あなたの可動域は正常? 3つの数字から紐解く「股関節」

人体のなかでも重要な関節の一つが「股関節(こかんせつ)」。さまざまな動作に関わることはもとより、硬くなるとで姿勢が乱れ、活動量も低下してしまう。そもそも股関節はどんな構造で、どの筋肉が制御し、どんな動作を実現しているのか。3つの数字から学んでおこう。

取材・文/石飛カノ 撮影/安田光優 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/村林タカノブ 取材協力/高平尚伸(北里大学大学院医療系研究科整形外科学/スポーツ・運動器理学療法学教授)

初出『Tarzan』No.862・2023年8月3日発売

股関節

股関節は「100年」使える

球状になった太腿の骨の先端が骨盤の丸いくぼみにジャストフィット。これが“球関節”と呼ばれる股関節の構造。360度回せるとても自由度が高い関節だ。

股関節の構造

太腿の骨と骨盤のくぼみの表面は関節軟骨に覆われ、骨同士がぶつかり合うのを防ぎ、運動刺激の衝撃から関節を守ってくれている。さらに軟骨に栄養を運ぶのは関節包の内側の滑膜から分泌される滑液。

股関節を動かすことによって滑液が分泌されると、関節の動きが滑らかになり軟骨に栄養が行き渡る。で、この軟骨は一生保つ。

人生100年時代なら100年の保証付き。ただし、滑液不足や過度な負荷がかかると関節唇が傷つき股関節変形が起こる。ケアは不可欠。

股関節は「22の筋肉」で支えている

股関節の安定やさまざまな動きに関わっている筋肉は全部で22個。

膝関節が主に太腿の前と後ろの計7つ(4つの大腿四頭筋と3つのハムストリングス)の筋肉で動きを制御しているのに比べれば、ずいぶんと大掛かり。つまり、股関節を機能させるためにはそれだけ細かい調節が必要と考えられる。

股関節は「22の筋肉」で支えている

上で述べたように、股関節の動きをスムーズにする滑液は、股関節を細かく揺らすことで分泌される。

デスクワークで長時間股関節が不動のままだと滑液は出ないし、筋肉や靱帯も固まりがちに。股関節に関係する22の筋肉のどれかひとつでも機能しないと、本来の自由度は担保されない。とにかく細かく動かすことがなによりも大事。

股関節は「6つの動き」で成り立っている

では22個もの筋肉は股関節のどんな動きに関わっているのか?

最もシンプルな動作を抽出すると下の6つのパターンになる。それぞれの角度の数値は日本整形外科学会とリハビリテーション医学会が定めた可動域の正常値。この角度まで動かすことができればオッケーという目安だ。

股関節 屈曲125°

股関節を曲げる屈曲動作は日常的に最も頻繁に行う動き。歩行は屈曲の繰り返しだし、座り姿勢がすでに屈曲状態。軸脚と股関節を曲げた側の太腿の角度が125度以上あれば正常。

股関節 伸展15°

屈曲の動きがダイナミックなのに対して伸展の動きはとっても地味。片脚立ちで軸脚から15度の角度で脚を後ろに引けたらOK。歩行時にこの伸展の動きを1歩ずつ行うとキレイ。

股関節 外転45°

脚を真横に開く動き。正中線から45度の角度まで開ければ正常。開脚する場合は右脚45度+左脚45度=90度で十分。180度開脚ができなくても凹む必要はまったくなし。

股関節 内転20°

日常生活の中で一番行う機会が少ないのがこの動作。ダイレクトに関わっているのは太腿の内側の内転筋群。衰えると正中線から20度の角度まで脚を内側方向に伸ばせない。

股関節 外旋45°

太腿を外側に捻る動き。正常角度は45度。脚を内側に捻ってるのに? まぎらわしいけど、やってみれば太腿は外側に捻られる。この動作が得意な人は座禅で結跏趺坐が組めるはず。

股関節 内旋45°

太腿を内側に捻る動き。正常角度は45度。脚を外側に捻ってるって? 片脚立ちで膝下を外側に捻ってみよう。太腿の骨は内側に捻られるはずだ。これが内旋動作。スポーツでよく使う。

で、それぞれの筋肉の働きは下の表をご覧いただけば一目瞭然。

股関節を支える22の筋肉とその動き
筋肉名 屈曲 伸展 外転 内転 外旋 内旋
大腰筋

腸骨筋

3 大臀筋(上部・下部)

4 中臀筋(前部・後部)

5 小臀筋

6 大腿筋膜張筋

7 梨状筋

8 内閉鎖筋

9 外閉鎖筋

10 上双子筋

11 下双子筋

12 大腿方形筋
13 縫工筋

14 大腿直筋

15 恥骨筋

16 薄筋

17 長内転筋

18 短内転筋

19 大内転筋(筋性部・腱性部)

20 大腿二頭筋 長頭

21 半腱様筋

22 半膜様筋

●:主動作筋 ▲:補助動作筋

出典:『股関節拘縮の評価と運動療法』(運動と医学の出版社)より改変

たとえば、屈曲にダイレクトに関わるのは大腰筋と腸骨筋、太腿の前の縫工筋、大腿直筋、太腿横の大腿筋膜張筋、内腿の恥骨筋だ。

日常生活やスポーツなどの多くの動作では6つの動きの中のいくつかが組み合わされるので、さらに多くの筋肉が稼働している。