エリートたちの苦難、50時間切り物語。|Move On Screen

話題の新作映画を通して、カラダや健康、生き方について考える。今回は、香港の過酷な4大トレイルに挑むランナーたちを追った『フォー・トレイルズ 限界を超えてゆけ』。極限状態で試されるのは脚力だけではない。“自分への挑戦”の本当の意味を映し出す一本。

text: Tsuneo Uchisaka

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『 フォー・トレイルズ限界を超えてゆけ』のワンシーン

©Lost Atlas Productions

ドイツ人アンドレ・ブルムバーグには駐在の仕事がラクなのか、逆にストレスなのか。カラダが、特にお腹まわりが、大きくなってきた、体重100kg。さらに医者に「コレステロール値が高い」と指摘され、こりゃいかん、と走り出すうちに、トレイルラニングにのめり込んでしまう。

そもそも香港には平らな土地は少ない、走り出せばすぐに坂か階段で山に上らされてしまう。山を上がる=いやおうなしに負荷は大きくなって、見事にお腹が凹むのだが、トレイルラニングに夢中になってしまったアンドレは止まらない。2012年に「自分への挑戦」を思いつく。

香港の4大トレイルをいっぺんに制覇しよう。4つあわせて300kmを、エベレストのおよそ1.7倍の高さを、4日間で。そして見事に成功させる。

その4大トレイルとは『マクレホース/100km』『ウィルソン/78km』『香港/50km』『ランタオ/70km』で、それぞれを移動するにはクルマ、フェリーといった派手なアクセスが必要、『ウィルソン』にいたってはトレイルの途中で地下鉄に乗って海を渡る。なんとも香港らしい。

翌13年、アンドレは仲間を誘ってこの挑戦をイベント化するのだ。ただし4日間ではなく「72時間/3日間」と制限を高くして。その「自分への挑戦」の名は『香港フォー・トレイルズ・ウルトラ・チャレンジ/HK4TUC』。

60時間以内の完走者には「フィニッシャー」、72時間以内であれば「サバイバー」の称号が与えられる、とんでもないイベントである。

アンドレは14年からは走らず、きわめて選手に(精神的にも物理的にも)近いオーガナイザーという立場、各トレイルの終点で選手を待ちかまえ、必ず言葉をかわす。

フィニッシュはランタオ島フェリー乗り場の郵便ポスト。緑色の鉄の柱にカラダを寄せ、感涙にむせぶ選手ひとりひとりを熱くハグし、シャンパーニュを派手に浴びせるのも彼の役目だ。

『HK4TUC』は招待制、誰でも出られるわけではない。参加希望のランナーは過去の実績と『HK4TUC』への熱き想いを提出し、アンドレに「自分への挑戦」資格ありと認めてもらえばいい。

この映画は2021年の「自分への挑戦」を追ったもの、監督のロビン・リーは25年度香港電影金像奨(香港アカデミー賞)新人監督賞を受賞している。主催者アンドレの語りと、選手たちの生の言葉でストーリーはつながれていく。今回は特に「50時間切り」を目ざすエリートたちが主人公だ。

壮大なビル群を背景に切り立った尾根を進むランナー。「自信と余裕」を少しずつ「不安」が覆い隠し、「弱音」「いいわけ」がまかり通るようになる。そして、誰ひとり抗うことのできない「睡魔」が襲いかかり、目の前には「絶望」の長く急な階段がどこまでも続く、ひと山まるごとの「絶望」。

ある者は膝をつき、ある者はそれでも前に進む。這ってでも進む。手すりに摑まり、空を見上げ、歯を食いしばる。ここに敗者はいない、誰もが「自分への挑戦」を成し遂げる。この映画は人間の勇気をこれでもかと見せつけてくれる。

『 フォー・トレイルズ 限界を超えてゆけ』

香港には平らが少ない。ちょっと走り出せば、いやでも坂と階段に出合ってしまう、トレイルラニングは香港の必然。ついには距離300km、標高差累積はエベレストの1.7倍というとんでもないイベントまで開催されるようになってしまった。7月10日より全国順次公開。WEBサイト