ゴリゴリ音の正体から、反り腰の原因まで。肩甲骨・股関節の疑問を解説。
肩甲骨はがしって何?股関節のトラブルが起こりやすいのはどんな人?日常生活やふとした動作にひそむ疑問を、理学療法士の三枝剛さんが解説。
取材・文/小泉咲子 イラストレーション/gramas
初出『Tarzan』No.915・2025年11月20日発売

教えてくれた人
三枝 剛(さえぐさ・たかし)/都立大Physio Care&Conditioning代表、米国公認アスレティックトレーナー。関節や姿勢・動作の問題を根本的な原因から探り、解決へと導くリハビリに定評。2020年東京オリンピック・パラリンピック医療スタッフ。
Q.肩甲骨の周りに手が届かない人と届く人、何が違う?

この質問の答えは至ってシンプル。
「可動域ですね。では、背中で握手してみましょう。まずは右手を上にして、そして左手を上にして、両パターンで試してください。左右を入れ替えても手が届かない場合は、激しい猫背で腕が前に出てしまっているなど、そもそも姿勢に問題がありそうです。背中で握手ができないとダメと思われる人もいますが、カラダが硬くても痛みが出ていなければ大丈夫。心配なのは、左右どちらか一方だけ届かない人。片側の筋肉が硬くなり可動域が狭まっているか、カラダの左右差が大きい、もしくは上腕骨と肩甲骨が連動して動く比率を表す、肩甲上腕リズムが正常に機能していないことが考えられます」(理学療法士・三枝剛さん)
Q.「肩が強い」って何が強いの?

よく野球選手を評する表現として用いられるが、肩まわりの筋肉が強靱なのか、はたまた、骨格ががっしりとしていることを指すのか……この際、ハッキリさせたい!
「肩が強い代表としてイチロー選手を例に考えてみましょう。あれほど遠くに速く投げられるのは、地面を蹴った反力を足に伝え、素直にボールを握った指先まで伝えられるから。つまり“レーザービーム”は、素晴らしいコーディネーションの賜物であり、イチロー選手は単に肩だけでなく全身が強く、その使い方が上手いのです。ゆえに、肩を強くしたいからとやみくもに限られた部位だけ筋トレをしても、残念ながらパフォーマンスの向上は見込めなそうです」
Q.肩を回すとゴリゴリ音がするのはなぜ?
ふいに肩を回して鳴る、不穏な音の正体。肩甲上腕リズムという、上腕骨と肩甲骨が連動して動く仕組みが関係している。
「肩甲上腕リズムでは、上腕骨と肩甲骨をスムーズに動かすための比率が2:1と決まっています。腕を180度上げる時は、上腕骨が120度で肩甲骨が60度といった具合です。上腕骨と肩甲骨が一緒になって動いてしまったり、肩甲骨が内に入っていたりしてこの比率が狂うと、肩甲骨を動かした時に引っかかって音が出ることがあります」
もし、音に加えて痛みがあるのなら要注意。
「腱板の摩耗や筋肉の緊張などが考えられ、四十肩や五十肩の予兆かもしれません。肩甲骨を回す、姿勢に気をつけるなどセルフケアをしてもよくならない場合は医療機関へ」
Q.脱臼はクセになるって本当?
ズバリ、本当! 適切な治療を受けずに放置すると、関節は緩んだまま。軽い力でも外れやすくなる。そのうえで、覚えておきたいのが脱臼と亜脱臼の違い。
「脱臼は完全に肩が外れた状態で、激しい痛みを伴います。前方と後方のどちらにも外れますが、実際に多いのは前方脱臼。骨が前下方にぐちゃっとずれて靱帯を傷つけ、関節の中の組織も壊れてしまいます。一方、さほど痛みがなく自分でハメられる程度であれば、それは亜脱臼で、あまり心配せずとも大丈夫。しかし、また外れるかも……という怖さからまったく動かさなくなるのはよくありません。緩んだ関節を安定させるために適度に運動をしたほうが、再発防止には効果的」
Q.パソコン作業をしていると、無意識に肩が上がる原因は?

作業に集中していて気づくと、肩がクイッと上がり、首から背中にかけてバキバキ……なんてことはないだろうか。
「肩甲骨の動きには、内側に回り込む内旋と、外側に回る外旋があります。パソコン作業は内旋しがちで、その体勢で長時間いると、肩甲骨まわりの筋肉が固まって可動域が狭まり、肩甲骨ごと上がってきてしまいます」
他にもさまざまな原因が考えられ、その一つが姿勢。
「コアが弱く姿勢を保てないと左右どちらかに体重が過剰にかかり、肩甲骨の高さにも左右差が生じて、片方の肩が上がることが。たとえば右側に体重を乗せると、左肩が上がり、骨盤は左に逃げようとするなど、すべての動きは連動します。背骨が横に曲がったりねじれる側彎も考えられるので深刻なら専門家へ」
Q.「肩甲骨はがし」とは何を剝がしている?
整体やリラクセーションにおいては、肩甲骨の周りにある硬くなった筋肉の動きをスムーズにする施術を指すが、よくよく考えてみると、肩甲骨そのものは剝がすことはできない。
「肩甲骨は、その内側から背骨の間に位置する菱形筋と、肋骨の外側に広がる前鋸筋とでバランスを取っています。このあたりの筋肉をストレッチして、肩甲骨の動きを改善させることを“肩甲骨はがし”と呼んでいるのでしょう」
では、肩甲骨はがしとセットにされがちな「筋膜リリース」は?
「筋肉の表面を覆う薄い膜である筋膜は、痛みを感知するレセプターがたくさんある器官。緊張によって固まりやすく、全身の連動にも深く関わっています。ここにアプローチしてほぐしているということでしょう」
Q.水泳選手はなぜ肩甲骨がぐにゃぐにゃ動くの?

プールサイドで肩甲骨をぐわっと寄せ、肩をぐるんぐるん自由自在に回す水泳選手たち。あの超人的ともいえる可動域はどこから生まれるのか。
「肩甲骨が動きやすいほうが、ぐっと推進力が増してリーチが伸び、競技的に有利なのでしょう。また、水中で浮いて行う水泳は、地面に足をついて行うスポーツよりも常に体勢が不安定。肩を大きく動かしながら、カラダの軸を取ろうとしているとも考えられます。ですが、そもそもトップ選手には、もとから可動域が広いという身体的な素質が備わっているように思います。小さい頃にバランスを要するアクティビティや運動をやっていたかどうかも、その後の可動域に関わってきそうです」
Q.リュックを背負うと肩甲骨のあたりが痛くなるのはなぜ?

ストラップの長さをいくら調節しても痛くて、全身ぐったり……。
「前鋸筋から肩甲骨にかけてリュックのストラップによって押され、中身の重さ分の負荷がかかります。そのままでは肩甲骨が後方に引っ張られるので、倒れないように前へ押し戻そうと、ぐっと力が入ります。すると、背面の筋肉も緊張して硬くなるといった悪循環。これは抱っこ紐なども同じで、こわばりを感じたら、肩を前後に動かしたり回したりするといいですね」
Q.肩甲骨に「指が入る」ってどんな状態?
指が入るかどうかは、肩甲骨の状態を知る指標のひとつになりえる。
「筋肉が硬直しておらず、肩甲骨が自然にしっかり動く、健康的な状態と言っていいでしょう」
逆に入らないのは、周りがガチガチに凝り固まっているなど、肩甲骨には好ましくないサイン?
「硬いから即ダメというわけではありませんが、よくない傾向だとは言えます」
ちなみに肩甲骨はがしで無理やり指を入れると、筋肉を痛める可能性があるので要注意!
Q.女性のほうが股関節が柔らかいのはなぜ?

新体操や体操を見ていると、180度以上開脚しているのは女性選手ばかり。
「股関節そのものの可動域において、男女差はそれほどないと思われます。考えられるのは、腸骨、仙骨、恥骨、坐骨から構成される骨盤帯が女性は開いているから。股関節を動かすには骨盤帯と腰椎が関わっており、これらの連動性においては男性のほうが硬く、屈曲や伸展がしにくいのかもしれません。ただ、股関節まわりというより、筋肉のボリュームの差ではないでしょうか。一般的に、男性のほうが筋肉ががっしりついているので、柔軟性が出にくいのでしょう」
女性ホルモンは筋肉や関節を柔らかくする作用があるので、その影響もありそうだ。
Q.股関節が痛い。立つと痛みが和らぐ気がするが…。
股関節が痛む人は、痛みを感じるシーンを思い返してほしい。
「“座っていると痛いけど、立っているとマシ”と感じる方が多いようです。長時間同じ姿勢で座ることは、股関節に相当な負担をかけています」
最低でも1時間に1回は立って、圧迫された股関節を解放してあげよう。では、なぜ座位よりも立っているほうがラクなのか?
「椅子に座る際、足裏は床についてはいますが、代わりに股関節が一手にカラダの重さを受けることに。立てば、脚でカラダを支えますから股関節への負担が減って、痛みも感じにくくなります」
では、椅子ではなくあぐらはどうだろう。
「股関節が不安定な状態になり、筋肉を緊張させることで安定を図ろうとします。なので、積極的におすすめはできません」。
Q.股関節は歪むとどうなる?

「基本的に股関節が形状として歪むことはない」とキッパリ。それが起こっているのだとしたら、股関節の軟骨がすり減る変形性股関節症や大腿骨壊死など重大な病気だと推測する。
「骨盤が傾いている状態を“歪み”と表現するのかもしれません。ただ、脚の長さには左右で差があり、医学上3cm未満は異常ではありません。つまり、差が生じることは当たり前。人のカラダというのは、動きに支障が出ないように、無意識のうちに補正してくれているのです」
この差が大きくなるとトラブルに。
「長年、同じ側に体重を乗せるなどしていると、骨に負担がかかり炎症を起こしかねません。そうしたクセは直したほうがいいでしょう」。
Q.反り腰は背骨の問題?股関節の問題?

肩、首、腰、股関節、膝、足首など、さまざまな部位に不調を引き起こす反り腰。直すにも原因が知りたいが、このギモンに対する答えは“どちらでもある”。まず背骨の観点から考えてみる。
「人の頭は約6kgととても重いので、カラダの中心からズレればズレるほど、重さが増します。できるだけ負荷を軽くしたくて、背骨からまっすぐ上に置こうとカラダのシステムが働き、全体のバランスを取ってくれます。その結果として、骨盤が前傾し、膝が内に入って反り腰になることがあります」
次に、股関節の問題の場合はこうだ。
「股関節が安定しているときは問題ないが、動きや角度によって不安定な状態になると、カラダが股関節に負担をかけないように自然と腰に力が入り、反り腰になります」
Q.股関節が硬いと走るのが遅くなるって本当?

このギモンを解くうえでポイントになるのは、背骨と骨盤、太腿の骨を繫ぐインナーマッスル、腸腰筋。
「走るのに大事なのは、地面を蹴ること以上に、脚を引き上げること。それには腸腰筋が大事! 上手く使い、脚をしっかり引き上げれば、ストライドが広がりますから、スピードに乗り、いいタイムが出るというわけです。股関節が硬いと腸腰筋を効果的に使えませんから、足が遅くなります」
Q.股関節のトラブルが起こりやすいのはどんな人?
股関節のトラブルで悩むのは女性が圧倒的に多いと三枝さんは語る。
「その大きな理由は、女性の骨盤は妊娠・出産のため男性に比べて横に広いがゆえに、股関節が内転・内旋しやすく、圧迫されやすいから。筋力も関係していそうです。筋力が弱い人は骨盤を安定に保てないので、歩く時も横に揺らしながら進まなければならず、負担が大きくなります」
ホルモンバランスの乱れやヒールも原因のひとつ。
Q.股関節を柔らかくすると代謝が上がるって本当?

まことしやかに囁かれるこの噂。真相を解き明かすには、基礎代謝の仕組みをきちんと理解する必要がある。
「全身の酸素消費量の20%を占める脳には、毛細血管が張り巡らされ、エネルギーを大量に使います。運動すると代謝が上がるイメージがありますが、脳などの臓器に比べると、実はあまりエネルギーを使っていないのです。なので、運動によって股関節を柔らかくすることと、代謝が上がることは直接的には繫がりません。ただ、股関節が柔らかいと運動をしやすくなるので、運動量が増えて代謝が上がることはありそうですが、そこまで大きな影響はないでしょう」
Q.赤ちゃんの横抱きは、股関節に悪い?

片方の手で頭と首、逆の手でお尻を支える横抱き。
「成長途中の赤ちゃんの骨は柔らかく、関節に力がかかると外れやすいので、避けたほうがいいでしょう」
赤ちゃんの脚は、カエルのように両膝と股関節が曲がったM字形で外側に開いている。横抱きでは、赤ちゃんの両脚を揃えて抱えるため、どうしても股関節が閉じてしまう。自然とM字形に開き、自由に脚が動かせる正面抱きが好ましい。
Q.股関節からのSOSに気づくには?
上半身と下半身を繫ぐ要であり、立つ、歩くといった動作の基点となる股関節。ゆえに状態がよくなくなれば、好きなスポーツを楽しむことも、健やかに暮らすこともままならない。この重要なパーツから発せられる危険信号に、いち早く気づき対処したいところだ。
「大腿骨や仙骨、腰椎に痛みがあると、股関節が炎症を起こしている可能性が。動きの中で痛みを感じ始め、炎症が進行するとだんだんと寝た状態でもしんどくなっていきます」
そうなるまでに、痛みは放置せず、医療機関を受診しよう。ちなみに、急に動いた時など股関節がパキッと鳴るのは大丈夫だろうか。
「それは筋肉や腱が骨に引っかかる“弾発股”という現象でしょう。音が出るだけで痛みがないのであれば問題ないでしょう」



