『ターミネーター』(1984年)「ムキムキな筋肉が、物語のつっこみどころを無効化」|入江哲朗の筋肉映画論。
鍛え上げられた肉体は、なぜ人を魅了するのか。この連載では、アメリカ思想をバックボーンに映画批評を執筆する入江哲朗が映画史に残る名作を題材に、筋肉と映像表現の関係を読み解く。今回は、アーノルド・シュワルツェネッガー演じる殺人機械が観客の常識を揺さぶった『ターミネーター』について。
edit: Keisuke Kagiwada
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Alamy/アフロ
入江哲朗(いりえ・てつろう)/東京外国語大学世界言語社会教育センター講師。著書に『火星の旅人─パーシヴァル・ローエルと世紀転換期アメリカ思想史』。
アーノルド・シュワルツェネッガーは、1947年にオーストリアで生まれました。ボディビルディングへの興味は10代前半のときに芽生えました。彼にとってのロールモデルは、スティーヴ・リーヴスとレグ・パークというふたりのボディビルダー兼俳優でした。前者は58年の映画『ヘラクレス』などで、後者は61年の映画『ヘラクレス jEの死闘』などで、神話世界のムキムキ勇士ヘラクレスを演じています。
シュワルツェネッガーは数々のボディビルディング大会で優勝しました。21歳のときにアメリカへ移住した彼は、70年代には映画にも出るようになります。90年のインタビューで彼は、大作映画『コナン・ザ・グレート』(1982)の主役に抜擢されたことがキャリア上の飛躍となったと語りました。
同作において彼は、ファンタジー世界のムキムキ勇士コナンを演じており、多くの場面で上半身裸です。インタビューによると次の飛躍は、ジェームズ・キャメロン監督『ターミネーター』(1984)への出演です。本人曰く、同作は人びとに、シュワルツェネッガーの集客力は筋肉露出が少ない映画でも衰えないことを知らしめました。
『ターミネーター』でシュワルツェネッガーが演じたのは、2029年から1984年のロサンゼルスへ送られたサイボーグです。2029年は人類軍vs機械軍の戦争のさなかであり、劣勢の機械軍は人型兵器“ターミネーター”を過去へ送って逆転を図ります。未来の人類軍のリーダーをやがて産むことになるサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)をターミネーターに殺させて、機械軍敗北の可能性を根元から絶とうとしたのです。対して未来の人類軍は、敵のたくらみを阻止すべく人間のカイル・リース(マイケル・ビーン)を1984に送ります。
84年への転送直後のターミネーターはなぜか全裸です。服を入手した彼(?)はまず電話帳を調べます。そして、サラ・コナーという名前の女性がその地に3人いることを確かめたら、上から順番に殺そうとします。実は本来のターゲットは3人目でしたが、先立つ殺人がニュースとなりコナーの警戒心が高まったせいで、ターミネーターによるコナー殺害の最初の試みは失敗します。
『ターミネーター』は、つっこみどころ満載であるにもとてもおもしろい作品です。「同姓同名が3人いる。全員殺そう!」という発想は、2029年のAIによるものとは思えないほど愚かです。しかし観客は、まず、ターミネーターが全裸で登場したときにその圧倒的筋肉に驚かされます。「普通体型のほうが暗殺に適しているのでは?」などなどのつっこみは、ターミネーターが躊躇も容赦もなく悪逆を尽くすさまを見てゆくうちにどうでもよくなってきます。
最初の筋肉露出が起爆剤として有効活用されているからこそ観客は、常識を揺さぶられたすえに、ターミネーターによる悪の奔出に爽快感を覚えます。この破格のストーリーテリングこそが、キャメロン監督が開拓した筋肉映画の新しい可能性です。
『ターミネーター』(1984年)
『タイタニック』や『アバター』シリーズで知られるジェームズ・キャメロン監督の出世作。2029年の世界を牛耳るAIコンピューター、スカイネット。その脅威であるジョン・コナーの出生を阻止すべく、ターミネーターが1984年にタイムスリップしてくる。

