ラッパー・Awichは、なぜ鍛えるのか?

カラダをもっと大切にすると語るのは、アーティスト・Awich。いまの時代のウェルネスを、彼女ほど言葉と態度で語れる人はいない。走って、整えて、鍛える。「強さ」のつくり方を紐解いてくれた。

text: Kenji Inoue photo: Yusuke Abe styling: Marie Higuchi hair & make-up: Tori

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Awichのトレーニング中の様子
Profile

Awich(エーウィッチ)/沖縄出身のラッパー。本名の漢字を直訳した、Asia Wish Childを略した名を持つ。独自の歴史と文化を持つ沖縄の精神性をルーツに、個人的な喪失や数々の困難を乗り越え、その経験を表現へと昇華。揺るぎない覚悟と意志をもって、日本ヒップホップシーンのクイーンとしての地位を確立してきた。日本武道館公演やアリーナ規模のライブ、海外フェスティバルへの出演など、音楽・カルチャー・ファッションの境界を越えながら活動領域を拡張。日本発ヒップホップを象徴するアーティストのひとりとして、幅広い分野で強い共鳴を生み出している。

自身のカラダを客観的に解析する。

Awichが街中を歩いている様子

──取材前に、自身のカラダを分析した手書きのノートを写真で見せていただいたのですが、内容の緻密さが衝撃でした。

私、感覚派じゃなくて理論派なんです。楽曲制作でも「どういう言葉をどの割合で入れるか」を考え抜くタイプ。ノートも同じ。自分のカラダの課題を研究して、人体解剖図などを参考にしながらメモしたもの。

トレーナーやピラティス、整体の先生にも見てもらって、意見を聞いて、修正を重ねています。娘に「これを『Tarzan』に送るよ」って言ったら、「最初に『笑わないでください』って書いたら?」って進言されました(笑)。

Awichの画用紙にメモ

「乗っ取った娘の画用紙に書いています」

──笑うなんてとんでもない。見つかった課題は?

ずっとアメリカに憧れてたのに、背も低いし、カラダのボリュームもないのがコンプレックスで。20代までは大きく見せるために高いヒールを履いて、反り腰で見栄を張ってた。

その結果、足元からインナーの力が抜けて軸が定まらなくなり、アウターで虚勢を張ってごまかす日々。

これじゃダメだって気づいたのが30代後半でした。何をどう変えるべきかまではわからなかったけど、いまはその「外剛内虚」を、外側はリラックスさせて内側を充実させる「外虚内剛」に変えるべきだと納得できた。これが「内外修正」です。

それ以外に前後の歪みを整える「前後修正」、左右の偏りを矯正する「左右修正」がある。左右修正は道半ば。でも、内外修正と前後修正はかなり進みました。

カラダを忘れると感受性が落ちる。

Awichがトレーニングしている様子

坐りすぎがいちばんの大敵。日本の礼儀なんですけどね。お尻とか脚の大きな筋肉が圧迫されて、血液を循環させるポンプが働かなくなる。もっと動いて、全身に血液を巡らせたい。

──真剣にカラダと向き合い始めたきっかけは?

毎年1月1日に沖縄に帰って、前年の記録を読み返しながら、その年の目標を立てるのが恒例なんです。今年の目標に掲げたのが「カラダをもっと大切にする」。考え事が大好きで、じっと坐っていろと言われたら一日中でも坐って考え続けられる。

親譲りでめっちゃ体育会系だったのに、気づいたらカラダを置いてけぼりにしている時間が長くなっていた。カラダと脳はつながっているから、カラダを忘れると感受性が落ちる。心が揺さぶられるものや、刺激的な何かに出合っても、深く感動できなくなる。それがだんだん気持ち悪くなったんです。

それで以前は週2〜3回だったトレーニングを今年1月から毎日やるようになりました。朝起きたらまず30分くらい走る。その後自宅にトレーナーを招いて鍛えたり、ピラティスや整体に出かけたりします。

──毎日ですか。やりたくない日は?

もちろんあります。でも、1日サボったら次の日やるのがしんどくなるだけ。だから“何かしら”動きます。走るのがきつい日は、公園を2周歩くだけでもいい。

気分が乗ったら少し走って、辛くなったらまた歩く……その繰り返しでいい。そもそも脳は、心拍数や体温が低いところから高いところに持っていくことを「面倒くさい」と感じる。だからこそ定期的に上げて、「運動しても平気なんだ」って脳にインプットしてあげる必要がある。

Awichがトレーニングしている様子

Awichがトレーニングしている様子

鍛え始める前に必ずアセスメントを行う。テーマは「感じる」こと。今日はお尻が上がらない、肋骨が閉じない、呼吸がちょっと浅い……。その理由を探すところがスタートライン。

──肉体面以外で、何か変わったことは?

機嫌が良くなった! 性格はいい方だと思うんだけど(笑)、去年とかは特に余裕がなくて機嫌がギリギリの日が多かった。去年だったらこのインタビューも大変だったかもしれない(笑)。たぶん眠れてなかったからだと思います。

私、小さいときから不眠症だったんですよ。一日が終わりに近づくとみんな「あぁ、疲れた。今夜は絶対気持ちよく眠れるぞ」って言うじゃないですか。娘もそうなんだけど、意味が全然わからなかった。ベッドに入って「気持ちいい!」と感じたことが一度もなかったんです。でも毎日運動するようになって眠れるようになり、夜が来ると「早くベッドに入りたい!」って願うようになった。

睡眠と覚醒ってセットだと思うんです。これまでは、睡眠と覚醒が渦巻き状に混ざり合うマーブルな状態。日中も眠いし、ダルいし、ちゃんと覚醒していなかった。いまは睡眠と覚醒のスイッチがバキッと切り替わるようになったので、音楽制作にもプラス。運動で自分のカラダを大事に扱うことは、脳ミソにもいいって実感できてます。

Awichがトレーニングしている様子

トレーニングは絶対気持ちいい。快感って脳が発するものだけど、刺激を感じ取るのはカラダ。カラダを動かしていないとその感受性も鈍る。

──食事で気をつけている点は?

最近改めて思うのは「嚙む」大切さ。咀嚼しないと消化が不十分でお腹が重くなるし、腸内環境も悪くなる。最近は時間がない朝は起きたら雑穀若玄米を25gくらい口に放り込んで、身支度しながら、それを甘酒みたいになるくらいまで嚙んで飲み込んで、それから走りに行きます。空きっ腹ではガス欠になるので。雑穀若玄米はミネラルや食物繊維、アミノ酸も豊富なのでスーパーフード。

Awichがドリンクを飲もうとしている様子

──ヒップホップやラップとトレーニングの共通点を挙げると?

ラップって、自分を誇る表現なんですよ。自分の地元や、今までのストーリーへの誇りでもある。だから、自分自身を深く理解してないままラップしても、結局カッコよくはならないと思うんです。外の世界より自らの内側に目を向けて「外の世界がどうあれ、自分はこうだけど、何か?」って胸を張って言える強さがあれば、ラップしててもカッコいい。

Awichがトレーニングしている様子

カラダを研究するのが好き。解剖図を見ながら筋肉と関節を動かしている。自分のカラダへの興味が尽きない。自身のポテンシャルをもっと愛したい。

──トレーニング中、どんな音楽を聴いていますか?

ライブが近いと自分の楽曲を聴きます。やる気を鼓舞したいときは沖縄のエイサー。私にとって絶対上がる音楽です。体調がいいときは、USのヒップホップの新譜プレイリストを聴き流すかな。

Awichがヘッドホンをしている

SNSの映えるトレーニング動画に惑わされて自己観察を怠るのがいちばんよくない。 ちゃんと感じて、自分なりの仮説を定めてから、日々研究していくと、小さな違いに気づけるから続けられる。

Awichのメモ

セッション後のノートは欠かさない。 無数の小さな気づきを積み重ねて、 ようやく自分のカラダの癖が見えてくる。 今は「前後」「内外」「左右」という三軸で整理し、 日々の意識に落とし込んでいる。