肩や肘の不調はなぜ起こる?JBJ理論で学ぶ運動連鎖の仕組み。

稼働する関節、支える関節。そのバランスが崩れると、全身の動きが乱れる。「ジョイント・バイ・ジョイント理論」は、その秩序を解き明かす鍵だ。

取材・文/井上健二 撮影/園山友基 スタイリスト/豊島 猛 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/野村憲司、作山依里(共にトキア企画) 取材協力/牧野講平(森永製菓トレーニングラボヘッドパフォーマンススペシャリスト)

初出『Tarzan』No.915・2025年11月20日発売

ジョイントバイジョイント理論_女性がポーズをとっている
教えてくれた人

牧野講平(まきの・こうへい)/森永製菓トレーニングラボヘッドパフォーマンススペシャリスト。米国イースタンワシントン大学卒、弘前大学医学部博士課程後期在学中。高梨沙羅、前田健太らの他、多くのオリンピアンのサポートを行う。NSCA CSCS。日本コンディショニング協会理事。

JBJ(ジョイント・バイ・ジョイント)ってなに?

骨と骨は関節を作り、筋肉は関節をまたいで骨と骨について関節を動かしている。そして関節も筋肉も、それぞれ身勝手に振る舞うわけではない。野球やサッカーの選手のように、ポジションに応じた役割を果たし、巧みに連携して全身を機能させている。

それを教えてくれるのが「ジョイント・バイ・ジョイント理論(以下JBJ)」。2007年、アメリカのコンディショニングコーチと理学療法士が提唱した。

「あらゆる運動には、筋肉と関節が連鎖的に働く“キネティックチェーン(運動連鎖)”がある。そのうち、安定性(スタビリティ)と可動性(モビリティ)という対照的な働きにスポットを当てたのがJBJです」(コンディショニングコーチの牧野講平さん)

JBJは、関節をモビリティよりスタビリティが優位なタイプと、逆にスタビリティよりモビリティが優位なタイプに分ける。両者は基本的には交互に並び、それによりカラダは効率的に動けるのだ。

各関節のおもな役割。
  • 可動性…モビリティ
  • 安定性…スタビリティ

全身には260もの関節があるという。運動連鎖において関節は多彩な役目を担っているけれど、JBJはそこからモビリティとスタビリティという2つの主要な機能を取り出し、左記のように主要な関節に当てはめてわかりやすくタイプ分け。

肩甲骨と股関節だけが、スタビリティとモビリティを両立。

関節はスタビリティ優位かモビリティ優位かに仕分けできるが、肩甲骨と股関節だけはやや立ち位置が異なる。スタビリティとモビリティの両道を行くのだ。

肩甲骨が作る関節には、腕の上腕骨と作る肩甲上腕関節(肩関節)と、胸郭と作る肩甲胸郭関節などがある。このうち肩関節はモビリティ優位であり、肩甲胸郭関節はスタビリティ優位だ。

股関節は本来モビリティ優位だが、体重がかかる荷重関節としては安定性も求められるから、スタビリティ優位関節の側面もある。

つまり肩甲骨と股関節は、そのつどいちばんいいポジションに安定させながら、思い通りに稼働させることが大切なのである。

「トレーナーたちも、以前は肩甲骨や股関節を“固める”という表現を使いましたが、固める=動かないという誤解を招くので、現在は“安定”という言葉を用います。これもスタビリティとモビリティの両立を訴えるJBJの功績です」

肩甲骨の動きが悪いから肘痛が起こる。

腕(上腕)の付け根は肩甲骨。そして上腕と肩甲骨には「肩甲上腕リズム」がある。

これは腕と肩甲骨が2:1の割合でシンクロして動くというもの。仮に肩甲骨がサビて動きが悪くなると、その分だけ腕の仕事が増えて肩関節の負担となり、肩こりの引き金になったりする。

肩甲上腕リズムの乱れは、隣接する肘関節にも波及する。

JBJでは、肘関節はスタビリティ優位関節。だが、肩甲骨のモビリティが落ちると、肘関節は過剰なモビリティを強いられる。肩甲骨がきちんと働けないまま、スポーツなどで同じ動作を繰り返すと、肘関節にストレスが溜まり、使いすぎによる「オーバーユース症候群」を招きかねない。

結果起こるのが、野球のピッチャーの野球肘やテニスのテニス肘である。

人のか肩甲骨の骨のイラスト_腕を45°の角度に伸ばしている

人のか肩甲骨の骨のイラスト_腕を真横に伸ばしている

人のか肩甲骨の骨のイラスト_腕をあげているイラスト

腕を体側につけた状態から真上に上げると肩関節は180度動く。その内訳は腕が約120度、肩甲骨が約60度であり、稼働範囲は2:1となる。

股関節の動きが悪いことも腰痛を招きやすい。

上半身の肩甲上腕リズムと同じように、下半身にも「腰椎骨盤リズム」がある。立った姿勢からの前屈・後屈で確かめよう。

前屈する際、腰椎が先に曲がり、次に骨盤が前傾し、最後に股関節が屈曲する。そこから後屈して元に戻るときは、さっきと逆に股関節の伸展→骨盤の後傾→腰椎の伸展という順番で連鎖していく。

確認してほしい。JBJでは、腰椎はスタビリティ優位関節、股関節はモビリティ&スタビリティ関節だ。前屈時も後屈時も、股関節のモビリティが低いと、代わりに腰椎は大きく動くことを要求される。それは、もともとスタビリティ優位な腰椎のストレスとなり、積み重なると慢性的な腰痛が生じかねない。腰痛予防のためには、股関節のモビリティを引き出すトレーニングも欠かせないのだ。

股関節を曲げているイラスト

股関節を曲げているイラスト

股関節を曲げているイラスト

腰椎、骨盤、股関節の見事な連携プレー。骨盤と脚の大腿骨が接するのが股関節だから、その実態は「腰椎骨盤股関節リズム」と呼びたいくらい。