心臓を守りたいなら、食事を変えよ!毎日意識すべき食事習慣6選。

心臓は自ら不調のサインを出してくれるうえに、きちんといたわればちゃんと応えてくれる。大事なことは現状を認識し、行動変容をすることだ。今回は心臓を健やかにするために、日々の食生活で意識すべき習慣について紹介する。

取材・文/井上健二 撮影/園山友基 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力・監修/野田泰永(サクラクリニック理事長)、別府浩毅(べっぷ内科クリニック理事長)、大島一太(大島医院院長、東京医科大学八王子医療センター循環器内科兼任講師) 撮影協力/UTUWA

初出『Tarzan』No.886・2024年8月22日発売

心臓 食生活

「うまい・安い・早い」を控えめに。

心臓を守りたいなら、どこから手をつけるべきか。

その問いに「食事です!」と即答したのは心臓病専門医の別府浩毅医師。なかでも見逃せないのは、ご飯や麺類など糖質過多の食事。それにより、血糖値が高くなり、下がりにくくなる糖尿病に陥らないことが肝要だと強調する。

「僕は心臓病のカテーテル治療を行っていましたが、源流の糖尿病を減らさない限り、心臓病も減らせないと確信。学び直して糖尿病専門医の資格を取り、治療を始めました。高血圧や悪玉コレステロールにも対処すべきですが、高血糖も放置してはダメなのです」(別府医師)

高血糖が続くと血管がダメージを受ける。初めは細い毛細血管から傷み、神経障害、網膜症、腎症といった糖尿病性の合併症が起こる。さらに高血糖を放ったらかしにすると、より太く大きな動脈まで傷めるようになり、心臓病への暗き道を歩む。

「厳しい糖質制限は長続きしないからお薦めしません。それより丼ご飯や麺類など、一度に多くの糖質が入って血糖値が上がる“うまい・安い・早い”系の食事を控えるのが先決。平日は難しくても、休日は糖質メインではなく、魚や肉や野菜が主役で少し手のかかる料理を作って食べることを推奨しています」(別府医師)

寝る直前の水よりも、朝起きてからの白湯が吉。

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エアコンで寝室を快適な温度・湿度に保っても、睡眠中にコップ1杯以上の水分を失う。発汗以外で皮膚や呼気から水分が出ていく現象で、「不感蒸泄」と呼ばれている。

体内の水分が減ると血液がドロドロになり、心臓の負荷が増えるし、血管も詰まりやすくなる。

「それを防ぐため、眠る直前に水を飲むべきとされますが、それは夜間頻尿の元になりかねない。睡眠薬を服用している高齢者は、夜トイレに行く際に誤って転倒して骨折する恐れもある。夜間の不感蒸泄に備えるなら、入浴前、入浴後、眠る1時間前にそれぞれコップ1杯程度の水を飲んでください」(心臓専門医・心臓病上級臨床医の大島一太医師)

そして大島医師が勧めるのは、朝起きてからすぐ飲む一杯の白湯。

「それで寝ている間の脱水が早々に解消される。白湯なら内臓が温まってリラックスできるし、腸管の動きも良くなり快便にもつながります」(大島医師)

お湯を沸かすのが面倒なら、マグカップに美味しい水を入れて60秒ほどレンチンすれば、50度前後の白湯がカンタンに作れる。

体重1kg当たり2.0gのタンパク質を摂る。

この後詳しく見るように、心臓を守るために糖質や脂質の過食はNG。代わりに増やしたいのが、タンパク質。筋肉が減少すると心臓の負担が増えるため、筋肉の原料となるタンパク質を多めに摂るのだ。

タンパク質の摂取量は体重1kg当たり1.0gが基準。体重70kgなら70g。筋トレで筋肉を効率的に増やしたいなら、体重1kg当たり1.6g摂るべきとされる。

だが心臓専門医の野田泰永医師は、心臓に不安を抱える患者には、(タンパク質を処理する腎機能が低下していない限り)体重1kg当たり2.0gのタンパク質を摂るように助言するとか。

「そう指導しても2.0gも摂れる人は多くない。けれど、目標値を1.0gにしてクリアできないと困りますが、2.0gと高めに設定すれば、1.2gから1.6gは摂れる。それで結果オーライだと思っているので、あえて高めの目標値をお伝えしているのです」(野田医師)

三食に加えて食間のプロテインなどでタンパク質を増量していこう。

魚はコッテリ系、肉はアッサリ系を選ぶ。

糖質の摂りすぎは避けたいが、脂質の摂りすぎも良くない。揚げ物や脂っこい食事を控えて、脂質は1日の摂取エネルギーの25%未満に抑えるのが心臓を守る鉄則だ。

脂質では量だけではなく、その質にも気を配りたい。脂質の性質を決める脂肪酸をどう選ぶかが、心臓の命運を左右している。

肉類、卵、乳製品などの動物性食品に多いのは、飽和脂肪酸。

「日本人は飽和脂肪酸が少なすぎると脳卒中のリスクが上がり、多すぎると心臓病のリスクが上がる。脳卒中と心臓病の双方の予防にちょうどいい飽和脂肪酸の摂取量は総エネルギー摂取量の7%未満で、1日15g前後です」(大島医師)

ちなみに食品中の飽和脂肪酸の含有量は牛肩ロース100gで12g、卵1個2g、バター10gで5g、牛乳200mLで4〜5gほどだ。

一方、青魚に多いEPAやDHAといった多価不飽和脂肪酸は、血液をサラサラにして心臓病を防ぐ。

「肉類は飽和脂肪酸が少ない赤身などのアッサリ系、魚類は多価不飽和脂肪酸が多いコッテリ系を選びましょう。ただしEPAやDHAも油ですから過剰な摂取は控えるべき。1日に2g(サバ缶なら1個分)程度を目安としてください」(大島医師)

飽和脂肪酸摂取と心筋梗塞発症リスク

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日本人の男女約8万2000人を平均約11年間追跡調査した研究。飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、心筋梗塞の発症リスクは上がっている。対照的に脳卒中に関しては、飽和脂肪酸の摂取量が多くなるほど発症リスクは下がる傾向が見受けられた。

出典: がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC研究)」

減塩と毎朝の計測を習慣化する。

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ハッキリ言おう。いま日本人の3人に1人の心臓が、崖っぷちに立たされている。日本の高血圧患者は推定4300万人もいるが、高血圧だと心臓病の発病率が上がるからだ。

高血圧の基準が厳しすぎるとか、血圧は多少高くても平気といった意見もあるが、約5万人の日本人を調べた研究で、血圧が高いほど心臓病の死亡率が上がるとわかっている。

血圧レベルと心血管系死亡リスク

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国内10のコホート研究(男女計約7万人)のメタアナリシス。40〜64歳では血圧が高いほど、心血管系の死亡リスクが上がる。ハザード比は年齢、性別、コホート、BMIなどで調整済み。PAF(集団寄与危険率)とは、集団すべてが至適血圧だった場合に予防できたと推定される死亡者の割合。

出典/Fujiyoshi A, et al :Hypertens Res 35;947-2012

心臓は1日10万回拍動している。高血圧だとそのたびに血管に負荷がかかり動脈硬化が進むし、心臓は血管の抵抗に負けないように頑張りすぎてどんどん疲弊する。そのくせ自覚症状ゼロ。だから高血圧は「サイレントキラー」と恐れられる。

高血圧を防ぐため、まず大切なのは自らの血圧を知ること。

ダイエットの基本は日々の体重変化のチェック。一方、健康診断で年1回血圧を測るだけで、本当の血圧が把握できるはずもない。

「なかでも、朝自宅で測る“家庭血圧”が大事。将来の心臓病の危険度がよく予測できます」(心臓専門医・心臓病上級臨床医の大島一太医師)

朝は活動を始める前だし、病院と違って家庭ならリラックスできる。その状況で血圧が高いなら、心臓からのSOSが出ていると真剣に捉えるべき。上の血圧(収縮期血圧)135mmHg以上、かつまたは下の血圧(拡張期血圧)85mmHg以上は高血圧だ。

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高血圧を避ける2つ目のポイントは何といっても減塩。

塩分が多いと体液の濃度を一定に保つために多くの水分を体内に溜め込むから、血圧は上がる。また過剰な塩分を腎臓から排泄するために血圧を上げる「圧ナトリウム利尿」という作用があり、塩分を毎日摂りすぎると血圧はさらに上がるのだ。

日本人は現在1日平均約10g(男性10.9g、女性9.3g)の塩分を摂っている。高血圧を避けるにはこれを1日6g未満にすべき。

「高血圧の人が塩分を1日5g減らすと血圧が5〜6mmHg下がる。日本人全員の血圧を1mmHg下げることに成功したら、日本人の脳卒中による死亡者を年間約4500人、その発症を年間約1万人減らせると試算されています」(大島医師)

減塩のコツは下にまとめた通り。大さじ1杯で約2.6gの塩分を含む醬油、約2gの塩分を含む味噌の使用を減らしたり、減塩タイプの調味料を使ったりしよう。麺類のスープを残すことも手軽で有効。この他、塩分(ナトリウム)を排泄する作用を保つカリウムを、海藻や野菜などから摂ることも意識したい。

減塩以外では、肥満者は痩せる、アルコールを控える、タバコをやめるなども降圧には大いにプラス。

美味しく減塩する工夫
  • 減塩食品の活用:醬油、味噌、ソースを減塩タイプにする
  • 麺類のスープを残す:塩分が多いスープは極力飲まない
  • 薬味の活用:唐辛子などのスパイス、ニンニクやネギなどの香味野菜で薄味を補う
  • 酸味の活用:レモン、ユズなどの柑橘類、酢、トマトなどの酸味で薄味を補う
  • 旨味の活用:昆布、鰹節、干し椎茸などの旨味を生かして薄味を補う
  • 香ばしさの活用:揚げたて、焼きたての風味を楽しむ
  • 献立のメリハリ:1品は味の濃いもの、他は薄味にする
  • 甘味も同時に減らす:塩味と甘味を一緒に減らす、全体的に薄味にして物足りなさを補う

コレステロール多めの食品を控える。

コレステロールは、細胞膜やホルモンの原料となる大切な物質。ゆえにその8割は肝臓で作られる。

でも、そのうちLDL(悪玉)コレステロールが多すぎるのは大問題。酸化されたLDL―Cが血管に溜まると、心臓病の発端となる動脈硬化の一因となる。LDL―Cは120mg/dl未満に抑えたい。

しかし、高すぎるLDL―Cをセルフで下げるのは容易ではない。

コレステロールの2割は食事から摂るから、LDL―Cが高値なら卵やレバーといったコレステロール多めの食品は控えるべき。頼みの運動には、残念ながらLDL―Cを下げる働きは期待できない。

コレステロールは運動のエネルギー源にならないからだ。でも運動自体は、心臓病予防に役立つから、有酸素運動や筋トレに取り組むのは無駄ではない。

となると頼りになるのはクスリ。

「LDL-Cを下げるには、スタチンという薬が効きます。心臓病を患うと、LDL―Cの目標値は70mg/dlになりますが、スタチンなしで下げることは到底できません。筋肉が溶ける横紋筋融解症という副作用もあるので、主治医の指導の下で正しく服用することが求められます」(心臓病専門医の別府浩毅医師)

LDLコレステロールと心臓病リスク

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世界中で行われた大規模臨床試験をまとめた有名な研究。まだ心臓病になっていない人の一次予防、一度心臓病になった人の再発を防ぐ二次予防ともに、LDL-Cが低いほど効果的だとわかる。

出典/ Ballantyne CM: Am J Cardiol 82: 5M-11M, 1998 O’Keefe JH Jr. et al.: J Am Coll Cardiol 43: 2142-2146, 2004LDLコレステロール(mg/dl)