水はどれくらい飲むべき?温泉の効果を高める理想の入浴法8選。

「温泉に長く浸かるほどいい」は、大きな誤解。入浴前後のひと工夫と湯との正しい付き合い方で、温泉の健康効果は大きく変わる。安全に、無理なく、カラダに効かせるための正しい入浴法を紹介する。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/Motiejus Vaura 取材協力・監修/早坂信哉(東京都市大学人間科学部教授、医師)

初出『Tarzan』No.914・2025年11月6日発売

正しい入浴法_水分補給するイラスト
教えてくれた人

早坂信哉(はやさか・しんや)/東京都市大学人間科学部教授、医師。温泉療法専門医、博士。日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。メディア出演や書籍などを通じて温泉や入浴に関する健康効果を広く発信している。

カラダに負担のかかる入り方、してない?

NG行動を改めることは主に衛生さを保ったり周りを不快にさせないための最低限のマナー。これを踏まえて、今度は温泉の効能を最大限に生かすための正しい入浴法についておさらいしていこう。

入浴前、入浴中、入浴後、せっかく温泉に浸かっても適切な入り方をしないと温泉成分がもたらしてくれる恩恵も半減、それどころかカラダに負担がかかって逆効果を招いてしまうことも。

温泉はあくまで「安全に」「無理なく」利用してこそ、有り難い健康効果が期待できる。どれもちょっとした工夫や行動だが、その積み重ねがものをいう。

1.運動後は30分以上時間を空けてから。

運動後30分してから入るイラスト

たとえば登山などのハードな運動をした後、すぐに温泉に入って汗を流したいところだが、ちょっと待った。運動後は最低でも30分から1時間、時間を空けてから入浴を。

理由のひとつは心拍数を落ち着かせることで入浴時の血圧急上昇を防ぐため。もうひとつは筋肉内の老廃物除去など、リカバリーのために働いている血液を入浴で全身に分散させないため。心拍数や呼吸が落ち着き、クールダウンしてから温泉に浸かるのが正解。

2.入浴前のかけ湯でカラダの負担軽減。

入浴する前にかけ湯をするイラスト

浴槽に入る前にかけ湯をすることはマナー面だけでなく、カラダにとっても必須の習慣。いきなり熱い湯に浸かると血圧が急上昇し、身体的にも負担がかかるからだ。

寒い季節は脱衣所で服を脱ぐ際に血管が収縮して血圧が上昇、湯船に浸かることで今度は血管が広がって血圧が急降下、心臓や血管に負担がかかる「ヒートショック」が起こりやすい。その予防策としてかけ湯は必須。心臓から遠い末端から徐々に湯をかけること。

3.持病がある人は湯温に注意する。

高血圧や糖尿病など、基本的に疾患がある場合、高温の湯への入浴は避けた方がいい。高血圧の場合は42度以上の湯に浸かると血圧が急上昇するし、糖尿病の場合は熱い湯で酸化ストレスが体内に発生するので糖尿病に悪影響を与える。

脂質異常症の人も高温浴でコレステロール値が上がる可能性がある。いずれも湯温にして38〜40度が目安。また、軽度の心不全の場合は全身浴は避け、足湯やシャワー、半身浴がおすすめ。

4.まずは半身浴から始める。

半身浴から始めるイラスト

一気に肩まで湯に浸かると急激に水圧がかかるので血管や心臓に大きな負担がかかる。よって半身浴からスタートを。

まずは立ったまま軽く膝を曲げて腰まで湯に浸かる。次に浴槽の段差などに腰かけてみぞおちまでを湯に浸ける。カラダが温まってきたらゆっくり肩まで湯に浸かるという手順。どんなにいい泉質でもカラダを驚かせては意味がない。湯にゆっくりカラダを慣らしていき、温泉成分を味方につけよう。

5.全身浴10分で湯から出る。

温泉および入浴の7大健康効果を得る入浴法は「40度」「10分」「全身浴」。副交感神経を優位にする40度程度のお湯に全身浸かり、時間はトータルで10分間。目安として額にうっすら汗をかくくらいのタイミングでお湯から出るのが正解。

せっかく温泉に来たんだから元を取ろうと長湯をすると、体温が上がりすぎて湯あたり(熱中症)する可能性も。それこそ、せっかく温泉に来て逆にぐったり疲れてしまってはもったいない。

6.湯船から出るときはゆっくりと。

亀と人がゆっくり湯船から出るイラスト

湯に浸かってきっかり10分経ったので、勢いよくザバッと立ち上がって湯から出る。この上がり方は避けてほしい。なぜなら、水圧から急に解放されることで血圧が急降下し、立ちくらみやめまいなどを起こしやすいからだ。

ゆっくり立ち上がりながら体勢を整え、湯船からそっと出るのがポイント。気分が悪くなったときは、頭を低い位置に保って浴槽から出たら、横になって回復を待つ。近くの人に助けを求めることも重要だ。

7.水分補給を忘れずに。

水分補給をするイラスト

10分間の全身浴をすると、1回の入浴で800mLの水分が汗によって失われるといわれている。脱水症状を防ぐためにも入浴後の水分補給は忘れずに実践のこと。入浴前後で500mLの水分を補給するのが目安。

汗とともに体内のミネラル分も失われているので、ミネラル入り麦茶などを飲めば言うことなし。風呂上がりにビールをぐびっとやりたい気持ちは分かるが、利尿作用があるので水分補給にならない。ビールの前に必ず水分を摂ろう。

8.入浴後はカラダを安静に。

湯から出たらカラダに対する負荷が高い酸性やアルカリ性の湯、皮脂を取り除いてしまう硫黄泉などはシャワーで流し、それ以外は温熱効果の保持のためにそのまま流さず浴室を出る。

脱衣所では水滴をしっかり拭き取り、気化熱で体温が奪われないようにする。風呂場を後にしたら卓球やカラオケに行かず、部屋で30分ほどぐだぐだリラックス。副交感神経の活性化に努める。

さまざまな入浴法を知って効果を高める。

【半身浴・全身浴】

みぞおちの高さまで湯に浸かるのが半身浴。入浴スタート時には必ずここから。肩まで浸かるのが全身浴。温泉の温熱効果を最も得やすいのがこの入り方。目標最大入浴時間は10分。

【足湯・手湯】

カラダへの負担が小さい入浴法なので、小さな子どもから高齢者まで人を選ばず安心して利用できる。末端をじっくり温めることで血行が促進され、冷え性改善の効果も期待できる。

【打たせ湯】

高所から落ちてくる湯を浴びる入浴法。落下する湯が筋肉の凝りをほぐし、血行を促すので肩などのマッサージ効果が期待できる。刺激が強すぎると凝りが悪化するので時間はほどほどに。

【寝湯】

浅い浴槽に寝そべって湯に浸かる入浴法。姿勢を維持する必要がないので全身を弛緩させられる。水圧は水深が深いほど大きくなるので、小さい圧でゆっくりリラックスできるのが特徴。

【圧注浴・気泡浴】

浴槽に設けられたノズルから出る高圧の水流をカラダに当てる、いわゆる「ジャグジー」という名で知られる入浴法。気になる部分に当てることで主にマッサージ効果が狙える。

1泊2日の温泉旅行。理想のスケジュール。

最後に、温泉旅行の最適なスケジュールの立て方について提案したい。

今回ご紹介するのは最もスタンダードな1泊2日の温泉旅行。何となく温泉地を訪れて何となく湯に浸かって、お土産を買って帰路についたのはいいけれど、温泉の御利益はあまり感じられず、逆に疲れてしまった。ということがないように、温泉地での理想的な過ごし方を時系列で追ってみよう。

湯に浸かるだけが温泉療法ではない。到着から宿のチェックアウトまで、こんな流れで過ごせば必ず温泉効果を実感できるはず。

11:00 温泉地到着|その土地ならではのアクティビティを楽しむ。

その土地ならではのアクティビティを楽しむイラスト

温泉地には早め、できれば午前中に到着したい。というのは、温泉地ならではのアクティビティを取り入れることでより健康効果を感じる人が多いことが分かっているから。ハイキングやおいしいランチ体験など存分に楽しもう。

15:00 宿にチェックイン|温泉まんじゅうを食べて低血糖を予防する。

温泉まんじゅうを食べているイラスト

温泉に浸かってカラダが温まり血行が促されると膵臓が活発に働き、インスリンが分泌されて血糖値が下がる。空きっ腹での入浴は低血糖を引き起こすことも。これを防ぐためチェックイン後には温泉まんじゅうを食す。

16:00 入浴(1回目)|元を取ろうとせず入浴時間は計10分間に。

入浴しているイラスト

基本は「40度」「10分」「全身浴」なので長湯は禁物。サウナや寝湯などバラエティ豊かな入浴環境がある温泉なら、こまめな時間配分でさまざまな入浴を楽しもう。左下のプログラム例を参考に。

温泉施設でのプログラム例。

【入浴前の注意事項】

コップ1杯のミネラル入り麦茶を飲む、軽く5回全身を伸ばす、深呼吸を10回行う。

●ストレス解消プログラム(40代男性の場合)

  1. かけ湯をする…カラダをお湯に慣らす。
  2. 半身浴(38℃)5分…心身に負担をかけずにカラダを慣らす。
  3. 気泡浴(40℃)3分…徐々に刺激を加える。
  4. 休憩10分…負荷のかかったカラダを休める。
  5. サウナ(90℃)5分…交感神経を賦活。
  6. 休憩10分…負荷のかかったカラダを休める。
  7. 寝湯(36℃)10分…副交感神経を優位にさせる。

●肩こり改善プログラム(40代女性の場合)

  1. かけ湯をする…カラダをお湯に慣らす。
  2. 半身浴(38℃)2分…心身に負担をかけずにカラダを慣らす。
  3. 圧注浴(40℃)5分…徐々に刺激を加える。
  4. 休憩10分…負荷のかかったカラダを休める。
  5. 打たせ湯(90℃)3分…気になる部分を刺激する。
  6. 寝湯(36℃)5分…副交感神経を優位にさせる。
17:00 周囲を散策。|入浴後は軽い歩行で血行促進。
18:00 夕食|入浴の1〜2時間前に夕食時間を設定する。

宿の夕食を食べるイラスト

空腹での入浴は血糖値を下げてしまうが、食後すぐの入浴も問題。血液が体表に集中するので胃腸の働きが悪くなり、消化不良を起こしてしまうから。入浴時間から逆算して1〜2時間前には夕食を。お酒はほどほどに。

20:00 入浴(2回目)|睡眠の90分前に2回目の入浴をする。

ゆっくり入浴するイラスト

夜の入浴は夕食1〜2時間後、かつ就寝の90分前。温泉地での入浴時間は常に逆算すべし。就寝90分前の理由は温泉で上がった体温が下がるまでにそれくらいの時間がかかるから。このタイミングで布団に入れば快眠できる。

22:00 就寝|スマホの電源をオフにし、デジタルデトックス。

デジタルデトックスのためケイタをしまうイラスト

温泉の最大の健康効果のひとつは日常から解放される「転地効果」。これを損なわないために滞在中や寝る前はスマホの電源をオフにする。客室の金庫などに入れて目に触れないようにする手もあり。

翌日6:00 入浴|朝風呂は夜に比べてさらに短い時間で済ませる。

朝風呂のイラスト

一晩眠ることでコップ約1杯分の水分が汗で失われる。朝風呂に入る前は必ず水分補給をし、低血糖を防ぐために少量の果物や菓子などを口にしよう。日中の眠気を防ぐため、入浴時間は夜に比べてさらに短時間で済ませる。

10:00 チェックアウト|余韻を残して日常へ。