柔らか食文化が生む歪み。“咀嚼”でカラダを整えよう!

噛む力が弱まると、顎関節のバランスが崩れ、首こりや肩こり、全身の歪みにまで影響が及ぶ。軟食化が進む現代、失われつつある「咀嚼力」を取り戻すことこそ、カラダの再生の第一歩だ。

取材・文/井上健二 イラストレーション/高橋 潤 取材協力・監修/林 晋哉(林歯科院長、歯科医)

初出『Tarzan』No.910・2025年9月11日発売

教えてくれた人

林晋哉(はやし・しんや)/歯科医 。林歯科(歯科医療研究センター併設)院長。日本大学歯学部卒業後、勤務医を経て開院。「自分が受けたい歯科医療」を追求・実践する傍ら、咀嚼や嚥下といった口腔が担う機能をシステムとして研究。

軟食ネイティブが急増中。咀嚼から歪みを見直してみよう。

生きること=食べること。それに欠かせない咀嚼に重要なのが顎関節。

「下顎骨は一つの骨なのに両側に2つの関節を持つ。これは他にない特徴で、口の可動域を広げるので、食べ物をすり潰すような複雑な動きが行えます」(歯科医の林晋哉さん)

顎関節は、カラダの中でもっとも重たい頭部にある関節。だから重心バランスのコントロールにも関わる。

「マイケル・ジョーダンがダンクの際に舌を出していたのは、ぐっと嚙み締めると重心が固定されて、空中での体勢を制御しにくいからです」

生来顎が小さい、歯並びが悪い、強い嚙み締めや歯軋りの癖があるといった理由で上下の歯の嚙み合わせ(咬合)が狂うと、重心バランスも崩れて歪みを招く。その歪みは咀嚼筋にストレスを与え、近接する首すじの筋肉にも障害を生じさせて、首こりや肩こりにも。

加えての課題は、軟らかい食べ物が増えて咀嚼回数が減ったこと。

「近年は軟らかい食べ物しか食べたことがない“軟食ネイティブ”も増えた。咀嚼はモノを嚙む経験の積み重ねで築かれる精緻なシステム。咀嚼回数が減り、咀嚼力が脆弱になると咬合と顎関節に悪影響があり、全身の歪みや凝りなどを誘発します」

歯を失ったら入れ歯などで補い、虫歯も歯周病も即治すのが大前提。そのうえでガムを嚙み咀嚼回数を増やす、咀嚼筋をマッサージで緩めるといった工夫を。

顎関節の作りはどうなっている?

顎関節

顎関節は耳の穴の前にあり、頭蓋骨の下顎窩という凹みに、下顎骨の丸みを帯びた先端(下顎頭)がハマり込んでいる。ちなみに大きく口を開ける際、顎関節は毎回亜脱臼する。

咀嚼筋をリラックスさせる2つの対策術。

咀嚼筋マッサージ(各60秒×10回/日)

咀嚼筋マッサージ

  1. 左右の耳の穴の斜め前方に、人差し指や親指をやや強めに押し当てる。円を描くように咬筋をマッサージする。
  2. 両耳の上の側頭部にも、同じように人差し指や親指をやや強めに押し当てる。円を描くように側頭筋をマッサージする。1回当たり各60秒程度。これを1日10回程度(1時間おきに行うのが理想)。
割り箸ゴロ寝(10分)

割り箸ゴロ寝

  1. 割り箸を割り、1本だけ使う。仰向けに寝て、唇を軽く開き、左右の口角に割り箸を渡して乗せる。上下の歯をつけない。割り箸を嚙まない。
  2. 両腕を体側で伸ばし、目を閉じて脱力し10分ほどそのまま過ごす。腰が痛い人は膝を立てたり、頭の下に重ねたタオルを置いたりする。割り箸を外してゆっくり起き上がる。