選択眼を養おう!リンから腎臓を守るための食べ物の選び方
カラダの内側から老化を進行させるリン。味はないものの、意外にも多くの食品に含まれていて、知らず知らずのうちに過剰摂取してしまうと、リンの排泄を担う腎臓にダメージ大。そこで、今回は専門医監修の、“減リン”ための食事ポイントを対決形式で学んでいこう。できることからコツコツと実践してみてほしい。
取材・文/井上健二 撮影/内田紘倫 料理製作・スタイリング/高島聖子 イラストレーション/市村ゆり 取材協力・監修/黒尾 誠(自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授)撮影協力/UTUWA
初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売<br />
教えてくれた人:黒尾誠さん
くろお・まこと/自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授。東京大学医学部卒業。脊椎動物の老化抑制遺伝子「クロトー」を世界で初めて発見。米国テキサス大学で教授を務めた。医学博士。
目次
“減リン”ポイントを押さえよう
現代のあらゆる食品に含まれているリン。
本来は必須ミネラルで、カラダの機能に不可欠な存在だが、過剰に摂取してしまうと、腎臓でのリンの排泄が追いつかなくなり、体内に溜まったリンが細胞レベルで老化を加速させる(詳しくはこちらの記事:腎臓が寿命を決めている!? 老化を進めるリンと腎臓の話)。
リンを処理するネフロン量(腎葉に詰まっている腎臓の基本ユニット)が十分なら、食事からのリン摂取にそう神経質にならなくていい。
「しかし、ネフロン量は個人差が大きく、加えて加齢でどのくらい減っているかにも、かなりの個人差があります」(黒尾先生)
リンには味がないから、塩分のように味覚を頼りに減らすのは難しい。ここに用意した「対決」で、“減リン”のポイントを学ぼう。
リンには、食品添加物や加工食品に多い無機リンと、食品に含まれる有機リンがあり、前者の方が体内への吸収率が高くてキケン。
「添加物・加工食品と食品から、通常1対1でリンを摂っています。添加物・加工食品を避けるだけでも、減リンには効果的です」
食品に含まれるリンの種類とその吸収率
種類 |
無機リン |
有機リン(吸収されやすいタイプ) |
有機リン(吸収されにくいタイプ) |
---|---|---|---|
吸収率 |
90%以上 |
20〜60% |
0% |
食品例 |
食品添加物、ハム・ソーセージ・ベーコン、練り物、カップ麺、 ファストフード、スナック菓子、総菜 |
赤身肉、牛乳、プロセスチーズ、 卵、ナッツ類 |
納豆、豆腐、豆乳、油揚げ、大豆ミート |
ラテ対決|豆乳VS牛乳
WINNER…豆乳
牛乳は、仔牛を育てるために母牛が出すもの。仔牛の骨の成長を促すため、リンとカルシウムが豊かに含まれる。成長期の子どもにも、牛乳に含まれるリンとカルシウムは骨を太く長く育てる材料として役立つだろうが、成長期が終わった大人が牛乳を飲みすぎると、リンの摂取過多につながることがある。
豆乳にもリンは案外多いが、フィチン酸という形で入っているため、体内には吸収されずに便と一緒に出ていく。
ピザ対決|モッツァレラVSプロセスチーズ
WINNER…モッツァレラ
牛乳を原料とするチーズにもリンは含まれるが、加工食品のプロセスチーズと、自然食品のナチュラルチーズではリンの含有量に数倍の開きがある。プロセスチーズは食品添加物として無機リンを含むものが多いのだ。
ピザの具材で選べるなら、モッツァレラ、クリームチーズ、カマンベールといったナチュラルチーズをチョイス。ただし、チーズは腎臓のもう一つの天敵である塩分も多いので、食べすぎは禁物。
麺類対決|パスタVSラーメン
WINNER…パスタ
麺類が無性に食べたくなる瞬間は誰でもある。ラーメンかパスタで迷ったら、腎臓のためにはパスタをチョイスするのが正しい。ラーメンもパスタも原料は小麦粉だが、両者には決定的な違いがある。
ラーメンに用いる中華麺には、柔らかさや弾力性をもたらすために「かんすい」が添加される。このかんすいは、無機リンを含む場合がほとんど。最近はかんすいを含まない中華麺も登場しているから、ラーメン好きは探してみよう。
おでん対決|厚揚げVSはんぺん
WINNER…厚揚げ
腎臓のために、おでんの具材で避けた方が無難なのは、はんぺんやちくわ、かまぼこやさつま揚げといった魚のすり身を原料としたもの。これらの魚肉加工品は一般的に、保水性や弾力性を高めるため、無機リンを添加したものが多いからだ(リン無添加の魚肉加工品もあるようだが、まだ少数派)。
厚揚げや焼き豆腐といった大豆食品にもリンは含まれるが、前述のように体内に吸収されにくい。
肉対決|ボンレスハムVS豚肉ロース脂身付き(生)
WINNER…豚肉ロース脂身付き(生)
腎臓のためにも、肉類などからタンパク質をきちんと摂るべき。でも、食肉加工品は総じて無機リンが添加されているケースが多い。ハムやベーコンといった豚肉の加工品は気軽に使えて重宝するが、毎日のように食べるとリンの過剰摂取につながる。
豚肉ロース脂身付きは生100g当たりでリンは180mg(茹でると140mg)。一方、100g当たりでボンレスハムは340mg、ロースハムは280mg、ショルダーベーコンは290mgのリンを含む。
ハンバーグ対決|大豆ミートハンバーグVS普通のハンバーグ
WINNER…引き分け
タンパク源では、肉類より大豆食品の方が、体内に入るリンの量が抑えられる。近年、大豆を加工した大豆ミート市場が拡大しており、入手しやすくなった。大豆食品の有機リンは体内には吸収されないが、加工食品である大豆ミートは添加物として無機リンを含むことも考えられる。
食品成分表示でリンが少ないと確認できたら大豆ミートハンバーグの勝ちだが、リン含有量が不明なら通常のハンバーグと甲乙つけがたい。
魚対決|アジ(生)VSしらす(半乾燥品)
WINNER…アジ(生)
日本人の魚摂取量は減るばかり。ことにEPAやDHAといった必須の栄養素を含むイワシやアジなどの青魚は、もっと食卓に乗せたい。でも、リンは骨に多いので、しらすやめざしのように骨ごと食べる小魚では、リン摂取量が増えやすい。
しらすもめざしも一度に大量に食べないし、毎日のように食卓に乗るわけではない。だから、さほどビクビクする必要はないが、骨ごと食べる小魚にリンが多いという事実は頭の片隅に留めよう。
スナック菓子対決|個包装VS大袋
WINNER…個包装
ポテチなどのスナック菓子は手軽に小腹が満たせて便利だが、食品添加物として無機リンが入っていることが少なくない。スナック菓子は塩分も糖分も多いから、腎臓には要注意の食品だ。
だが、腎臓のためとはいえ、スナック菓子と絶縁宣言するのも難しい。どうすべきか。スナック菓子は大袋を一度開けると「やめられない、とまらない」でキリがない。個包装タイプを選び、「今日は1袋に留めよう」と自制を働かせて。
サンドイッチ対決|手作り卵サンドVS市販の卵サンド
WINNER…手作り卵サンド
市販の食品の多くに、少なからず無機リンを含む食品添加物が含まれる。サンドイッチも、食パンや卵やマヨネーズといった食材を揃えてハンドメイドすれば、余分なリンの摂取が減らせる。
かといって食生活を何から何まで手作りするのはしんどい。市販食品にリンが多いという事実を知り、週末など時間に余裕があるタイミングで、料理を手作りする機会を増やすように心掛けるだけでも、長い目で見るとリン摂取は減らせる。