知れば動きの質が変わる!肩甲骨・股関節が連動する仕組み。
肩甲骨と股関節は、ともに球関節という共通項を持つ兄弟分。ファシアと背骨を介して連動し、動きの質とパワーを左右する要だ。その仕組みを知れば、姿勢も運動能力も一段引き上がる。
取材・文/井上健二 イラストレーション/三上数馬 取材協力/牧野講平(森永製菓トレーニングラボヘッドパフォーマンススペシャリスト)、高平尚伸(北里大学大学院医療系研究科教授)、友岡和彦(クリードパフォーマンス パフォーマンスディレクター)、山口正貴(東京大学医学部附属病院理学療法士)
初出『Tarzan』No.915・2025年11月20日発売

教えてくれた人
牧野講平(まきの・こうへい)/森永製菓トレーニングラボヘッドパフォーマンススペシャリスト。米国イースタンワシントン大学卒、弘前大学医学部博士課程後期在学中。高梨沙羅、前田健太らの他、多くのオリンピアンのサポートを行う。NSCA CSCS。日本コンディショニング協会理事。
高平尚伸(たかひら・なおのぶ)/北里大学大学院医療系研究科整形外科学教授。専門は整形外科学、リハビリテーション科学、スポーツ・運動器理学療法学。医学博士。運動選手の信頼も厚く東京2020オリンピック大会で選手対応スポーツドクターを務める。
山口正貴(やまぐち・まさたか)/東京大学医学部附属病院リハビリテーション部所属。東京理科大学在学中にギックリ腰罹患でリハビリに興味を持ち、卒業後理学療法士の資格取得。2016年に研究論文で日本理学療法士学会第8回優秀論文表彰で優秀賞受賞。
友岡和彦(ともおか・かずひこ)/CREED PERFORMANCE創設者。立教大学卒業後、渡米してフロリダ大学でエクササイズとスポーツ科学を学ぶ。MLB3球団で合計10シーズン、ヘッドストレングス&コンディショニングコーチを務めた経験を持つ。
ともに球関節。ゆえにシンクロしやすい肩甲骨・股関節。
肩甲骨と股関節はいずれも「球関節」。肩甲骨は骨だが、腕の上腕骨と作る肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)が球関節である。
球関節の作りは、ボールとソケットに喩えられる。骨の先端にある丸み(ボール)が、受け皿状の凹み(ソケット)にハマるのだ。この構造をしているのは、ほぼ肩関節と股関節のみ。だからこそ、シンクロしやすいのである。
肩関節は、肩甲骨の両側にあるソケット(関節窩)に、上腕骨のボール(上腕骨頭)が連結する。同じく股関節は、骨盤の両側のソケット(寛骨臼)に、大腿骨のボール(大腿骨頭)がハマり込んでいる。ボールが半分以上深くソケットに入っているため、臼状関節に分類されることもあるけれど、広く捉えると間違いなく球関節。
球関節の特徴は、自由に稼働できる範囲が広いこと。ことにソケットが浅い肩関節は、人体でもっとも自在に動ける。反面、球関節にはちょっとした弱点もある。
「肘関節や膝関節のように、骨と骨が接している関節面がフラットに近い関節と比べると、何かのきっかけでボールとソケットの位置がズレると、機能不全を招きやすい。だからこそ継続的なトレーニングが不可欠です」(コンディショニングコーチの牧野講平さん)
肩甲骨と上腕骨が作る肩関節と、骨盤と大腿骨が作る股関節の構造。ともに球関節に分類されており、兄弟といっていいほど、よく似ている。
離れた両者をリンクさせる「ファシア」という存在。

ファシアのラインはトーマス・マイヤースの名著『アナトミー・トレイン』で明らかに。スパイラルラインはらせん状に全身を繫ぐ。
肩甲骨と股関節の間にはかなり隔たりがあり、決してダイレクトに連絡しているわけではない。遠距離恋愛気味の両者をリンクさせているのが「ファシア」。
ファシアとは、筋膜のこと。筋膜というと、筋肉を包む膜というイメージも強いけれど、ファシアは骨・筋肉に次ぐ第3の骨格。全身をすっぽりボディスーツのように覆う。
英語では、筋肉を包む狭い意味での筋膜を「マイオファシア」という。でも、日本ではファシアとマイオファシアをどちらも筋膜と称するため、話がややこしくなる。ここでは、第3の骨格としての筋膜をファシアと呼ぼう。
ファシアには、全身を有機的に使いやすくするように、いくつかのライン(連なり)がある。
「その一つに、カラダをらせん状に結びつける“スパイラルライン”があります。ファシアは力の情報伝達の役割を担い、このスパイラルラインを介して、肩甲骨と股関節が繫がると、全身をムダなくフルに使えるのです」(整形外科医の高平尚伸さん)
高平先生は手術の際、ファシアをできるだけ傷つけないように細心の注意を払うとか。
「ファシアのラインを温存しておくと、術後の機能回復が早まるという効果も期待できるのです」
上手な連動により、最小限の力で最大限のパワーを発揮。

側屈と回旋が連動するカップリングモーションは背骨のユニークな特徴の一つ。左への側屈で左向きに回旋、右だとその逆が起こる。
腕の付け根は肩甲骨、脚の付け根は股関節。犬や馬といった四つ足の動物に喩えると、ヒトの腕は前脚、脚は後ろ脚に相当する。
男性駅伝選手の平均時速は20kmだが、サラブレッドは60kmで走れる。四つ足動物の優れた能力を支えるのは、背骨(スパイン)を介した前脚と後ろ脚の協調。
「背骨を軸にパワーを生み出す戦略を“スパイナルエンジン”といいます。ヒトでも、スパイナルエンジンで肩甲骨と股関節を上手に協働させられたら、効率的かつパワフルに動けます」(パフォーマンスコーチの友岡和彦さん)
その鍵は回旋。理由は2つある。
第1に、背骨に備わったメカニズムが活用できるから。背骨には、横へ倒す側屈を行うと、自動的に回旋が生じてねじれる「カップリングモーション」という機構がある。左右への些細な動きが、回旋を引き出してくれるのだ。
第2に、ひとたび回旋すると、反動で逆方向へ回旋する力が利用できる。タオルをきつくねじって手を離すと、自然と元に戻ろうとする力が働くのと同じ理屈。
「背骨の中心であるみぞおちから手足が出ている気持ちで回旋を意識すると、手足のテコのアームが長くなり、最小限の力で最大限のパワーを出力できます」
協働しやすい動きを知ると、あらゆるスポーツが得意に。

赤ちゃんの運動発育過程に学ぶDNS理論では、骨間接触面積の最大化を「ジョイントセントレーション」と称して重要視する。
サーブを待つテニス選手、守備につく野球選手、PKに備えるサッカーのゴールキーパー……。実はみんな似たような姿勢をしている。股関節を曲げて中腰になり、肩甲骨が自由に動けるように背すじを伸ばして前傾しているのだ。
これは「パワーポジション」と呼ばれており、肩甲骨と股関節が助け合いつつ、瞬時に動けて大きなパワーが出せる体勢である。
パワーポジションの利点は、関節を作る骨と骨が接する面積(骨間接触面積)が広がること。
「球関節ではボールとソケットの中心を一致させないと、骨間接触面積は狭くなる。狭いほど動きは不安定になり、広くなるほど関節はブレずに無駄なくパワーが伝えられます。パワーポジションに限らず、スポーツやトレーニングの正しいフォームはつねに、肩関節と股関節の骨間接触面積を最大化しているのです」(友岡さん)
体幹の強化が肩甲骨・股関節をサポート。

肩甲骨や股関節の周囲だけではなく、ドローインやプランクなどの体幹トレで4つのインナーマッスルを鍛えることもお忘れなく。
体幹強化はメリット満載だが、肩甲骨にも股関節にも役立つ。
そもそも体幹トレは、お腹を割るための腹筋トレとは違う。ターゲットは、体幹の深いところを走る腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群という4つのインナーマッスル。4つの筋肉はユニットを作り、協力して腹圧を高める。
大きな力を出す際、事前に4つのインナーが働いて腹圧を上げてから、肩甲骨と股関節で手足を動かす仕組みがある。これを「フィードフォワード(先回り)」という。重たい荷物を持つ寸前、「ウッ」と息を止めて力むのも、腹圧を高めるフィードフォワードの好例。パワーポジションも、腹圧を高めやすい姿勢に他ならない。
フィードフォワードの狙いは、力を出す前に腹圧で背骨を安定できる点にある。それと同時に、背骨は働きやすくなり、肩甲骨と股関節は協力しやすくなるのだ。
美姿勢のキープも、連動を強化する!

猫背で背骨(胸椎)が曲がっていると、肩甲骨は外転位から動けない。腰椎が強く曲がりすぎると、股関節の動きも制限されてしまう。
筋肉には、1つの関節だけまたぐ単関節筋と、2つ以上の関節をまたぐ多関節筋がある。さらに、表層のアウターマッスルと、深層のインナーマッスルに分けられる。一部を除き、アウターは多関節筋、インナーは単関節筋だ。
肩甲骨と股関節の周りには、多くの単関節筋と多関節筋がある。単関節筋が先に働いて関節を安定させ、続いて多関節筋が大きなパワーを発揮するのだ。これも一種のフィードフォワード。
大切なのは、背骨のアライメント(骨の連なり)を崩さず、ニュートラルな姿勢を心がけること。
「背骨が乱れると単関節筋は働けても多関節筋が働きにくくなり、肩甲骨も股関節もちゃんと動きにくくなり、連携しづらいのです」(理学療法士の山口正貴さん)
日頃から美姿勢をキープする以外に、前述の体幹トレも背骨のアライメントを整えるうえで大事。
日常で肩甲骨・股関節の連動を意識したい?それなら「歩行」を極めよう。

お手本にしたいのは競歩選手の歩き方。彼らは背骨の回旋を巧みに用いつつ、片足ずつ真上から地面を強く踏み込むから、速いのだ。
自転車で急坂を上るとき、サドルから腰を浮かして自転車を左右に振る「ダンシング」を行う。推進力を補うため、左右交互にペダルの真上から体重を乗せるのだ。
日常生活でもスポーツでも、両足を揃えて行うことはほぼない。歩く、走る、階段の上り下りなどはすべて片足を交互に動かす。その際、坂道でのダンシングと同様に、真上に頭が来るように1歩ずつ体重をしっかり乗せられたら、疲れずに運動が続けられる。
「実は歩行こそ、カラダを巧みに操るコツを摑むのに最適。歩きを極め、背骨を軸に肩甲骨と股関節を協調させて、片足ずつ体重を着実に乗せるポジションとカラダの使い方を覚えたら、ランはもちろん、ゴルフやテニスや野球のスイング、格闘技のパンチやキックなども向上します」(友岡さん)
通勤も散歩も肩甲骨と股関節を共鳴させる貴重な機会なのだ。







