〈NIKE〉の《ストラクチャー プラス》|これ、履きたい。

スタイリング・文/小澤匡行 撮影/キム・マルセロ ヘアメイク/曳田萌恵

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シューズ《STRUCTURE PLUS》 22,000円、トップス 6,380円、 インターベスト 10,000円、ショーツ 5,000円 以上ナイキ、問い合わせ先:NIKEカスタマーサービス 公式サイト

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文・小澤匡行

普段から〈ナイキ〉を履いて走ることが多い自分だが、基本的に最新の「ボメロ」と「ペガサス」をローテーションしている。クッション性に秀でた「ボメロ」は、自分に優しくしたい時、「ペガサス」は、自分をちょっと追い込みたい時だ。距離やスピードでシューズを考え過ぎると、それがただのギアのように扱われてしまう。だから僕は、まず自分のコンディションを把握して、シューズを選ぶようにしている。今日はどのくらい走ろうか、をその後で考える順番だ。正直、たくさん所有しているから、練習メニューで選ぶと固定されがちになるのも理由ではあるのだが、シューズの個性や特徴を性格と捉えて、その日の自分の心持ちに合わせていく行為もなかなか楽しい。

そこに最近《ストラクチャー プラス》が選択肢に加わった。〈ナイキ〉ではロードランニングを「ペガサス」、「ボメロ」、「ストラクチャー」の3つの横軸に分類していて、「アイコン」、「プラス」、「プレミアム」と3つの縦軸に沿って展開されている。その「ストラクチャー」の「プラス」がこれにあたる。正直、「ボメロ」のクッション性と「ペガサス」のスピード感があれば十分だと思っていたが、このシューズを深く知り、試走させてもらって僕のわずかな感覚のスペースに入ってくるシューズだと感じた。言い換えれば、これまで履いたことのない〈ナイキ〉だった。

そのシューズの歴史は30年以上前にまで遡る。クッショニング戦争だった80年代のランニング市場が、次第に安定性(スタビリティ)へと関心が移り始めた1988年に〈ナイキ〉は「STABILITY」の頭4文字をとった《エア スタブ》という安定性重視のシューズを開発した。それはミッドソールに”フットブリッジ”という骨格のようなパーツをつけることで、足を真っ直ぐに保ち、ランニング時の体重を支える設計だった。その思想を踏襲したのが、1991年の《エア ストラクチャー》だった。ランナーの怪我の原因となるオーバープロネーション(足首が内側に倒れ込む症状)を抑えるために、硬いサポートパーツで支える。スタビリティとはそんな矯正的な考えからスタートした。

しかし技術の進歩は安定性そのものの思考回路を変えてしまった。厚底のフォームが世に出たことで、これまでの「優れた軽さとクッション性は不安定であり、重くて硬いものは安定感がある」といった二元論は過去のものになった。《ヴェイパーフライ》の登場から、〈ナイキ〉は「分厚いのに軽い」だけでなく「柔らかいのに安定する」というパラダイムシフトも作り上げてしまった。それ以降、僕も箱根駅伝や世界大会で活躍するようなランナーに取材する機会が増えたが、多くのトップアスリートは「ストラクチャー」シリーズを愛用していることを知った。彼らは口を揃えて「怪我している自分と向き合う時」に履いていた。つまり華やかな表舞台には出てこないが、みんなが憧れるランナーたちの、ちょっとしたドクターのようなものだ。

怪我を誘発するほど思い切り走り込んだ経験がない僕にとって、それでも安定性は縁遠い存在だったが、最新のこの《ストラクチャー プラス》は柔らかさを覚えながら自然にガイドされていく、モダンなランニング感覚の中に足がすっと収まるようなシューズだと感じた。物理的な硬さに矯正を取り除いて、クッションによる復元力と独自の形状で、自然にライドさせるサポート力を両立させている。これは走るモチベーションがちょっと不安定だったり、脚の状態にちょっと不安があるときに選ぶ一足になった。

ミッドソールのZOOMXの文字を囲む波のようで山のようなウィンドウの形状は、前述の《エア スタブ》の象徴的なディテールから着想を得ている。シューズの考えは進化しているのに、デザインには初期を連想させるレトロなディテールを残すことで、積み重なったストーリーを語り継ぐ。それはとても〈ナイキ〉らしくて、スニーカー好きのランナーには結構刺さっているはずだ。

たとえ昨日と同じ距離を同じペースで走ったとしても、ランニングはいつも一定ではない。身体の内側に流れる、日々わずかに異なる人間的な違和感を、アスリートの世界では心拍というジャンルが判断するようになった。それはきっと正しいのだろうが、観点がちょっとトレーニング過ぎやしないか。もっと心のズレを調整するためにシューズとの関係を構築していく方が、健康的だと思うことがある。速さを引き出すでもなく、足を優しく支えるだけではない。自分の言葉にしづらいコンディション領域を肯定して、すっと馴染んでくれる一足に《ストラクチャー プラス》がなったら良いと思う。それを選ぶ行為は、結果的にとても知的でシンプルであり、機能面でもフィットしている。