処方薬との違いは?痛いときの救世主・市販薬の基本。
鎮痛剤を手に取るたびにきっと誰もが一瞬、悩むはず。この痛みにこの薬で合ってるのか? 処方薬と市販薬で効き目が違う? 身近なものなのに意外と知らない薬のあれこれを専門家に聞いてみた。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/堀 道広 編集/阿部優子 参考資料/『ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます』(児島悠史/羊土社)
初出『Tarzan』No.918・2026年1月22日発売

教えてくれた人
田中正史(たなか・ただし)/〈笹塚21内科ペインクリニック〉院長、医学博士、漢方専門医。東京慈恵会医科大学卒業。日本麻酔科学会認定麻酔指導医、日本ペインクリニック学会認定医。
児島悠史(こじま・ゆうし)/薬剤師、薬学修士。京都薬科大学大学院修了。著書に『薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100』『OTC医薬品の比較と使い分け』(共に羊土社)ほか。ブログで薬の情報を公開。
Q.薬で痛みを抑える仕組みは?
いま人気の高い鎮痛薬は非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)だ。その代表的成分はロキソプロフェンやイブプロフェン、ジクロフェナクなど。では、これらの成分はどうやって痛みを抑え込むのか?
「痛いときには発痛物質・プロスタグランジンが体内に淀んでいます」(田中正史先生)
NSAIDsはプロスタグランジンの合成を妨げることで症状を緩和してくれるのだ。だが、プロスタグランジンには胃の粘膜を保護する性質もある。その合成を阻害すれば、胃にトラブルを生じることも。
「同時に胃腸薬も服用すると、胃腸の荒れを予防できる可能性があります」
実際、プロスタグランジンの産生を促して胃粘膜を保護する薬《ムコスタ》は、しばしばNSAIDsとともに処方される。

プロスタグランジンは不快な症状を招き寄せる負の側面がある一方、胃には粘膜を守るという正の側面も見せる。
Q.市販薬と処方薬で違いはありますか?

「実は市販されている鎮痛剤の大半は、成分も濃度も処方薬と同じです」(児島悠史さん)
処方薬にしか配合されない成分は、取り扱いに注意を要するものが多い。新薬に使われる新しい成分も市販薬まで下りてくるには時間がかかる。まずは医師、薬剤師の管理のもとで使用し、効果と安全性で実績を積み重ねてから市販薬にというのが一般的な流れ。
「市販薬は効き目が少し弱めだろうという先入観を持つ人もいますが、鎮痛剤は内服薬も外用薬も実は一線級の薬がそろっているので、処方薬に見劣りすることはほとんどありません」
Q.外用薬にはどんな種類がありますか?
湿布薬(テープ剤とパップ剤)はどこが違うのだろう。
「テープ剤は粘着力が強く1日もちますが、はがす時の皮膚への負担は大きめ」(児島さん)
片やパップ剤はぼってり肉厚。
「薬剤だけでなくゲルが水分を含むので、患部を冷やし、クッションとして保護の役目も」
はがれやすいのが弱点だから、動きの多い関節には不向きだ。
「スプレー剤は患部から10cm以上離し、噴霧は3秒未満にとどめておかないと凍傷になる恐れがあります」
その他の形状は下の表に。
| パップ | 腫れて熱を持っている痛み、筋肉痛に 【長所】患部を冷やせる 【短所】薬が分厚く目立つ、はがれやすい |
| テープ | 関節など、よく動かす部分に 【長所】薄く、伸縮性・粘着性に優れる 【短所】ひんやりとした清涼感は得られない |
| スプレー | スポーツ時のケガやクールダウンに 【長所】広い範囲を瞬間的に冷却できる 【短所】連続噴霧すると凍傷を起こす |
| クリーム | 筋肉の緊張や凝りに 【長所】マッサージしながら塗れる 【短所】べたつきがあり、使用感がよくない |
| ゲル | 使用感を優先させたいときに 【長所】べたつかない 【短所】皮膚表面に残る、刺激がある |
| 液 | 広範囲に使用したいときに 【長所】広い範囲に塗りやすい 【短所】刺激がある、汗などで取れやすい |
| チック | 手で塗りにくい場所の痛みに 【長所】手を汚さずに使える 【短所】商品が大きくかさばる |
| 温感タイプ | 冷えによる痛み・凝り、慢性的な痛みに 【長所】温感があり、血流をよくする 【短所】入浴時に刺激を感じることがある |
Q.用量が年齢、体格など関係なしに「大人」とひとくくりなのは不安です。
確かに用法欄を見ると“大人1回2錠、子供1回1錠“などと書いてある。けれど体格の個人差・性差は大きいし、いかにも幼い子供から、成人と見紛う大きな子供もいる。
「処方薬では体格や体重、評価に血液検査の必要な腎機能なども考慮して分量を細かく変える薬はあります」(児島さん)
だが、市販薬は一般的成人なら大体このくらいの範囲内の量で使えば大丈夫だと考えられる用量・用法に定まっている。
「消費者が何か特別なことに気をもむ必要はありません」
Q.ずっと使い続けてもいいのでしょうか?
連続使用は何日まで。それでもよくならなければ受診を、と促す注意書きがあるなら、それに従えばいい。だがしかし。
「記載がなければ何日までという制限はありません。けれど長期間ずっと腰が痛ければ、我慢せず、病院に行った方がいいかもしれません」(児島さん)
また、使っているうちに、薬に対する耐性ができて、いままでと同じ量では効かない、効きづらくなるのではと不安がる人もいるが、
「連続して使い続けても、鎮痛剤に関しては耐性ができて、効き目が弱まるという心配をする必要はありません」
Q.肩こり、腰痛、膝痛、全部同じ薬でいいですか?
内服薬だろうが外用薬だろうが、有効成分と用量が同じなら作用、効き目も同じだ。
「痛みがあるときに最初にやるべきは、その箇所に湿布を貼ること。ローカルに攻めてください。ローカルに攻めて、ダメだったら、初めて内服薬の使用を検討します」(田中先生)
とはいえ、市販の湿布を貼っているときに、同じ目的で市販の内服薬を同時に使うのは禁物だ。薬の血中濃度が上がりすぎて、副作用を生じてしまう危険があるからだ。
また、湿布には使っていい枚数に制限のあるものもある。添付文書はよく読もう。
Q.鎮痛剤の成分にはどんなものがありますか?
店頭で目立つのはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)で、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどが該当する。いずれも引けをとらない効き目が自慢だ。
「ですが、こういう効き目の強い薬を使えない人がいます。特定の成分に喘息が出るケースがあるからです」(児島さん)
禁忌は添付文書に記載があるので服用前に必ず確認を。
「その点、NSAIDsではないアセトアミノフェンは、効き目は少しマイルドになりますが、高齢者、妊婦、子供なども比較的安心して使えます」
効き目でアセトアミノフェンに近いのがサリチル酸。特有のにおいはあるが使いやすい。

内服薬/市販の解熱鎮痛薬の選び方(厚生労働省)を参考に編集部作成
外用薬/児島悠史さん提供
成分が知りたいけど字が小さすぎる!

気になる製品があれば、小さい文字と闘うより調剤師に尋ねよう。痛みを鎮めてどうしたいかも伝えると絞り込みやすくなる。
Q.漢方で痛みに効くものは?
通常の鎮痛剤にありうる副作用を不安がる人もいるだろう。
「そんな人には“押してもダメなら引いてみな”の精神で漢方薬を処方します」(田中先生)
ファーストチョイスは葛根湯だというが、
「なぜ葛根湯かというと、もともと肩こりをはじめ、上半身の神経痛の薬だからです」
足腰が冷えやすく、疲労しやすい若い女性にもいいという。
「肩こりには当帰芍薬散もお勧めです。体格のいい患者さんには桂枝茯苓丸が合いますし、頭痛のある慢性の肩こりには釣藤散が適することがあります」
肩こりだけでも漢方薬は選択肢が豊富だ。漢方に通じた医師、薬剤師と相談するといい。市販薬も豊富に販売されているが少し高価なことがある。受診して処方してもらえれば、手ごろな価格になる可能性がある。
Q.鎮痛剤に副作用はありますか?
薬のアレルギーにアスピリン喘息というものがある。過去にこの診断を受けたことのある人が、うっかりNSAIDsを飲むと、喘息の発作に見舞われる可能性が。場合によっては生命の危機にもなりうるのでアセトアミノフェンを選ぶ。処方薬には、NSAIDsとしては例外的に使えるセレコキシブがある。
「要注意なのは湿布です。枚数を貼りすぎたり、鎮痛剤を同時に飲んだりすると、血中濃度が上がりすぎた有効成分が全身を巡って、胃や腎臓に悪影響を及ぼすことも」(児島さん)
Q.光線過敏症って何ですか?

湿布の中には、はがした後もその箇所を日光に当てると、湿布の形に腫れるものがある。
「光線過敏症といいます。日差しが強くなり、薄着になる5月には、皮膚科や薬局に患者さんが大勢来ます」(児島さん)
内服薬で光線過敏症になることは少ないが、鎮痛剤以外の内服薬で起こることもある。症状をもたらす湿布としてはケトプロフェンが多いが、インドメタシンやフェルビナクにも報告がある。
「はがした後、最低でも4週間は日光に当てないように注意してください。日が当たりやすい首筋〜肩は要注意です」
事情があって紫外線対策のできない人は内服薬が無難だ。
Q.“多めの水で飲んでください”の多めとは、どのくらい?
「多めとはしっかりコップ1杯分、180〜200ccと覚えておきましょう」(児島さん)
少量の水で飲むと、特に溶けやすいカプセル剤は喉に引っかかることがある。すると、そこで薬が溶け出し、食道や喉がひどく荒れたり、粘膜に穴を開けてしまう可能性もあるという。
「薬を確実に胃の中まで落とすため、特に高齢者や子供には多めの水でと伝えています」
また、発熱しカラダが脱水気味のときの鎮痛解熱剤は、腎臓に重い負担となる。それを回避するためにもたっぷり飲もう。
Q.内服薬は水以外で飲んじゃダメですか?
かつて風邪などの発熱時にはスポーツドリンクで服薬するといいとされたことがあったが。
「それは発熱し、消耗しているカラダには水分だけでなく、糖分と電解質の補給も必要だから、薬をスポーツドリンクで飲むとこれらがまとめて摂れて、手っ取り早いというだけのことです」(児島さん)
スポーツドリンクが鎮痛剤の効き目を後押しするものではないし、スポーツドリンクで飲んだからといって、効き目が悪くなるような鎮痛剤はない。ただの水で十分だけど……。
Q.目を引くパッケージを選びがち。これってダメ?

いま世に出回っている鎮痛剤は約400商品。その半数以上に催眠鎮静成分が入っているという。調子が悪いから薬を飲んで早く寝たい人にはいいが、薬で症状を抑えて、仕事と取り組みたい人には不向きだろう。
「アリルイソプロピルアセチル尿素やブロモバレリル尿素といった成分です」(児島さん)
こうした成分を含む製品は、なぜかきらびやかなパッケージのものが多く、製品名もデラックスな雰囲気で価格も高め。そのせいで、いかにも効きそうに見える。おかげで、つい手に取る人も少なくない。
「最近は眠くなる成分が入っていないことを強調した製品や宣伝も増えてきました」
こうした情報にアンテナを張るか、薬剤師に確認しよう。
Q.鎮痛剤をうまく使うには?
我慢強い人や薬に警戒心が強い人は、少々の痛みでは飲まず、頑張りがち。だが……、
「たとえば今日、歯科医院で抜歯の予定なら、朝から効き目の強いNSAIDsを飲んでおけばいいんです」(田中先生)
普通は抜歯後の服薬だろうが、事前に飲んでおいた方が痛みにくくてラク。これを医師は予防的鎮痛と呼んでいる。
「毎回、痛みが出ることがわかっている作業をするなら、開始前に湿布を貼っておけばいいんです。いまどきの湿布は貼れば24時間もちますから、最初から貼って、痛みが出なければそれでいいと考えています」
Q.酒を飲む人は鎮痛剤が効きにくいってホント?
酒をたくさん飲む人は、肝臓にアルコールを分解する酵素が多くなっているため、薬剤の分解能力も亢進しているという報告がある。とはいえ、血中に薬が残っているときの飲酒は危険。薬効が減衰したり、増幅したりで弊害は予測が難しい。
「酒飲みには薬の分解が速い人もいるかもしれませんが、鎮痛剤が効きにくくなることはありません。その人のライフスタイルには無関係に、鎮痛剤は飲めば効きます」(児島さん)
ただし、日常的にアセトアミノフェンと酒を飲んでいると、肝臓への負担が重くなるという報告はある。
Q.いろいろな種類の薬があって、どれが自分に合うのかわかりません。

製品選びに困ったら、店舗に常駐の薬剤師に相談するに限る。このときに、いま自分がどんな症状かだけでなく、薬でその症状を抑えることによって何をしたいかも伝えると、薬剤師は候補を絞りやすくなる。
「膝痛のある人がサッカーをしたいとします。サッカーは大体短パンでやるから、汗で湿布ははがれるかもしれないし、光線過敏症も心配だから、内服薬をお勧めします」(児島さん)
ひどい肩こりで痛いのに、職場で仕事が待っているなら、においで周囲に気づかれないように、メントールを含まないものがお勧めになる。適切な製品選択には、薬剤師が患者の背景情報をたくさん持っていた方がいい。そのためにはかかりつけ医だけでなく、かかりつけ薬局・薬剤師を持っておこう。
Q.使い残しをしまうときに、注意すべきことは何ですか?

まずは高温多湿の場所を避けること。また、特有のにおいが強いメントールやサリチル酸を配合してある湿布は厳重に密封すること。
封がいい加減で、においが漏れていたために、隣の目薬に移ってしまい、その目薬をさしたらしみたとか、座薬に成分が移って、使ったら痛かったなどという失敗談も。湿布を冷蔵庫にしまっている人もいるだろう。
「アレルギーの薬に冷蔵を嫌うものはありますが、鎮痛剤に特に制限はなく、ひんやりしている方が気持ちよければ冷蔵保存でも結構です」(児島さん)
Q.少しぐらい使用期限を過ぎた薬も、飲んで大丈夫?
多くの市販薬は使用期限が大体2〜3年ぐらい。それを少々過ぎたぐらいで、品質が劇的に劣化するものではないが、ここは潔く廃棄するのが賢明だ。
「入院が必要になるような副作用が出たとき、副作用被害救済制度によって、費用を補助してもらえる可能性があります。この制度は処方薬にも市販薬にもあります」(児島さん)
ただし、補償を受けられるのは正しく使った場合のみ。他人から処方薬をもらったり、用法・用量を超えてたくさん使ったり、海外の製品を個人輸入して使ったりすると対象外。期限切れの薬は推して知るべし。
Q.湿布によくかぶれるのですが。

「かぶれる人の多くは、はがすときに勢いよく引っ張っているようです。これでは表皮を傷めてしまい、傷めた表皮が回復する前に次の湿布を貼るから、赤くかぶれたままになってしまいます」(田中先生)
湿布の進化の陰では粘着剤の高性能化も著しいのだ。いったん貼ったら24時間はがれないほど強力なものは湿らせてはがす、あるいは入浴時にはがすのがお勧めだ。
ただし、カプサイシンを含むような温感タイプの湿布は、入浴1時間前までにははがしておかないと大変。冷感タイプにその心配はない。
湿布を貼ったまま入浴!

温感タイプの湿布に配合された辛み成分・カプサイシンは皮膚にある熱の受容体を刺激する。うっかり貼ったまま入浴すると痛い〜!
Q.薬と食べ合わせ・飲み合わせの悪い食品はありますか?
薬によっては飲食物との相性のよくないものがある。たとえば一部の降圧剤とグレープフルーツ、一部の抗アレルギー薬とリンゴジュースなど。だが、
「こういう食べ合わせ、飲み合わせの問題は、鎮痛剤にはあまりありません」(児島さん)
ただし、胃を荒らす可能性のあるNSAIDsは、空腹時を避けた方がいい。
「服薬はプロテインでも何でも摂ってからがいいと思います。食前、食後などの指示があったら、その通りにするのが一番です。気になったら、製品購入時にそのつど薬剤師に相談すると安心です」
外用薬6選。
内服薬5選。
おくすり手帳はアナログがお勧め。

複数の調剤薬局から受け取った薬同士がケンカをしたら困る。
「これを避けるため、一冊のおくすり手帳に情報を集約しましょう。処方薬以外の市販薬も、パッケージの成分表を切り取って、おくすり手帳に貼っておくことをお勧めします」(田中先生)。
随分アナログな手法に感じられるだろうが、もしもあなたがこうした重要情報をスマホに記録していたとしたら、急な体調の悪化で気を失った場合、誰がスマホを操作できるか?
おくすり手帳には受診した医療機関名も記録されているから、医師や救急隊はその医療機関に問い合わせることもできる。重要事項は“紙”に限る。















