「辛い未来があったはずなのにこのくらいで済んでいると思うと楽になる」笑いとウェルビーイング。ママタルト・檜原洋平(後編)
笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第13回のゲストはママタルトの檜原洋平さん。後編ではルームシェア時代に培った健康術や愛するチキテキスパイス焼きの話、そして落ち込まない思考方法について聞きました。
interview: Tokio Shiratake edit,text: Neo Iida photo: Kanta Torihata
Profile
檜原洋平(ひわら・ようへい)/1991年、大阪府生まれ。神戸大学卒業後、2016年に大鶴肥満とお笑いコンビ・ママタルトを結成。サンミュージックプロダクションに所属。漫才ではツッコミを担当し、ネタ作りも手がける。2024、2025年の『M-1グランプリ」の決勝に2年連続進出。趣味はポケモンカード、サウナ、ウォーキング、神社巡りなど。ラジオアプリGERAで『ママタルトのラジオ母ちゃん』配信中。
ライブの合間、芸人たちと25分だけボウリング。
白武ときお(以下白武)
最近は遊んでますか?
檜原
この前、新潟のライブの間にボウリングに行きました。見取り図の盛山さんに「ライブとライブの間って、みんなどこか行ってんの?」って聞かれて「お散歩とか行ってます」って言ったら、「あ、そうなん?ボウリングとかあんの?このへん」って。それで滞在時間でいうと25分ぐらいしかなかったんですけど、みんなでタクシーに乗って、8人で1ゲームやって、すごく面白かったです。全員がゲームの登録名を架空のスポーツメーカーにして、盛山さんは「ロンド」という名前を付けたんですけど、そのロンドが利き手とは逆のサウスポーで回転しながらストライク取った時は、みんなで「ロンドすげえ!」って。わずか25分を駆け抜けるように楽しんで。ボウリング場から帰ってきてからも、口々に「さっきすごく楽しかった」って言い合って、時間を使い果たした満足感がありました。
白武
スポーツメーカーの名前付けるの面白いですね。
檜原
男性ブランコの平井くんは何やったかな…。思い出せない…。というのもあまりに楽し過ぎて写真をひとつも撮ってないんですよ。平井くんがストライクを取ったらボウリング場に響き渡るほど大盛り上がりして。タクシーで10分ぐらいかけて出かけて、25分だけ遊んでまた戻ってきた、あの時間の使い方も大人になった実感がありました。限られた時間を集中して遊んだ感じが、大学生の頃の遊びとは違って非常に良かったなという。

白武
飲み会に行ったりもしますか?
檜原
自分から積極的に行くことはないですけど、「どう?」って言われたら必ず行くようにしてます。それでもタイミングが合うのは月に1〜2回ですかね。
ZAZYから学んだ「身体が資本」の考え。
白武
なるべく家に帰って整えたいとか、そういう意識があったりするんですか?
檜原
そうですね。まっすぐ家に帰って、早めに長風呂をして、部屋をエアコンで冷やして、パックをして、ドン・キホーテに売ってる「ゴリラのひとつかみ」っていう足ツボのマッサージ道具でツボを押して、ヘッドギアを巻いて、瞑想しながらラジオを聴くという習慣があるんです。さらに調子がいいと「シャクティマット」というトゲトゲマットの上に寝転んで全身を癒す流れもあって。時間がある時はそこまでやりたいなっていう感じですね。
白武
ケアの意識が高いですよね。
檜原
わりとそうですね。最近は垢擦りタオルを買って、皮膚への刺激がストレスを解消してくれるのを覚えまして。なので身体がひと回り小さくなったんじゃないか、というくらいゴシゴシ真っ赤にこすって垢を取ってます。
白武
そういう情報はどこから取り入れてるんですか?
檜原
Instagramですね。あの虫眼鏡のところを押して、おすすめを見てます。昔は海外のエッチな水着の人がコーディネートを紹介するような、アダルトな投稿が多かったんですけど、「心身を整える7つの方法」みたいな投稿ばっかりタップしていたらそういう情報がどんどん入るようになってきて、そこでチェックしてます。
白武
そういう情報に意識が向くようになったのは、年齢とともにですか?
檜原
それもあると思うんですけど、3年半前までルームシェアをしていて、ZAZYと一緒に暮らしてたんです。ZAZYは「身体が資本」っていう考えを提唱していて、フィットネスにも行ってましたし、家ではカップ麺も禁止だったんですよ。カップ麺よりちゃんとお料理して食べようっていうルールを設けて、風邪を引きやすい時期は野菜の入った豚汁を食べようとか、そういう健康への心がけを20代の真ん中ぐらいから話してたので、結構影響されました。
白武
いいですね。檜原さんがこの人のスタンスいいなとか、生き生きしてるなと思う人はいますか?

檜原
(ダウ90000の)蓮見くんのスタンスはいいなと思います。例えばスポーツみたいに誰かと一緒にやるストレス発散は実現も難しいと思うんですけど、自分ひとりでもできるストレス発散のやり方、リラックス方法を蓮見君はいっぱい持ってるようなんです。特にメダルゲームが得意で、一緒に渋谷のゲームセンターに行った時に「僕もう出るんで、よかったらこの残り500枚ぐらい使っていいですよ」って、メダルを山ほどくれたんですよ。「こんないっぱいもらっていいの?」って聞いたら、「僕は昔ここで8000枚ほどメダルをゲットして貯めまくってるんで」って。
白武
富豪ですね。
檜原
聞くと、蓮見くんは何1000枚という貯玉ならぬ貯メダルを溜めたゲームセンターを全国に何軒も持っていて。たしかにフラッとひとりでリラックスしたい時に、メダルを流し込む作業ってちょうどいいんですよ。蓮見くんは「大阪でも2000〜3000枚貯めて帰りました」とか言ってて、メダルゲームいいなと思いました。
白武
こう聞いていると、檜原さんはいろんな人からいい影響を吸収しているんですね。蓮見さんは後輩ですが、先輩でもどなたかいますか?
檜原
いいなと思ったのは、みなみかわさんが大きい斜めがけのトートバッグを肩にかけていて、持ち手のベルト部分がすごく太くて肩に優しそうだったんですよ。「それ何ですか?」って聞いたら、「作ってるんだよ」って。柔道着の素材をベルト状にしてカバンに縫い付けてるんですって。みなみかわさんっておしゃれだし毎回なんか違うジージャン着てるなって感じですけど、ないものは作る姿勢を見て「おお〜」と思いました。
白武
素敵ですね。檜原さんが仕事でもプライベートでも、今後こうなりたいな、こうなっていけたらいいな、みたいな目標はありますか?
檜原
蓮見くんとメダルゲームしてた時に「ママタルトさんは少しずつ着実にさまぁ〜ずさんへの道を歩んでいる気がする」って言ってもらったんですよ。確かに、この気負わない自然体な暮らしをいいなと思ってもらえるようになりたいですね。
白武
いいですね。例えば「優勝する」みたいな目標をはっきり立てるタイプですか?というよりは、もう流れに身を任せて、というタイプですか?
檜原
期待すると、達成できなかった時に残念じゃないですか。「絶対優勝する」と思って優勝できないよりも、「決勝戦に行けるだけでハッピー」と思って負ける方がショックが少ないじゃないですか。なのでなるべくショックが少ないように、防衛本能というか、そういう線で生きています。

チキテキスパイス焼き弁当ばかり食べている。
白武
お金の使い方はどうですか?
檜原
ちょっと前に番組の企画でFXを1ヶ月だけやったんですよ。もう最近はギャンブルには興味がなくなって全然やってなくて、その1ヶ月間は久しぶりにとても楽しかったんです。初めてのスリルでワーッと盛り上がったんですけど、ひっくり返るくらい負けてしまって。それで僕の本質というか、増える喜びよりも減る悲しみの方が大きかったんですよね。減った時のテンションの下がり幅が大きくて、この趣味はあまり楽しくないなって思ってやめてしまいました。
白武
となると、今は何にお金を使ってるんでしょう。
檜原
ガストのチキテキスパイス焼き弁当が大好きで、Uber Eatsの履歴を見たらチキテキスパイス焼き弁当がドカドカドカドカッてあるくらい、毎日チキテキスパイス焼き弁当を食べてます。今お昼の12時過ぎですけど、今日は家にまっすぐ帰ってチキテキスパイス焼き弁当を注文するのがすごく楽しみで。1144円で店舗と同値段っていいうサービスがあって、それにはお金を惜しんでないですね。
白武
それは今のブームなのか、しばらく続くスタンダードになりそうなのか。
檜原
6月頃に初めて食べて、50回は食べてますから、チキテキスパイス焼き弁当を超えてくる食事はないだろうなと思いますね。渋谷や新宿でなんかちょっと食べて帰ろうかなって街を見渡して、ラーメン屋さんとかそば屋さんとかとんかつ屋さんを見て、「いや、これだったらまっすぐ家帰ってチキテキスパイス焼き弁当食べたいな」って思うくらいには、チキテキスパイス焼き弁当で今は頭がいっぱいですね。
白武
日々ご機嫌に過ごすためのものを、いろいろ見つけてますね。檜原さんがいつもカバンの中に入れている必需品や、気持ちが落ち着くアイテムを見せていただけますか?
檜原
やはり僕の持ち物の中でウェルビーイング度とか高いものですと、カバンのここにいつも挿している、これですね。
白武
なんですかそれは。
檜原
靴べらです。折りたたみになっていてこうすると伸びます。
白武
めちゃくちゃ伸びる!こんな道具があるんですね。初めて見ました。

檜原
体重が90キロ近くになった時、靴を履くのにかがむのが大変で。それで買いました。今もリュックのポケットに入れているので、スッと出せば靴が履けます。あとは首のマッサージ機。新幹線に乗った時に首の一番凝っている部分に当てて電源をオンにすると、電気のバイブレーションでほぐしてくれる。基本的に僕は首がクソ凝ってるんでマックスでやるんですね。だからいつも座りながらビクッビクッとなってます。
マシン系が好きなんですね。
檜原
はい。これもインスタの虫眼鏡マークで「今年買ってよかったガジェット10選」みたいなのを見て知りました。僕は別にガジェットを使用する機会はそれほどないんですけど、自分も使えるやつを探してます。

白武
いろいろ持ち歩いてるんですね。他にもありますか?
檜原
必ず持ち歩いているのはメガネの滑り止め。装着するとかなり眼鏡が固定されるので、二重跳びとか鬼ごっことか運動をする時に使います。ネタ漫才の時も本当に大事な時は眼鏡がずれないように付けてます。あとロケ先で「あの人メガネを何回も落としてるな」っていう人を見かけたら「良かったらどうぞ」と。なので少し余裕を持ってメガネ滑り止めをこう持ち歩いてます。
例えツッコミは、記憶や思い出の中にあるものを引用する。
白武
芸人として、ツッコミとして、インプットなど何か意識的に行っていることはありますか?
檜原
実家に帰ったら、なるべく周りを散歩して、子どもの頃のことを思い出したりしてますね。例えば、例えツッコミで漫画の台詞を引用した場合、その言葉がどういう意味を持っているかは漫画の中に正解があるので、もしかしたら使い方が間違っているかもしれない。でも僕の記憶や思い出の中にあるもので例えツッコミをしたら、それは正義というか、周りから手の届かない無敵エリアなんですよね。「運動会が終わって、観覧席用に教室から運動場に持っていった椅子の脚を、最後に雑巾で拭いて教室に持って帰る時くらい疲れました」とか、それなら疲れてたかどうかは僕の中に答えがあるじゃないですか。そういうのをいっぱい言えるように、実家に帰ったらなるべく懐かしい道を歩いたりして、思い出せるだけ思い出せるようにしてます。
白武
他の情報から持ってくるんじゃなくて、自分の経験からワードを出すという。実家は関西ですよね。
檜原
そうです。大阪の南の方で、自然に囲まれていて、最寄りの駅までは自転車で30〜40分くらいかけて山を越えないといけなくて。神戸に引っ越してから久々に実家に帰った時に、僕は赤いスニーカーを履いていたんですけど、親戚に「いやいやいや赤い靴!」って言われました。「びっくりした、急にどうした?」みたいな。地元はそういう感じです。
白武
最後に、読者に向けてウェルビーイングに生きるためのヒントがあったらぜひ教えてください。
檜原
僕はいつも他に最悪だったシナリオがあってそれを回避できている、と思いながら今を生きている感覚があって。今この被せ物の下のゴマみたいな歯が痛くて、被せ物が取れたらヤバいんですけど、でも本当は3年前、飛行機が墜落して死んでいたかもしれない。そう思ったら今とてもラッキーだなと思うんです。実は僕にはもっと酷いシナリオが用意されていて、それを例えば祖先の力で虫歯ぐらいに抑えてもらっているんだと。辛い未来や辛い今があったはずなのに、このくらいで済んでいるんだ、そういう風に思うと気持ちが楽になりますよ。




