佐竹優典(パワーリフティング)「本当に楽しい! この競技に夢中です」
パワーリフティングで805kgの重量を挙げて世界王者になった。だが、彼は絶対に歩みを止めない。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2026年5月14日発売〉より全文掲載)
text: Ichiro Suzuki photo: Yusuke Nakanishi
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Profile
佐竹優典(さたけ・ゆうすけ)/1996年生まれ。160cm、66kg。体脂肪率15%。全日本パワーリフティング選手権大会エクイップ9連覇。クラシック2回優勝。2014年、世界サブジュニア選手権大会優勝。18年、世界ジュニア選手権大会優勝。22年、25年、ワールドゲームズ2連覇。25年、世界選手権初優勝。エクイップ66kg級スクワット日本記録315kg。エクイップ66kg級トータル日本記録805kg。
才能あるといわれて、もしかしたらという謎の自信がついた。
25年開催された世界エクイップパワーリフティング選手権の男子66kg級で優勝したのが、佐竹優典である。また同年8月には、オリンピックには採用されていない競技の最高峰ともいえるワールドゲームズで勝利を収めている。
で、パワーリフティングだが、トレーニングのビッグ3と呼ばれるスクワット、デッドリフト、ベンチプレスの合計重量を競う競技。2つの種類があり、ひとつは佐竹が優勝したエクイップで、カラダをサポートするスーパースーツなどを装着して行う。もうひとつは、クラシックで補助的な要素はなし、自分の力で競うものだ。
当然、エクイップのほうが高重量を挙げることができ、佐竹の場合は「トータルで120kgぐらいの差です」と語る。ともあれ、世界選手権優勝は日本人として19年ぶりだし、ワールドゲームズは4年に1回開催され、前大会でも優勝しているので連覇ということになる。大会前の心境はいかなるものか。

「気構えというのは本当にないんです。世界選手権はここ数年出場させてもらっているし、ワールドゲームズの2連覇はさすがにそろそろやらなきゃという気持ちでしたから。試合前日とかも普通に散歩したり、あとは現地で髪の毛を切りにも行きました。試合前に髪を切るのがルーティンになっていますね」
なぜか競技を始めたときから、佐竹には不思議な自信があったらしい。高校に入学したとき陸上の投擲種目に興味があった。見学の初日は陸上部に行ったが翌日はあいにく雨。ここで、運命の出会いとなる。

「屋内競技を見ようと体育館に行ったら、何かガシャン、ガシャンという音が聞こえてきて、気になって見に行ったんです。で、スクワットやベンチをいきなりマックスでやらされたのが、けっこう楽しくて。失敗しても先輩がすごくおだてるんです。絶対入った方がいい、才能あるよって。オレ、もしかしたら才能あるのかなみたいな、考えればそこから謎の自信がついたみたいです」
先輩の予見は正しかった(部員を引っ張る目的だけだったかもしれないが……)。やればやるほど力がつき、高校では年間で100kgほどの重量の伸びがあった。そして、高校3年生のときには18歳以下の世界選手権で世界記録を出して優勝する。青山学院大学に進学し、通い始めたのがパワーリフティングジムTXP(Team X-treme Power!!!)だ。

2012年から全日本選手権で12連覇を成し遂げた阿久津貴史さんが設立した。そのころの佐竹の頭を大きく占めていたのがワールドゲームズである。そして、このワールドゲームズには当時、クラシック部門がなかった。クラシックと名がついたものの、この世界選手権が初めて開催されたのは2012年のこと。それまでは、エクイップ=パワーリフティングと捉えられる傾向があり、佐竹もそのように考えていたのである。
アライメントが崩れる。コンディショニングが大切。
実際にトレーニングの一部を見せてもらった。驚いたのが、スクワットで235kgを3レップ(3回しゃがんで立ち上がる)行ったことだ。ただ、高校のときのように1年間で100kgも伸びるということはない。もうすでに、極限というところまで来ているのである。何をモチベーションにしているのか。
ひとつにはスピードだろう。スクワットを行うときに、佐竹はRepOneというギアを使う。バーベルのシャフトにごく軽いワイヤーを付け、しゃがみ込んだときから、立ち上がりまでの時間を計測できる。「ゼロコンマゼロゼロ秒の世界」なのだが、速くなれば力×スピード=パワーは当然大きくなる。さらに、大切にしているのがコンディショニングなのだ。

「カラダはあるべき状態になっていれば、勝手に重さを持ち上げられるようにできている。普段の生活でアライメントが崩れてしまい、その状態でトレーニングするとケガをしやすくなる。だから、専門家の話を聞いたり、本も読んだりして、トレーニング前にちゃんと動ける状態を作るようにしています。いわゆる、コンディション・エクササイズです」
まずは50分かけてストレッチ。その後にスクワット。終わったら15分のストレッチ。ベンチプレスの後にまた15分ストレッチでデッドリフトに移行という感じ。佐竹は社会人だから、休日の1日をこんなふうに過ごす。昼過ぎにTXPに行き、終電までかかることもある。さらに週4日は自宅近くの24時間営業のジムでトレーニング。こちらは1時間30分ほどで3種目のうちの2種目と、あとは他の部分をマシンで鍛える。

「ハム(ストリングス)にフォーカスしたルーマニアンデッドリフトやヒップスラストなどもよくやります。基本、全面性の原則(トレーニングの基本原則=全身を鍛えることでパフォーマンス向上とケガ防止を目指す)っていうのがあるので」
競技を始めて14年、いつまで経っても面白くてしかたない。
さらに大変なことが。大きな力というのは常には発揮できない。佐竹は大会に年4度出場するが、全力を出し切るのはそのときだけなのだ。

「練習は4週単位で行います。1週ごとに重量を上げて、4週経ったら前回の第1週よりも重量を上げて再スタートです。そうして小さなピークを作りながら、大会への大きなピークへと目指していきます。練習の過程でこれまでギリギリだった重量が少しずつ楽に挙げられるようになっていく。そんなこともモチベーションになっていますね。トレーニング、仕事、睡眠の生活で、仕事が終わらなければ夜中にトレーニングすることもある。“何でそんなことができるの”って言われたりするんですが、飲み会にだって行きますよ(笑)。でも、パワーリフティングのない生活は考えられないです」
もし、やめてしまったら、空いた時間をどう過ごしていいかわからないと言う。普通の生活というものがイメージできないのであろうか。

「やめるビジョンが浮かばないんです。今は最上位の場所で戦っていますが、歳を取ったらマスターズの大会もありますから。パワーリフティングを始めて14年なんですが、面白くてしかたない。もちろん、辛いと思うことはたまにあるんですが、いつまで経っても楽しくて、それだから練習をサボることもないし、この競技にずっと夢中なんですよね」
“夢中って、まるで子供ですね”と言うと、佐竹はハハッと笑った。今、彼が持つ記録は3種目トータルで805kg(!)で、世界記録は820kgだ。今年中にこの記録を抜くこと、そして世界選手権のクラシックでの優勝も目指しているのである。


