アメリカの空気をまとった国産車《トヨタ DELIBOY》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/五十嵐一晴 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.831・2022年4月7日発売

マニュアル車の扱い“にくさ”に目覚め、 デリボーイで日々デリバリー。

「普段からお世話になっている家具職人の〈モーブレーワークス〉鰤岡力也さんに、“スタジオも開いたし、そろそろクルマ必要なんじゃない?うちの職人のジョーさんのクルマ乗ってみる?”と勧められたのが、この《デリボーイ》なんです」

そう話すのは、渋谷区・西原のインテリアショップ〈ブルペン〉や、武蔵小山のスタジオ〈フロート〉を仲間と運営する庄司真吾さんだ。西原で扱う家具の納品に、武蔵小山で開催されるポップアップの搬入……、デリボーイは、その名のごとく、庄司さんの周りで起こるデリバリーにフル稼働している。

「鰤岡さんに提案された時は、マニュアル、しかもコラムシフトでしょ? 運転できるかな?と、一旦返事を保留にしたのですが、ちょうど実家の山形に帰るタイミングがあり。滞在中に実家の軽トラで運転感覚を思い出すべく、ひたすら練習(笑)。意外といけるかも?と思い、東京に戻ってすぐ、“お願いします!”と返事しました」

去年の8月に譲ってもらってから約8か月。なんだかんだコラムシフトの扱いにくさに悩まされたりもしたけれど、デリボーイは庄司さんの忙しい毎日の生活にだいぶ馴染んできたそう。

「この前、オートマのレンタカーを借りることがあったんですが、なんか物足りなかったんですよね。シフトチェンジもないから手持ち無沙汰になるし、ブロロッとアメ車ばりにうるさいエキゾーストノートも鳴り響かないから車内は静かで。やっぱり大きな鉄の塊を己のテクニックで動かしているほうが楽しいなって。冬は暖気(エンジンを暖めないと動かない)が3〜4分必要なとことか、坂道発進時は常に緊張を感じるとことか、不便なことはたくさんあるけれど、それこそがデリボーイが最高たる所以なんだ!と納得できるカラダにさせられちゃいました」

BGMはラジオ一択。好きなチャンネルをかけながら、相模原の〈モーブレーワークス〉の作業場にデリボーイで向かう時間は何物にも代え難いと庄司さん。

「前の持ち主のジョーさんは、このホワイトボディに途方もないアメリカを感じると言っていたけれど、僕もだんだんと意味がわかってきました。その素っ気ない感じが確かにアメリカっぽいなーと」

アメリカのムードに包まれた90年代の国産車は、彼の地の家具や雑貨と同じくらい、日本の作家ものやアートを愛する庄司さんにつくづくぴったりなクルマだと思う。

TOYOTA DELIBOY

デリボーイは、1989年から1995年まで販売されたトヨタの商用車。逆輸入車のようなアメリカンスタイルは、現在もカスタムカーのベース車両として人気だ。ちなみに庄司さん曰く、「燃費は8km/ℓくらいですね(笑)」。中古価格の相場は、ノーマルで約50万円。

バックドアは観音開きだから、大きな家具を搬入・搬出するときも便利。左側ドアの下部には、〈フロート〉のステッカーを貼っている。

純正ルームミラーは視界をカバーする範囲が狭いからと、ナポレックスのワイドミラーを上からオン。これは前オーナー時代から受け継がれるルームミラーの2枚重ね。その隣からニョキッと突き出たものは、金沢の木工作家・大村大悟さんのマグネットだ。

「座席の位置が高いので、運転はしやすいですね」と庄司さん。ハンドルは、旧車ならではの“重ステ”。

塗装が禿げてしまった箇所もちらほら。そんなに気にせず、そのまま乗るのもアメリカ風味に一役買っているような。

  • 全長4,385×全幅1,650×全高1,980mm
  • エンジン=1,486cc、直列4気筒
  • 乗車定員=2名
Owner

庄司真吾(〈FLOAT〉オーナー)
1983年、山形県生まれ。アメリカ家具店〈アクメ ファニチャー〉を経て、2018年に仲間と〈ブルペン〉を、21年にスタジオ〈フロート〉をオープン。