筋肉の15倍も活発に代謝!4つのトピックで学ぶ“肝臓”のスゴさ
最も重たい臓器、肝臓。重さのみならず、その機能や重要性は抜きん出ているといっても過言ではない。今回は、肝臓の基本的な働きから、その特筆すべき“スゴい”特徴を紹介。知れば肝臓ケアの重要性が理解できるはず。
取材・文/井上健二 イラストレーション/野村憲司(トキア企画)
初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売<br />
教えてくれた人:尾形哲さん
おがた・さとし/佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。神戸大学医学部卒業。パリ、ソウルの病院で肝移植手術を多数経験後、帰国。日本でも生体肝移植を多く手掛ける。医学博士。
肝臓の基本構造
肝臓は、横隔膜の真下で右上腹部にある重さ1.2〜1.5kgほどもある臓器。
みぞおちのやや右側に手のひらを当てると、そこがだいたいの肝臓の位置であり、大きさの目安となる。肝臓は左葉と右葉に分かれており、左葉は全体の4分の1くらいの大きさしかない。
肝臓の下には肝臓が作る胆汁を貯める胆囊と、その通り道となる胆管がある。肝臓には、心臓から血液を運ぶ肝動脈のほか、消化管から吸収した栄養素を運ぶ門脈という血管が通じる。
肝臓の基本ユニット「胚小葉」とは?
肝臓の基本ユニットとなるのは、およそ500万個もある肝小葉と呼ばれるもの。中心静脈を中心として、無数の肝細胞が放射状に配列されており、直径約1mmで断面が六角形をしている。厚さは約2mmだ。
周囲の6つの角には、肝細胞を養う肝動脈、消化管から延びる門脈、肝細胞が分泌する胆汁を運ぶ胆管が通っている。肝小葉の内部には、類洞という毛細血管が放射状に走っており、血管の薄い壁を通して代謝が盛んに展開されている。
トピック① 筋肉の15倍も活発に代謝している
肝臓の重さは体重の約50分の1(2%)。体重65kgなら1.3kgだ。内臓ではもっとも重たく、その重さは脳とだいたい同じだとされている。肝臓は図体がデカいだけではなく、24時間休みなく盛んに活動している。その証拠となるのは、安静時代謝量に占めている割合の大きさだ(下表参照)。
安静にしているときでも消費する安静時代謝量は、標準的な体型の男性で1日1500キロカロリー前後。その約20%を肝臓が占めている。これは筋肉(骨格筋)に匹敵する。
ただし、肝臓が体重の2%なら、筋肉は体重の30%を占める。65kgなら19.5kg。安静時とはいえ、同じ重さで比べると、肝臓は筋肉の15倍も活発に代謝しているのだ。これは脳と同レベル。肝臓は脳と同じくらい働き者なのである。
ヒトの臓器・組織における安静時代謝量
臓器 |
エネルギー代謝量 (kcal/kg/day) |
割合(%) |
---|---|---|
肝臓 |
200 |
21 |
骨格筋 |
13 |
22 |
脳 |
240 |
20 |
腎臓 |
440 |
8 |
心臓 |
440 |
9 |
その他 |
16.5 |
20 |
トピック② 500種類以上の働きを担う
肝臓が安静時代謝量の20%を担うほどアクティブに活動しているのは、それだけやることが多いから。肝臓がこなす働きは500種類もあり、2000種以上の酵素が働く。まさに“お腹の中の化学工場”だ。
肝臓の仕事は、摂取した糖質・脂質・タンパク質といった栄養素の代謝(分解と合成)、アルコールなど有害物や老廃物の解毒と排泄、胆汁の合成、ビタミンやミネラルの貯蔵など、実に多彩である。
細胞一つひとつを包むリン脂質を作るのも、肝臓。肝臓が作るコレステロールは脳で神経細胞を覆い、ホルモンの原料にもなる。
筋肥大にも肝臓は関わる。筋トレの刺激で分泌された成長ホルモンは、肝臓に作用。肝臓で作られたIGF-1が筋肉に働き、筋肥大を加速させるのだ。
トピック③ 人工肝臓は作れない
コロナ禍で注目を浴びたのはECMO(エクモ)と呼ばれる人工肺。また、腎臓が機能不全に陥る慢性腎臓病(CKD)になると、その働きを代替する人工透析が行われる。
「でも、人工肝臓を作ることは現在のところ不可能。それだけ複雑で多岐にわたる仕事をこなしているからです」(肝臓外科医の尾形哲先生)
肝臓が完全にダメになると、他人の肝臓を移植する肝移植を行うしか命を救う道は残されないが、臓器提供者(ドナー)の不足が問題化している。
世界中でiPS細胞などを活用したバイオ人工肝臓の開発が進められており、東京医科歯科大学の武部貴則教授はそのトップランナーの一人として知られる。だが、その実用化にはまだ時間がかかりそう。与えられた自分の肝臓を大事に。
トピック④ 内臓で唯一再生できる
心臓も脳も、その細胞は一生モノ。細胞分裂をしないので、成長期が終わるとじわじわと老化の一途を辿る。その他の臓器では細胞は分裂を繰り返しているが、肝臓には唯一無二の特徴がある。
手術などで一部を切除しても、再生が可能なのである。ラットの実験では、肝臓の70%をカットしても、1週間程度で元の重さと機能を取り戻したという。
再生メカニズムはこうだ。肝臓を作っているのは、肝細胞。損傷した部分が限られていれば、残った肝細胞が大きくなり、不足分を補う。肥大でカバーできなくなると、肝細胞が増殖して対応する。
こうした再生は、脳から自律神経(迷走神経)を介してシグナルが伝わり、肝臓の免疫細胞(マクロファージ)が活性化することで促される。