ピラティスとヨガの違いとは?3人のスペシャリストが語る。

どちらも人気だけど、いまいち違いが分かりにくい「ピラティス」と「ヨガ」。3人のプロがスペシャル鼎談でその疑問を解決!

取材・文/川端浩湖 撮影/五十嵐一晴

初出『Tarzan』No.890・2024年10月24日発売

教えてくれた人

菅原順二(すがはら・じゅんじ)/ピラティストレーナー。ピラティス・スタジオ・アランチャ代表。ラグビー経験から、体幹の重要性にいち早く注目。海外でピラティス、トレーニング、コーチングを学び、アスリートの指導も行う。

山本邦子(やまもと・くにこ)/アスレティックトレーナーヨガインストラクター。A-Yogaを実践するKyoto mbm laboを主宰。動作教育と人材育成に力を注ぐ。プロゴルファー・宮里藍さんの専属トレーナーを務めた。ピラティスにも精通している。

中村尚人(なかむら・なおと)/理学療法士、ヨガインストラクター、ピラティスインストラクター。Studio TAKT EIGHTを主宰。理学療法士として臨床を経験。その後、ヨガ、ピラティスの指導者資格を取得。側弯症スペシャリストの育成にも力を注いでいる。

菅原「ピラティスは背骨にアプローチして、人類だけが抱える悩みを解決してくれます」。

菅原順二 山本邦子 中村尚人

菅原順二さん(以下、菅原)
よく「ピラティスとヨガって何が違うんですか?」という質問を受けますが、そもそも起源が異なりますよね。
中村尚人さん(以下、中村)
ヨガは古代インドで生まれたもので、もともとは出家した人たちが寺や洞窟で修行し、悟りを開くためのものです。ヨガの目的は精神的な解放、つまり解脱を目指すこと、と言えば分かりやすいかな。
山本邦子さん(以下、山本)
現代のフィットネスクラブで行われているヨガと本来のヨガとは、全く違う世界観ですよね。
菅原
一方、ピラティスは20世紀にドイツ人のジョセフ・ピラティスが考案したメソッドです。
中村
ヨガの長い歴史に比べたらピラティスは新しいよね。
菅原
ジョセフのことを彼から指導を受けた弟子たちは親しみを込めて「アンクル・ジョー(ジョーおじさん)」ってよく呼ぶんです。彼は、当時の人たちの運動不足を嘆き、正しい姿勢や動きを取り戻す手段の一つとしてエクササイズを考案しました。ジョーは「とにかく動け!」と言っていたそうで、動きの中でカラダにもともと備わっている能力を引き出そうとしたんです。

山本「ポーズを止めて内観するのがヨガ。動き続けるのがピラティス」。

中村
ヨガは宗教的・精神的な要素が強いけど、ピラティスはカラダを整えることが目的だよね。ただ、フィットネスクラブで提供されるプログラムは、両方とも現代人のカラダのニーズに合わせてアレンジされているから、似たように見えるのも無理はないかも。
山本
フィットネスクラブでやるか、ヨガスタジオでやるか。もしかしたらヨガは出合う場所によって少し印象が違うかもしれないですね。
菅原
では、ピラティスとヨガの動作は、具体的にどう違うんですかね。
中村
ざっくり言うと、ピラティスは「安定性」、ヨガは「柔軟性」っていう感じかな。
山本
ピラティスはカラダの軸をしっかりさせ、安定した動きを重視します。それに対してヨガは、カラダを解放して柔らかく、どんどん伸ばしていく感じ。
菅原
ヨガって足を首にかけたり、後ろに回して頭につけたり、すごいですよね!
中村
カラダの限界に挑戦しちゃう感覚ですね(笑)。
山本
ヨガでは、ポーズを止めて内観する時間を大切にします。一方で、ピラティスはアクティブに動き続けながら、カラダを意識的にコントロールするところがポイントですね。
中村
そうなると、結局どっちを選んだらいいのかって話なんだけど、僕はよく、「ピラティスはカラダの基礎を学ぶ教習所のようなもの」って紹介しています。基本的なカラダの動きや姿勢を学び、それを土台にスポーツや日常生活に活かす、という考え方です。
菅原
ピラティスは特に背骨の使い方を教えてくれるのが特徴的ですよね。直立して二足歩行するように進化した人類にとって、背骨のポジションを整えることは永遠のテーマ。なのに、背骨を意識して動かすフィットネスって実は少ないですから。
中村
確かに、背骨ってめちゃくちゃ大事なんですよ。ピラティスでは、背骨を関節ごとに一つ一つ動かす「アーティキュレーション」という動きがあります。現代社会は、座りっぱなしやスマホの見過ぎで姿勢が崩れがちなので、ピラティスは歪んでしまった姿勢の改善に非常に効果的です。
山本
ピラティスの良いところは、自分のカラダがどうなっているのかをしっかり実感できる点ですよね。例えば、リフォーマーなどのマシンを使ってカラダを動かすと、右側は柔らかいけど左側は硬いといった、自分のカラダのアンバランスさに気づけます。ヨガはもっと自由で、自分の動きたいように動けますが、カラダを痛めるリスクもあります。
菅原
人間も動物のように自然に動くべきですが、現代社会ではそれが難しくなっています。ピラティスのマシンは自分の動き方を再確認するのに役立ちますね。

中村「ヨガとピラティスが混同されるのは、どちらも現代人のニーズに合わせているから」。

山本
昔は自然の中で動きながら、背骨やカラダ全体を使うことが普通でした。木から果物を取るために背骨を伸ばすとか、低い茂みをくぐるために背中を丸めるとか。でも、今はそういう環境ではないから。
菅原
ピラティスの中には、動物の自然な動きを取り入れたエクササイズがいくつもあります。だから、ピラティスはものすごく理にかなっています。
中村
どちらを選ぶかという話ですが、ヨガは自分の感覚を大事にする部分が大きいんですけど、ピラティスは基本的なカラダの使い方を学ぶことができます。なので、ピラティスで基礎を学んだ後に、ヨガの自由な動きに進むのもいいんじゃないかな。また、エクササイズ後の達成感やすっきり感が得られるのはヨガかもしれません。
山本
ヨガを始めたいという方が私のスタジオにいらっしゃっても、その方のカラダの状態を見て、ピラティスを勧めることもあります。カラダを動かすことに慣れていない方は、まずピラティスに取り組んだ方が安全にフィットネスを楽しめるからです。ヨガとピラティス、両方のメリットを取り入れるのが効果的かもしれませんね。
菅原順二メソッド|「教えすぎない」指導で自らの気づきを促す。

菅原順二

菅原さんが目指すのは、トレーナーが持つ感覚を「押しつけない」アプローチ。指導を受ける側が自ら動いて感じ取り、考える時間を持つことが大事だと考えている。エクササイズ中は、やり方やポイントを手取り足取り教えるのではなく、自身のペースでエクササイズを理解し、改善点に気づく環境作りを念頭に置いている。

山本邦子メソッド|ヨガで身体感覚を養いパフォーマンスを上げる。

山本邦子

「カラダを動かすことで自分自身を知る」。それが、山本さんが提唱する「A-Yoga(ヨガ的動作教育メソッド)」の根幹。特にヨガの指導においては、身体感覚の気づきを大切に、そこで起こる感覚、情動や感情に目を向け、一人ひとりに最適な動作感覚の調和を意識した指導を行っている。

中村尚人メゾット|快適なカラダを目指し最適な手段をアドバイス。

中村尚人

 

中村尚人

理学療法士として「カラダが快適であること」への追求が、中村さんのメソッドの根底にある。もし、カラダに痛みや不調がある場合、その不快さを取り除くためには、自然なアライメント(カラダの姿勢やバランス)に戻す必要があり、動作も快適な位置で動かすことが重要。その手段として、ヨガやピラティスを用いることを提案している。