槙田紗子(振付師)「“かわいい”の裏には筋肉がある」。
軽やかに、かわいく、笑顔で踊り続ける。アイドルのパフォーマンスを支えているのは、鍛えられた筋肉と身体操縦性だ。〈超ときめき♡宣伝部〉の『最上級にかわいいの!』、〈CUTIE STREET〉の『かわいいだけじゃだめですか?』、〈M!LK〉の『好きすぎて滅!』など、数々のヒット曲の振り付けを手がけてきた、元アイドルで人気振付師の槙田紗子さんにインタビュー。
text: Kenji Inoue photo: Shintaro Yoshimatsu
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Profile
槙田紗子(まきた・さこ)/振付師。女性アイドルグループ〈PASSPO☆〉の元メンバー。小学生までダンスに打ち込む。アイドル時代から振り付けや演出を手掛け、卒業後はその経験を活かして振付師として活動を開始。毎週パーソナルトレーニングで体幹を中心に筋肉を鍛える。
アイドルは、アスリート並みの筋力と体力。
日本が世界に誇る「かわいい文化」。それを担うのがアイドル。
「とくに女性がグループで歌って踊るアイドルは、日本や韓国などアジア圏特有のもの。アメリカだと歌って踊るアーティストはあくまでダンスボーカルグループで、アイドルではないのです」
そう語るのは、自身も元アイドルで人気振付師の槙田紗子さん。〈超ときめき♡宣伝部〉の『最上級にかわいいの!』、〈CUTIE STREET〉の『かわいいだけじゃだめですか?』、〈M!LK〉の『好きすぎて滅!』などなど、今旬アイドルの数々のヒット曲の振り付けを担当して、次々とバズらせている。

そのアイドルに絶対欠かせないのも筋肉だ。
「アイドルはつねに踊らなきゃならない。首を傾ける角度がちょっと変わるだけでかわいさは何百倍にもなるし、体幹の捻り方次第でスカートの揺れ具合も全然変わる。自らのシルエットを思い通りにコントロールする能力がアイドルには求められる。MVはもちろん、撮影可能席からファンが撮ってくれた映像などをSNSで目にする機会も多いから、“この立ち姿、かわいくない”とか“せっかくおいしい振りをもらえているのに決まってない”などと自己分析して動作を磨くスキルも必要です。そのベースは、筋肉でカラダを自由自在に操れる身体操縦性だと思う。これからアイドルになりたい子たちには、『いいから筋トレしておけ!』と言いたい(笑)」
膨大な情報のインプットが、バズる振り付けを生み出す。
同じグループ内でも筋力や踊りのセンスなどには個人差がある。振り付けを決めるときには、どのレベルに合わせるのだろうか。
「ユニゾン(全員で同じ振りを合わせるパート)をレベルの低い子に合わせたりはしない。でも、ダンスができない子には立ち位置を工夫したり、一人で踊るソロパートで下手に見えない動きを作ってあげたりする。それをどう生かすかは本人のやる気次第です」
振り付けのアイデアを得るために欠かさないのは、徹底的なリサーチ。起きてから眠るまで、暇さえあればダンス動画を見続ける。
「小さい頃にダンススクールで学んだ基礎とか、過去に踊ってきたものから発想しても、大勢の人に刺さらない。だから世の中にあるダンスを全部吸収したい。ダンサーさんのインスタをめっちゃフォローしているので、スマホを開くだけでどんどん映像が流れてくる。その他にも、海外のバレエ団の公演から、素人さんがTikTokに投稿した動画まで何でも見ています。けど、そこから特定の動きを切り取るような真似はしない。“この情報は絶対どこかで思い出すタイミングが来るはずだ”という意識で見ることが大事。振りを作っているときに、“なぜこんな動きが浮かぶんだろう?”と我ながら不思議になる瞬間がある。吸収した無数の映像が、無意識のうちに養分となっているのでしょう」
それは、生成AIがネット上の膨大な情報を取り込みながら成長・進化するプロセスを思わせる。
「私はダンサー出身ではないので、自分のスタイルがないのが強み。依頼が来たら、曲を聴きながらM!LKの曲ならM!LK、ふるっぱー(FRUITS ZIPPER)の曲ならふるっぱーを頭の中で踊らせます。曲がどう広がり、どんな人たちに踊ってもらえるかをイメージしているうちに、頭に本人が踊ってる映像が降りてくるので、それをスタジオでアシスタントに踊ってもらって微修正する感じです。以前は振り付けを仕上げるまでに3日ほどかかりましたが、今は平均8時間くらい。費やした時間にクオリティは比例せず、パッと思いついたものが案外バズったりします」

タブレットで手書きノートアプリ『Goodnotes』を活用し、曲の進行に合わせてメンバーのフォーメーションをサクサク決めていく。
惜しみなき努力は、アイドルたちのふくらはぎに宿る!
降りてきた映像を元に創作した振りをアイドルたちは100%再現できるわけではない。けれど、それでいいと考えている。
「正解は私の中ではなくアイドルの中にある。結局彼女・彼らが踊ったものが正解なのです。ロボットが一糸乱れず踊っても誰も感動しないように、全員が完璧に踊ったら、それはそれでめっちゃつまらない。アイドルはただのダンス集団ではないから、無個性な踊りは求められていない。下手な子が下手なりに頑張って踊る姿が愛おしさに変わるのです」
彼女が考え抜いた振りをアイドルたちはわずか1日で覚える。続いて行われるMV撮影やライブのリハーサルで繰り返し踊るうち、振り付けは筋肉へと刻み込まれる。
「アイドルはアスリートなんですよ。フェスで40分、ワンマンなら2時間踊りっぱなし。しかも私の振りは緩くないから、1曲終わるとたぶん『はぁー』って坐り込みたくなるはず。そうしないでノンストップでライブを続けるだけの筋力と体力があるのです。それにアイドルはアスリートみたいにしんどい顔はできないでしょ。かわいくないから。笑顔で激しい振りをこなす努力も含め、推しの人たちは“かわいい”と感激する。スカートからのびるふくらはぎを見てください。上部の筋肉の盛り上がりは汗と涙の結晶です!」

振り付けを担当した〈FRUITS ZIPPER〉の『わたしの一番かわいいところ』のワンシーン。ふくらはぎにも注目。

