ビタミンD、亜鉛、カルシウム…。不足しがちな重要栄養素は魚に頼るべき理由

スーパービタミンとも呼ばれ、生活習慣予防、メンタルヘルス維持に役立つビタミンD。遺伝子の合成や皮膚の健康維持に関わる亜鉛。いずれも重要な栄養素だが、実は日本人は不足しがち。そこで、積極的に取りたいのが魚介類だ。健康にいいイメージに違わず、不足しがちな重要栄養素がしっかり摂れる魚介類に再注目。

取材・文/石飛カノ 取材協力/西塔正孝(女子栄養大学栄養学部教授)

初出『Tarzan』No.873・2024年2月8日発売

回遊魚のイミダペプチドで疲労回復

マグロにカツオ、サンマにイワシ、サケにマスなど、決まった季節に長い距離を移動する回遊魚のスタミナは渡り鳥のそれに匹敵する。彼らのスタミナの秘密はイミダゾールジペプチド、略してイミダペプチド。

鶏の胸肉に多く含まれる物質として広く知られるようになったイミダペプチドは強力な抗酸化作用を持つ抗疲労成分。この物質の働きによって渡り鳥は何千キロもの行程を飛び続けることができるという。で、回遊魚のカラダにも同じくイミダペプチドが含まれている。

「アンセリンやカルノシン、鯨から発見されたバレニンもイミダゾールジペプチドのひとつです。長い距離を泳ぐ鯨やウナギなどにも豊富に含まれています」

魚のイミダペプチドがそのまま疲労回復に繫がるかは未だ研究段階。が、効果を期待して食したい。

水産動物のイミダゾール化合物含量(mg/100g)
魚種 アンセリン カルノシン バレニン
カツオ 812 21
キハダマグロ 234 55
カラフトマス 408 16 8
ギンザケ 542 18 3
マカジキ 370 130
ウナギ 231
イワシクジラ 6 131 1,840

竹内昌照ら編『水産食品の事典』朝倉書店(2000) 西塔正孝ら:液体クロマトグラフィーによる数種魚類のアンセリン及びカルノシンの測定, 女子栄養大学紀要, 35,(2004)より

スーパービタミン、ビタミンDを確保

カルシウムの吸収を促すという働きで知られるビタミンD。近年ではこの他、免疫力の向上や糖尿病・高血圧など生活習慣病の予防、メンタルの健康維持などにも関わっていることが報告されている。

別名・スーパービタミンとも呼ばれるビタミンDは、きのこや卵黄などに比較的多いとされているが、メインディッシュとしてのタンパク質食材では肉より魚に軍配が上がる。食肉には100g中0から多くても0.数㎍なのに対して、多くの魚類には数㎍以上のビタミンDが含まれている。日本人は慢性的なビタミンD不足ともいわれているので、一日一度の魚食は習慣にしたいもの。とくにビタミンDは脂溶性なので脂の乗った魚が狙い目だ。

ちなみに、ビタミンDは日光に当たることでも体内で合成されるので、肉食だらけの日には積極的に外出を。

魚介類可食部(生)のビタミン含量(㎍/100g)
魚種 ビタミンD
マイワシ 32
サンマ(皮付き) 16
スズキ 10
ブリ(成魚) 8
マサバ 5.1
あん肝 110
イクラ 44
ベニザケ 33
シロサケ 32
カワハギ 43

成人男女のビタミンD摂取目安量は8.5㎍、耐容上限量は100㎍。あん肝ならごく少量、イワシなら1尾でカバーできる。

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より抜粋

全体食でカルシウムを効率的に補給

魚食ではできても肉食では絶対にできない食べ方、それはホールフード=全体食。シラス、シシャモ、アユ、イワナ、コアジの南蛮漬け、ワカサギの天ぷらなどなど。これらは頭から尻尾まで丸ごと一尾の命をいただく全体食。牛・豚・鶏ではまず無理な食べ方だ。その最大のメリットはさまざまな成分を一度に摂取できるということ。

「魚の脂質に含まれているビタミンAやビタミンD、そしてカルシウムを摂取できるということが大きなメリットです。たとえばアユは生の可食部ではカルシウムが100g中270mgですが、焼いて丸ごと食べると480mg摂ることができます。しかもビタミンDの働きでカルシウムの吸収はさらに促されます」

この他、小魚の佃煮など常備菜を日常的に口にするなど、全体食のメリットを十二分に生かしたい。

魚介類可食部(生)のミネラル含量(mg/100g)
魚種 カルシウム
アユ(天然)生 270
アユ(天然)焼き 480
ウナギ(養殖) 130
ドジョウ 1,100
ワカサギ 450
シジミ 240
カジカ 270
イカナゴ 480
マアジ小生 130
サクラエビ 1,100
タニシ 1,300
ホンモロコ 850

カルシウム含有量はドジョウが断然トップ。どじょう鍋では骨を抜いた「ぬき」ではなく、丸ごと煮た「まる」でいただこう。

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より抜粋

鉄と亜鉛は魚介類からいただく

カルシウム同様、日本人に不足しがちなミネラルが鉄。ホウレンソウなどの野菜に含まれる鉄に比べて、吸収率が高いのが肉や魚に含まれる鉄。前者を非ヘム鉄、後者をヘム鉄という。酸素を細胞に運び、貧血を予防するためには、後者のヘム鉄を効率的に補給することが重要。有効な補給源がアサリや赤貝などの貝類。

「また、遺伝子の合成や皮膚の健康維持、味覚障害を防ぐために摂取した方がいいミネラルが亜鉛です。最近では亜鉛が含まれていないインスタント食品の摂取によって亜鉛不足が増えているともいわれています。亜鉛は魚の内臓に豊富ですが、エビやカニなどの甲殻類やイカやタコなどの軟体類にも豊富。内臓が苦手な人はこうした魚介類を口にすることもおすすめです」

寿司店ではトロだけでなく魚介類にも手を伸ばすべし。

魚介類の成分
食品名 鉄(mg) 亜鉛(mg)
魚類平均値 1.0 0.9
貝類平均値 3.6 2.7
エビ・カニ類平均値 0.5 2.0
イカ・タコ類平均値 9.4 1.6

魚介類100g中に含まれる鉄と亜鉛の平均値。どちらも魚類よりも貝類の方が豊富で、亜鉛は甲殻類などに多く含まれる。

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より抜粋