「トレーニーにストレッチは必要?」元トップビルダー&研究者対談。
ストレッチは怪我予防のためか。それとも、トレーニングの質を上げる準備なのか。鍛える人にとってストレッチは単なるおまけではない。研究者とボディビルダーの対話を通して、鍛える人とストレッチの正しい距離感を考える。
text : Kenji Inoue
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教えてくれた人
中村雅俊(なかむら・まさとし)/西九州大学リハビリテーション学部教授、理学療法士、博士(人間健康科学)。専門はトレーニング科学と運動生理学。ストレッチに関する研究で世界的に知られている。長崎大学医学部卒業。
相澤隼人(あいざわ・はやと)/元ボディビル日本チャンピオン、俳優。日本体育大学卒業後、同大研究員として在籍しつつボディビルに打ち込む。2021〜23年日本ボディビル選手権3連覇後、俳優に転向。アクションや柔術も学びシュワちゃんのようなスターを目指す。
「トレーニーの血管を守るために習慣にしてほしい。」
—お二人に質問です。ズバリ、トレーニーにストレッチは必要でしょうか?
相澤隼人(以下、相澤)
ビルダー界では向き合い方は大きく二分されています。「そんなの関係なしに追い込むぞ!」というタイプもいれば、ストレッチなどコンディショニングで土台を整えてから鍛えることを重視する人もいる。
中村雅俊(以下、中村)
相澤さんはどちらのタイプですか?
相澤
僕は後者。その日のカラダの調子を確かめ、本来の位置と可動域で動けるように整えてから、筋肉を追い込んでいます。
中村
でも、ストレッチはやればやるほどボディメイクやボディビル競技にポジティブかと聞かれたら、研究者としては懐疑的です。
相澤
そうなんですよね。ストレッチをほとんどやらないのにカラダがデカくなり、競技でいい成績が残せる選手もいる(笑)。
—結局どちらが正解だと思いますか?
中村
一般論では、可動域が狭い状態で鍛えるのはもったいない。スクワットなら股関節の可動域をストレッチで広げ、フルレンジで行うべきです。ただ、なかにはもともと可動域が十分広い人もいる。そういうタイプは、ストレッチに割く時間があったら、その分長く筋トレした方がいい。個人差がありますから、ストレッチで前向きな変化があるならやればいい。
相澤
僕の場合、コンディショニングをしたときと、しないときを比べると、明らかにしたときの方が調子はいい。俗に言う「ハマる」感じがあり、やりたいことがやりたいように遂行できます。
コンディショニングでもあり、トレーニングでもある。

写真/Photofest/アフロ
中村
ストレッチには2つの顔がある。一つは相澤さんもおっしゃるコンディショニング的なストレッチ、もう一つはトレーニングとしてのストレッチ。筋肉を大きくするのが筋トレ、硬いカラダを柔らかくするのがストレッチです。
相澤
同感です。僕のパーソナルトレーニングのクライアントには、早くムキムキになりたいという人が多い。それでも、たとえば胸椎の柔軟性が足りないと見抜いたら、ベンチプレスを教える前にトレーニングとしてストレッチを指導しています。すると大半は「知りたいのはストレッチじゃないのに……」という顔をする。
中村
胸椎が硬くてブリッジできない人がムリすると、ベンチでどこかを痛める恐れもあるのに。
相澤
怪我予防はトレーナーの至上命題なので、その点は譲れない。30分しかなくても、硬い人は5分でもストレッチしてほしいと思います。24時間ジムのようにストレッチスペースが狭いなら、自宅で済ませてから行けばいい。
中村
もう一つトレーニーにストレッチをしてほしい理由があります。筋トレをすると、筋肉だけではなく血管も硬くなる。薬を使わず血管を柔らかくするのは、ストレッチか有酸素運動しかない。
相澤
ビルダーのように筋肉が落ちる有酸素運動を嫌うなら、血管を守るためにストレッチがいる。
ストレッチのビッグ3を日常生活に取り入れる。
中村
コンディショニングとしてのストレッチには、さらにチューニングとメインテナンスという2つの側面があると思っています。
相澤
トレーニング前に行うのがチューニングですね。
中村
はい。運動前に行う最終的な調整です。今日はこの範囲まで動けるから、こんな種目がここまでやれそうだと確認するのです。
相澤
そうすれば関節が連動してスムーズに動き、障害を起こすエラー動作が減り、正しいフォームで成果も出やすくなります。
中村
注意したいのは、直前に静的ストレッチをやりすぎないこと。静的ストレッチには感覚をぼやかす副作用があり、視覚に頼らずカラダの部位がどこにあるかを把握する「位置覚」が鈍くなる。ただ10分ほどで位置覚は戻り、筋トレへの悪影響は避けられます。
相澤
メインテナンスとしてのストレッチは、筋トレ後などの張った筋肉のケアですね。僕も使った筋肉は必ずストレッチします。高重量でスクワットすると、脚の筋肉が緊張して破裂するんじゃないかと不安になるくらいパンパンになる。ストレッチすると翌々日にはだいぶ柔らかくなります。
—トレーニングにはビッグ3といわれる定番がありますが、ストレッチにビッグ3はないのでしょうか。
相澤
確かにビッグ3があったらストレッチにより積極的に取り組むトレーニーが増えそうです。
中村
有名なワールド・グレイテスト・ストレッチ(WGS)はふくらはぎが伸ばせないのが弱点。ふくらはぎストレッチと、より太腿裏側が伸ばせるジャックナイフを加えたビッグ3はどうでしょう。
相澤
いいですね。中村先生のストレッチライフが気になります。
中村
筋トレ前に、その日の可動域を確かめるため、動的に軽く動かしてみるくらい。筋トレ後はほぼやらないですね。ストレッチに関する情報発信をこれだけやっているのに面目ないです(笑)。
世界でもっとも偉大なストレッチとは?

写真/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ
ワールド・グレイテスト・ストレッチ(WGS)は、1.エルボーインステップランジ、2.ソラシックローテーション(写真)、3.ハムストリングスストレッチ、4.フェンシングという4つの動きからなる。ドジャースをはじめとするアメリカのプロスポーツ選手も実践。



