NIKE_TOMIR 2.0

〈NIKE〉の《ヴェイパーフライ 3》|これ、履きたい。

スタイリング・文/小澤匡行 写真/吉川周作 ヘアメイク/曳田萌恵

<NIKE>のヴェイパーフライ 3
<NIKE>のヴェイパーフライ 3

シューズ《NIKE VAPORFLY 3》37,730円、ハーフジップTシャツ9,350円、ショーツ4,950円、以上ナイキ、問い合わせ先:NIKEカスタマーサービス 公式サイト、スウェット28,600円、チャンピオン、問い合わせ先:ヘインズブランズ ジャパン カスタマーセンター 公式サイト

<NIKE>のヴェイパーフライ 3

<NIKE>のヴェイパーフライ 3

<NIKE>のヴェイパーフライ 3
<NIKE>のヴェイパーフライ 3
<NIKE>のヴェイパーフライ 3

文・小澤匡行

これまでランニングをしてこなかった人でも「厚底」というキーワードを聞いたことがあるだろう。走るための運動靴が世の中に誕生したのは、およそ1920年代と言われている。つまりランニングシューズの歴史は100年にもなる。ただ、そのうちの90年以上は、なるべく足の形に沿い、足と地面が近く、そして軽い「薄底」が速く走るために必要な靴の条件だった。しかしミッドソールのフォーム素材の進化により、ソールが厚くなるほどクッション性と反発性の両方を高められるようになったことで「厚底」が速さの常識を変えてしまったのだ。

その始まりは、2017年に〈ナイキ〉が発表した《ズーム ヴェイパーフライ 4%》だった。それからの7年間、長距離界は新記録のパレード状態だ。マラソンや駅伝でこれだけ大会新、区間新とタイムが更新されれば、当然のようにシューズに世間の視線が注がれ、競技そのものに注目が集まるようになった。とくに箱根駅伝は、年始に朝からテレビ中継されるだけあって、しっかり正月の風物詩ともいうべき国民的スポーツとしての地位を確立している。

そもそも駅伝というスポーツが日本発祥であることは、あまり知られていない。ナイキは、その世界に誇れるニッポンのカルチャーを讃えるように、10年ほど前から「EKIDEN PACK」コレクションをハイシーズンの冬に発表している。これらはナイキの代表的なランニングシューズ数モデルに、「駅伝」の何かしらのインスピレーションが落とし込まれている。僕は毎年そのコンセプトというか、ストーリーを聞くのを楽しみにしている。今年は、2002年に日本企画で制作された《エア ストリーク スペクトラム プラス》のグラフィックが用いられた。団体競技である駅伝は、とにかくレースが長い。日テレの箱根駅伝の中継を見ていると、箸休めでたまに昔のエピソードを紹介するのだが、日が暮れた後でも走り続けていているランナーを(今とは比べ物にならないほどランナーは遅かった)、沿道のスタッフが松明で照らしている(昔は箱根の山道に街灯がなかった)映像を見たことがある。このファイヤーパターンは、じつはそんな時代の光景もネタの一つになっているらしい。

僕は中学、高校とかなり本気で箱根を目指していた友人に囲まれながら走っていた。そんな学生時代を経てこの仕事に就いたので、モチーフとなったこのシューズをよく覚えている。しかも2018年に〈シュプリーム〉がこのシューズとコラボレーションしたことで、その記憶はよりクリアに美化された。時代を超えてこのシューズはストリートに認められたのかと、感慨深く思ったものだ。この《ヴェイパーフライ 3》は、アスリートが本気で記録を狙うためのシューズだ。履いて立った瞬間に前のめりになる厚底シューズをビギナーがうまく乗りこなすのは、ちょっと大変だろう。でも、過去にマラソンランナーの大迫傑さんは、《アルファフライ 3》の発表時に「ただ走るだけじゃつまらない人に」と話していたのが印象的だった。《アルファ》も《ヴェイパー》も「厚底」の感覚は新しく、楽しいものである。自己ベストのためとかじゃなく、走ることに対して前のめりな気持ちになるために、厚底を日常のランにたまに取り入れるのは、脚以上に心に刺激が入っていいかもしれない。

松明というよりはホットロッドのフレイム柄に見えるし、〈シュプリーム〉コラボだったり、何かとメンズ的なタグが付くので、ヴィンテージのスウェットとバイカーパンツ的なスパッツの組み合わせは、個人的にシューズの雰囲気に合っていると思う。そして僕はあえてウィメンズにおすすめしたい。なにせ2002年のシカゴマラソン、2003年のロンドンマラソンで、イギリスの女性ランナー、ポーラ・ラドクリフは《エア ストリーク スペクトラム プラス》を履いて世界記録を2年連続更新しているからだ。もしあの頃、彼女がこの《ヴェイパーフライ》を履いていたら、さらにすごい記録が出ただろうに。

<NIKE>のヴェイパーフライ 3