ケタ違いの含有量。認知症予防にはEPA&DHAたっぷりな赤魚一択!

脂質が少なくてタンパク質量が多い白身魚はカラダ作りの強い味方。では、マグロ、ブリ、サバなど赤魚は? もちろん、赤魚にも強力な健康パワーが秘められている。その秘密はおなじみのオメガ3系脂肪酸のEPA&DHA。血液サラサラ作用に加え、近年、ますます研究が進んでいるのが認知機能への影響だ。より効率的に摂取する方法まで、詳しく解説しよう。

取材・文/石飛カノ 取材協力/西塔正孝(女子栄養大学栄養学部教授)

初出『Tarzan』No.873・2024年2月8日発売

EPAの血液サラサラ作用で病気を予防

白身の魚は脂質が少なくてタンパク質量が多いエリート食材(詳しくはこちらの記事:かまぼこは異次元のタンパク質宝庫。カラダ作りには魚が無敵なワケ)だが、マグロ、ブリ、サバなど赤身の魚にも強力な健康パワーが秘められている。魚の機能性成分の中で最も研究の歴史が長いオメガ3系脂肪酸、そのうちのひとつであるEPA(エイコサペンタエン酸)が代表格だ。

「EPAは血液をサラサラにして血栓を予防します。製薬会社が薬としてEPAを採用しているのでこれは揺るぎない作用。EPAは体内で脂質メディエーターという生理活性物質に変換され、そこからプロスタグランジンI3という、血栓を抑制する直接的な物質ができます」

一方オメガ6系脂肪酸のアラキドン酸は同じメディエーターでも炎症を起こしたり血栓を作るような物質が作られる。オメガ6系脂肪酸は大豆油やコーン油などに豊富なので摂るなら適量を。もちろん魚の脂も摂り過ぎは太るので禁物だ。

DHAの脳の発達や認知症予防効果に期待

EPAとよく似た構造を持つDHA(ドコサヘキサエン酸)もまた、赤身魚に豊富な機能性成分。こちらは認知機能との関わりが深いとされている。DHAは体内でほとんど作ることができない必須脂肪酸。脳内の細胞膜にも多く含まれていることから認知機能との関連が国内外で研究されている真っ最中。

国立長寿医療研究センターの長期縦断疫学研究(NILS―LSA)によると、血中のDHA濃度が高い人と低い人で10年後の認知機能低下のリスクを比べたところ、前者の方がリスクが低いという結果が得られたという。

血液中のDHA濃度と認知機能低下のリスク
血液中のDHA濃度と認知機能低下のリスク

Otsuka R, et al. Eur J Clin Nutr, 2014

60代以上のデータを用いて比較検討した縦断研究。血液中のDHA濃度が中等度、または高い人たちは低い人に比べて認知機能低下のリスクが低いことが分かった。

詳しいメカニズムはまだ明らかにされていないが、DHAは脳に直接作用して神経伝達物質が活性化され、脳の神経細胞同士の働きが向上するという説もある。人生100年時代、今後の研究に期待したい。

脂肪酸キングは赤身魚のマグロのトロ

改めて解説すると、赤身の魚とは赤い色素成分が筋肉100g中10mg以上含まれている魚のこと。白身は赤い色素成分がそれ以下の魚のこと。ちなみに、アジ、サバ、サンマ、イワシといった背中が青い魚、青魚のはっきりした定義はない。ただ単に見た目が青いというだけで、どれも赤身の魚グループに属する。

で、EPAやDHAが豊富なのは断然、赤身の魚。

「赤身の魚の脂の多いところは当然、EPAやDHAの含有量が豊富なものがほとんど。とくに皮付きのサンマやクロマグロのトロの部分などはケタ違いのEPAやDHAを含んでいます。さらにマグロの場合は天然ものより養殖ものの方がエサが豊富で脂が乗っているので、EPAやDHAの量がより多くなります」

EPA・DHA狙いならマグロの赤身よりトロ、天然より養殖もの。

赤身魚肉中の脂質とオメガ3系脂肪酸含有量(100g当たり)
魚種 脂質(g) EPA(mg) DHA(mg)
マイワシ 9.2 780 870
カツオ秋獲り 6.2 400 970
マサバ 16.8 690 970
サンマ皮付き 25.6 1,500 2,200
クロマグロ脂身(天然) 27.5 1,400 3,200
クロマグロ脂身(養殖) 28.9 2,100 4,500

脂質を多く含む赤身の魚にはEPAやDHAも当然豊富。高価なクロマグロのトロに手が出ない場合は皮付きのサンマを狙うべし。「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より

白身の切り身なら皮付きがベター

低脂質高タンパクの白身魚は、EPA・DHA補給という点ではどうしても不利。ただし、例外もある。

たとえば大西洋サケと呼ばれる魚は白身魚のなかでもEPAやDHAを多く含むことで知られている。これ、スーパーの魚売り場で「アトランティックサーモン」として販売されているサケのこと。または、海洋で育てられたニジマスも、白身魚の中ではEPAやDHAが豊富。

どっちも身が赤いから赤身魚なのでは? という疑問はごもっともだが、あの赤さはプランクトンなどエサの色素によるもので本来の身はどちらも白い。よって分類は白身魚。

身と皮の間に脂質が多いのでEPA・DHAをカバーするためには皮付きの状態でいただくのがベター。しかも焼いて水分を飛ばした方が、同じ重量なら効率的にEPA・DHAを補給できる。

白身魚肉中の脂質とオメガ3系脂肪酸含有量(100g当たり)
魚種 脂質(g) EPA(mg) DHA(mg)
ニジマス皮付き生 14.2 600 1,300
ニジマス皮付き焼き 15.8 670 1,500
ニジマス皮なし生 10.8 250 610
大西洋サケ(養殖)皮なし生 17.0 360 590
大西洋サケ(養殖)皮なし焼き 15.7 370 590
大西洋サケ(養殖)皮付き生 16.5 330 510
大西洋サケ(養殖)皮付き焼き 19.7 470 740

生より焼いた方がEPAとDHAの含有量が多くなるのは、余分な水分が抜けるから。同じ100g中ならそれぞれの含有率も高くなる。「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より