犬と歩むー「犬と同じ時間を共有し、互いに与え合う」|鑓野目純基(アウトドアガイド)とラック

古くから人間と共に生きてきた犬。その関係性は時代とともに変わりつつあるが、人生を共に歩む存在であることは間違いない。でも、人はどうして人生の相棒として犬を選ぶのだろう。犬との暮らしを通じて健やかな日々を送る人々に会いに行き、人と犬のウェルビーイングについて関係を探っていくこの企画。今回は、北海道東部、自然豊かな土地に暮らす写真家・アウトドアガイドの鑓野目純基さんと、雑種犬ラックのストーリー。

text: Yuriko Kobayashi photo: Tomohiro Nakamichi

雑種犬ラックのリードを持って歩く、鑓野目純基さん

釣り竿を持って、近所の川へ。

北海道東部に位置する弟子屈町。屈斜路湖と摩周湖、2つの美しい湖に見守られるようにしてある小さな町だ。市街地から車で20分ほど走ると阿寒摩周国立公園のエリアに入り、豊かな森と川が広がる。人家はまばらで、鑓野目純基さんが暮らす家も、そんな自然のただ中にある。

築70年ほどの一軒家は雪深い土地でかつてよく使われていたギャンブレル(腰折れ)屋根で、牛舎のようなほのぼのとした佇まい。呼び鈴を鳴らすと、扉が開くのと同時に大きなキツネのような犬が飛び出し、駆け出した。

森の散歩コースを走る雑種犬ラック

走るのが大好きなラック。いつもの散歩コースは森の中で、一直線に思い切り走れる。

「俺のほうが速く走れるぞ!って、見せつけたいんでしょうね」と、鑓野目さんは呆れたように笑う。相棒のラックは3歳の雑種犬。小さな頃から走るのが大好きなのだそう。最初こそ大目に見ていたが、しばらくしても落ち着かないと、「いい加減にしろ!」と叱る。一見、しょんぼりとした表情だが、鑓野目さんいわく、まったくこたえていないのだとか。

物心ついた頃から犬と一緒に育ってきた。

「小さい頃はダックスフントを飼っていて、その子が亡くなった後にゴールデンレトリバーを迎えました。ゴールデンは頭がいい犬だと聞いて、自分としてはちゃんとトレーニングして、バディのような関係性になれたらいいなと思っていたんです。盲導犬のように人間と一緒に働く犬がいますが、そこまでは辿り着けなくても、一緒に活動をして喜びを分かち合うような、そんな感じがいいなと。でも家族はそうは考えていなかったようで、結局甘やかして育ててしまいました」

いつか自分が責任を持って犬を育てられるときがきたら、これまでとは違う犬との関係性を築いてみたい。そんな思いをずっと持ち続けてきた。

北海道東部の釧路市で生まれ、オホーツク海に面した網走で小学校から高校までを過ごした。自然が好きだった父親に連れられてキャンプや釣りなどに出かけるうち、野山で遊ぶことが何より好きになった。大学時代に今暮らす弟子屈町を流れる釧路川をカヌーで下ったことが、ガイドの仕事を始める大きなきっかけになった。

「この家が手に入るぞとなったとき、おのずと生活の中に犬がいる風景を想像できました。森の中にあって、見える場所に人家はほとんどなく、あるのは山と川だけ。ここなら犬ものびのびと暮らせるし、子どもの頃から夢見ていた犬との関係性をじっくりと育んでいきたいと思ったんです」

しばらく後に出会ったのが、保護犬のラックだった。

鑓野目さんの自宅玄関に置いてある、カヌーやスキー、スノーボード。ラックと玄関を出る。

アウトドアガイドとして働く鑓野目さん。自宅玄関にはカヌーやスキー、スノーボードの道具がたくさん。ラックと一緒にカヌーに乗ることもある。

「ラックは5人きょうだいで、ほかの4匹は怖がりだったけど、こいつだけは好奇心旺盛で、呼んだらパッとこっちに寄ってくるような子犬でした。その頃からよく走っていたので、一緒にフィールドで活動できたらいいなと思ったのもありましたね」

その直感は間違いではなく、ラックは外で遊ぶのが大好き。釣りや登山、スノーボードやカヌーにも一緒に出かけ、季節を通して自然の中へ出かけるようになった。

「子犬の頃からノーリードのトレーニングを始めました。最初は衝動的に野生動物を追いかけてしまうこともありましたが、指示がない限りは追わないというルールを根気強く理解してもらうようにトレーニングを続けました。リードをつけないことの危険性は重々承知していますが、それでも野山を思い切り駆けて、野生の動物や魚に目を輝かせているラックの姿を見ると、それが犬本来の姿で、心地の良い生き方なんだなと感じます」

寄り添ってカヌーに乗る、鑓野目純基さんと犬のラック。

カヌーに一緒に乗ることもある。妻の未香子さんにぴったり寄り添って。(写真提供:鑓野目純基)

この日は一緒に近所の川へ。釣り糸を垂らす鑓野目さんの傍で、ラックはじっと水面を見ている。しばらくすると「まだ釣れないんですか…?」とでも言いたげに主人を見上げる。その表情があまりに人間らしくて、笑ってしまう。鑓野目さんはというと「もうちょい、待ってて」と言って、再び集中。そんなやりとりを見ていると、本当にふたりは外遊びのバディなんだと思えてくる。

自然豊かな森と、雑種犬ラック。

近所を流れる川で釣りを楽しむことも多い。釣れるまで静かに待つラックも、魚を見ると興味津々。

冬、山に雪が積もれば、スノーボードを積んだ車に乗って、一緒に山へ。斜面を滑る鑓野目さんに負けじと、ラックも全速力で雪山を駆ける。

「なだらかな雪山を滑る時にはラックが自分のシュプールを追いかけてくる。お世辞にも足が長いとはいえないから、深雪の時は大変そうですが、楽しそうですね。暮らしでも自然の中でも、人間と犬がペースを合わせて同じ時間を共有する。その一体感がすごく好きだし、心地いいです」

子犬の頃の雑種犬ラック

ラックが子犬の頃。徐々に雪にも慣れ、一緒に雪山で遊べるようになった。

犬と一緒にアウトドアを楽しむ。そんな理想的な関係を築けたのは、ラックの性格のおかげだけでは決してない。

「自然の中で暮らすにしても、きちんと指示を理解したり、自然の中にある危険性を理解させたりしないと、一緒に連れていくことはできません。これは僕個人の意見ですが、犬の行動を制限することは簡単です。でも、きちんとトレーニングをして、自分の暮らしや遊び、アクティビティになるべく慣らしておくと犬の行動範囲が広がるし、自由度が上がることで、犬の本能的な部分も満たされると思うんです」

冬に備えて薪の準備をする鑓野目純基さんと、見守る雑種犬ラック

冬に備えて薪の準備。遊びにいかないときでも、いつも主人のそばにいるラックは、暮らしの良き相棒でもある。

午後、ラックと一緒にいつもの散歩コースを歩いた。鑓野目さんと妻の未香子さんに寄り添って歩くラックは、どこかに野鳥を見つけたのか、一直線に森へと走り出し、数分後にまた猛ダッシュで戻ってきた。「あそこに何がいたの? 見に行ってみよう」。ふたりにとってラックは、人間には見えない自然の細部を教えてくれるネイチャーガイドのようでもある。

鑓野目さんはラックとの暮らしについて「時間を共有する」という言葉をたびたび使っていた。犬は人間に保護され、飼育されるだけの存在ではない。お互いに与え、学び合い、暮らしの中にあるすべてを共有して生きること。鑓野目さんにとって“犬と歩む”というのは、そういうことなのかもしれない。

額縁に入れられた鑓野目純基さんと雑種犬ラックの写真

Profile

鑓野目純基(やりのめ・じゅんき)/1992年、北海道網走市出身。大学院卒業後の2017年から北海道弟子屈町に移住し、カヌーやトレッキングなどのアウトドアガイドとして活動を始める。2021年より〈Outdoorguide YARINOME〉として独立し、ガイド業と写真撮影の仕事をスタート。地元である道東の自然やライフスタイルを中心に撮影を行い、表現活動を行う。スノーシーズンは北海道・札幌を拠点とするハンドメイドスノーボードブランド〈MOSIRITA〉のライダーとして、各地の雪山を滑走、撮影する。Instagram:@junki_yarinome https://www.junki-yarinome.com/