なったものを指す。動悸とはあくまで本人が自覚する症状で主観的なものだ。一方、不整脈とはさまざまな心電図検査から診断される客観的なものだ。患者の自覚症状は診断のきっかけにはなるが、自覚症状だけから不整脈の診断は確定できない。
動悸は自律神経の不調が関与していることが多い。そのきっかけはストレス、疲労、睡眠不足、女性ホルモンの影響など客観的な評価が難しいものが多い。だが、最初から自律神経の不調と決めつけることは危険だ。
最も安心なのは病的な問題によって生じる動悸を、医療機関で除外診断してもらっておくことだ。そして、病的な問題の一つが不整脈なのだ。
増え続ける心房細動と、そのリスク
不整脈には脈が速くなる頻脈性不整脈と遅くなる徐脈性不整脈、本来の心拍のタイミングとは異なる期外収縮、そして一定時間以上心拍が乱れる心房細動などがある。
心房細動では心臓が動脈血を押し出す力が大幅に減衰することがあり、血液は心房内の窪みに淀みがちになる。こうなると血液は凝固しやすくなり、心房内の窪みで血栓となり、付着しやすくなる。
この血栓が何かのはずみで剝がれて漂い出し、脳の血管に詰まってしまうと脳梗塞を惹き起こす可能性がある。最近ではこの心房細動が恐るべき勢いで増えている。2050年に有病率は1%を超えるとさえ目されている。
増え続ける心房細動患者数と有病率予測
高齢化の進行に伴い、全国の心房細動患者数は増え続け、2030年には108万人を超えると予測されている。この数字は医療機関で把握できる人数であり、自覚症状がない未受診の患者も多数発生すると考えられる。
心房細動は脳梗塞を招くことも
脳卒中の約6割は脳梗塞だが、心房細動をはじめとした心臓由来の脳梗塞は、全脳梗塞の2~3割に上ると推測される。
心房細動のある人のうち、自覚症状がある人は6割程度で、4割は無症状のため気づいていないという。この心房細動を放置すると心不全も発症する恐れがある。心房細動に心不全を合併すると、予後は急速に悪化する。
循環器専門施設を受診した心房細動患者のその後
心不全を併発した心房細動はより危険であると考えられている。
脈の乱れた動悸を感じるなら、早めに循環器内科を受診するに限る。心房細動と早期に判明した場合は、抗凝固薬で脳梗塞を予防できる可能性が高い。また、抗不整脈薬を服用することで、心房細動を生じなくさせることもできる。
専門医なら危険な兆候を心電図で読み取れる
最近では異常を起こしている心臓の内部をカテーテルで治療するアブレーションという手術も行われるようになってきた。ただし、カテーテル治療の適用や有効性は心房細動の病状によって異なるため、医療機関に確認が必要だ。
心拍のタイミングが異なって生じる期外収縮は、健常者にも頻繁に見られる現象だ。ただちに生命の危険に直結はしないことが多いが、実は危険なものも含まれていることに注意が必要だ。
特に心室性の頻拍が3拍以上も続くようになると心室頻拍という別の病名となり、突然死のリスクが増す。心臓死した患者の調査から、心室性期外収縮が連発する回数や頻度が多かったことが報告されている。
心臓死の群には連発する心室性期外収縮が多い可能性が
心臓死した患者は生存患者に比べ2連発が多く、1日に50回以上起こした人の割合も明らかに多かったという。
心電図に現れた期外収縮
本来のタイミングよりも早く期外収縮を生じた心電図。期外収縮は健常者にも見られるが、まれに心不全や致死性不整脈に発展することもあるため、自覚症状があれば医療機関を受診すべきだ。
期外収縮が見つかれば、症状がどの程度日常生活に影響を与えているかの見極めが重要になる。症状がなければ、期外収縮の頻度にかかわらず、特に治療が不要なことも多い。
一方、心不全や危険な不整脈が認められた場合は、早期からカテーテル治療が用いられることもある。自分がどのような病態で、治療が必要かどうかは医療機関で確認する必要がある。
急増するカテーテル手術症例数
頻脈性不整脈に対してカテーテルアブレーション治療が選択されるケースは増え続けている。日本不整脈心電学会と国立循環器病研究センターなどによる登録プロジェクトは2017年8月からスタートしたが、登録症例数は飛躍的に伸び続けている。背景としては診断や治療の技術が向上し、対象となる患者が増えていることによると考えられる。
もし失神の経験があったら要注意
動悸によって寝つきにくかったり、日常生活に支障をきたしたりするようであれば、早めに受診を考えるべきだ。不整脈を診断するためには、動悸を自覚したまさにそのタイミングで心電図を測定する必要がある。
医療機関で記録できない場合は、24時間心拍を記録できるホルター心電図検査も考えたい。最近のホルター心電図装置は20g未満と超軽量で、防水機能もしっかりしているため、日常生活の中で簡単に検査を実施できる。
また、いまでは心拍を記録できるスマートウォッチもある。心拍に変化を感じたら、即座に自分で記録を残し、循環器内科医に提示すれば、より精度の高い診断につながることも十分ありうる。
まだ動悸や不整脈の予兆を感じたことのない人であっても、もしも失神(意識消失)やそれに伴う転倒などを経験していたら要注意だ。これは不整脈による前駆症状のない、急な脳虚血が起こった可能性を疑う必要がある。
気を失っているのだから、なぜ怪我をしたか本人にはわからないため、悪く考えないで過ごしてしまうこともある。しかし、失神は非常事態。軽く見ないことだ。
また、家族や近親者に40歳未満で亡くなっている人が複数いたら、遺伝的なリスクが潜んでいる可能性も考えられる。実際に遺伝的な要因とされる致死性不整脈も存在する。気になることがあったら、まずは身近に受診できる循環器内科に行こう。