
教えてくれた人
高平尚伸(たかひら・なおのぶ)/北里大学大学院医療系研究科整形外科学教授。専門は整形外科学、リハビリテーション科学、スポーツ・運動器理学療法学。整形外科で対処困難な不調に対するセルフケアの重要性を説く。
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)/1971年、長野県生まれ。スポーツモチベーションCLUB100最高技術責任者。PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。日本では数少ないフィジカルとメンタルの両面を指導できるトレーナー。多くのオリンピック代表選手、青山学院大学駅伝チームなどを指導。著書に『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』『すごい股関節』など。
山口正貴(やまぐち・まさたか)/東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士。医療・予防業務に日夜携わりながら、腰痛研究に没頭。その研究論文は2016年日本理学療法士学会の第8回優秀論文表彰で優秀賞を受賞した。
いつ痛くなるのかわからないから!
膝が痛い? 高齢者じゃあるまいし、それ今の自分には無関係な話。整形外科や整骨院のお世話になる不調の中でも、膝痛はかように思われがちだ。でも、本当に?
膝の痛みが生じる原因の多くは「変形性膝関節症」。加齢などによって文字通り膝が変形し、軟骨がすり減って膝周辺に炎症が起こるという病態。北里大学大学院教授・高平尚伸さんは次のように言う。
「膝の半月板の付着部には痛みを感じるセンサーが多いと知られています。変形性膝関節症の場合、その前段階で起こる半月板が外側に移動する“半月板逸脱”という現象が最近注目されています」(高平さん)
膝関節は構造的に筋肉が少ない部位。太腿の筋肉は腱として関節に付着していて、中心となる組織は腱や靱帯、軟骨など。よって筋肉よりこれらの部分に炎症が起こることが多いのだ。変形性膝関節症の罹患率がじわじわ増え始めるのは40代以降。気づかぬうちにあなたの半月板も移動中かもしれない。一生ものの膝が欲しければ今から対策を。

1.まずは膝まわりの筋肉を養う。
変形性膝関節症対策のファーストチョイスは鎮痛剤、というのはあくまで重症者における対症療法。軽症レベルから根治を目指すのであれば、絶対に欠かせないのは運動療法だ。
違和感があるからとじっとしているのは逆効果。どんな手段であれ、とにかく膝周辺を動かすこと。ただし、やみくもに運動しても十分な効果は望めない。というのは、膝まわりの筋肉が貧弱な状態では膝関節が安定しないから。
「大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、内転筋など膝関節にまたがっている筋肉を鍛えることが第一条件です。これらの筋トレと日常的な膝の運動の両輪で対策することによって確実な効果が望めると思います」
と、トレーナーの中野ジェームズ修一さん。いきなり筋トレ? とビビっている場合ではない。40代からの膝対策のキモこそ筋トレだ。
クロスレッグ・エクステンション(左右各10回×2セット)
反対側の脚を負荷に太腿を鍛える。
ターゲット:大腿四頭筋

- 椅子の座面の真ん中に座り、左右の手で座面の縁を摑む。左右の膝下をクロスさせて床から浮かせる。
- 上側の脚は脱力させてこれを負荷とし、下側の脚を持ち上げる。
- 床に対して脚が平行の高さになるまで膝を伸ばす。
クロスステップ(左右各10回×2セット)
膝を安定させる内腿を重点的に刺激。
ターゲット:内転筋・腹横筋・骨盤底筋群

- 2Lのペットボトルを片手に持って立つ。両足は腰幅。
- ペットボトルを持った側の脚を内側斜め後ろ方向に伸ばして腰を落とす。このとき前側の脚の内転筋を意識する。前側の膝が内側に入らないよう注意。
スプリット・リフトリーチ(左右各10回×2セット)
膝サポート筋を効率よく鍛錬する。
ターゲット:大腿四頭筋・内転筋・大臀筋・体幹の筋肉群

- 椅子の横で両脚を前後に開いて立つ。前足の踵の下にタオルを敷く。片手を椅子の背もたれに添える。
- 後ろ脚を持ち上げると同時に伸び上がるように軸脚の膝を伸ばし、体重を爪先にかける。同じ側の腕は斜め前に伸ばす。
ニーリフトブリッジ(5往復×2セット)
前だけでなく後ろもバランスよく鍛錬。
ターゲット:広背筋・大臀筋・ハムストリングス
- 床に仰向けになり、両膝を立てて爪先を床から浮かせる。両手は体側から離して床につけてカラダのバランスをとる。
- お尻を床から持ち上げ、左右の足を交互に移動させお尻に近づける。小さく2歩くらい動かすイメージ。
スクワット・トゥ・カーフレイズ(20回×2セット)
膝下の筋肉の強化も手を抜かない。
ターゲット:大腿四頭筋・ハムストリングス・大臀筋・腓腹筋

- 爪先の下にタオルを敷き、両足を腰幅に開いて立つ。両手を腰の後ろで組んで両膝を曲げ、上体を前傾させたスクワットの姿勢をとる。
- そこから膝を伸ばして全身を伸び上がらせながら、爪先立ちのカーフレイズの姿勢に。
2.柔らかいソールの靴を選ぶべし。
歩くとき、着地の衝撃をもろに受けるのは膝関節。なので靴の選び方は非常に重要。東京大学医学部附属病院の理学療法士、山口正貴さんは次のように言う。
「衝撃吸収性に優れた靴でもヒールの高い靴はNGです。慣れないうちは膝が曲がるので着地の衝撃がかえって大きくなってしまいます。ヒールの高さはせいぜい1cm。また蹴り出しをスムーズにするためソールやアッパーが柔らかいことも条件のひとつ」(山口さん)
たとえば下に紹介するシューズはこの条件を満たす編集部の推し。
3.行儀は気にせず貧乏ゆすりを。

貧乏ゆすりも神経系のトレーニングのひとつと考えれば、気兼ねなく行える。速く動かすのが苦手な方の膝を大いに揺らそう。
運動器というよりは感覚器として膝を捉えてみるのも膝痛対策。と、理学療法士の石崎翔大さん。
「膝が悪い人は膝関節を小刻みに動かすことが苦手なんです。たとえ筋力が同じでも、痛みがある方の膝は感覚器としての機能が衰えている可能性があります。だから、たとえば貧乏ゆすりをしても、痛い方の膝はそうではない方の膝に比べてゆするスピードが遅い。左右の偏りを埋めるためにも、苦手な方の膝で速い貧乏ゆすりの練習をすることも有効だと思います」(石崎さん)
お行儀はこの際置いておいて、膝を小刻みに揺らそう。
4. 「100年歩き」で健やかな膝をキープ。
100歳まで自力で歩くための歩行術、その名も「100年歩き」。提唱者はこれまでに1万人以上の変形性膝関節症患者のリハビリ指導を行ってきた石崎さんだ。
「最大の特徴は骨盤を後傾させること。骨盤後傾は猫背を誘導することからカラダに悪いイメージがありますが、臨床経験から太腿の前の筋肉が働きすぎることが膝痛の原因ということに気づきました。そこで、骨盤を後ろに倒すことで前腿の筋肉の活動に抑制をかける100年歩きを考案したのです」
また、膝を伸ばすことで膝の負担が減る、踵の内側から着地することで内転筋が働いて膝の安定性が保たれるなどの利点も。
この歩き方を実践して膝痛が改善した人も多いとか。試してみる価値、大ありだ。
100年歩き

5.脚長差改善エクササイズで膝痛改善。
「脚長差」とは文字通り、左右の脚の長さが違うこと。極端な場合は足を引きずる、カラダを左右に揺らしながら歩くなど、膝への負担が増すことは明らか。
脚長差には骨格の変形で実際に脚の長さが違うタイプとカラダの歪みなどによって長さに差があるように見えるタイプの2種類がある。このうち後者は、エクササイズでの改善が可能だ。
「太腿の外側と内側の筋肉のアンバランスや骨盤や体幹が傾いていることで、歪みによる脚長差が生じることがあります。それによって片方の膝に負担がかかっている場合、エクササイズを行うことで膝痛が改善する可能性は高いと思います」(高平さん)
体側伸ばし(左右各30秒)

- まっすぐに立ち、片足を1歩前に出してクロスさせる。
- 前足と反対側の肘を上げて上体を逆側に倒す。このとき、腕を上げた側の掌は天井に向ける。反対側の手は体側に垂らしたままで30秒キープ。元の姿勢に戻り、逆も同様に。
3Dジグリング(左右各10回)

- 両足を肩幅に開いて立つ。中腰姿勢をとり、左右の手を脚の付け根に添える。
- 骨盤をゆっくりと10回回転させる。反対方向にも10回回転させる。股関節のまわりの筋肉を3D方向に動かすことで脚長差を改善。
お尻歩き(20歩)
- 床に座り、両脚をまっすぐに伸ばす。両腕も床と平行にして前方に伸ばす。
- 爪先を立てる。そのまま左脚を前に出すと同時に左腕も前に出す。次に右脚と右腕を前に出す。これを交互に繰り返し20歩程度前進する。
6.デスクワーク時は膝下エクササイズ。

仕事中は膝から下だけを上下左右にこまめに動かす習慣をつける。関節をスムーズに動かす潤滑液が分泌されることで、変形性膝関節症の予防に繫がる。
長時間のデスクワークを余儀なくされたときは、座ったまま膝下を上下にパタパタ動かす。あるいはワイパーのように爪先を左右にスライドさせる。理学療法士の山口さんによれば、
「膝下の動きで膝関節を屈伸させると、ルブリシンという軟骨細胞の潤滑液の産生を高める物質が分泌されます。このルブリシンは関節保護に欠かせない物質。分泌量が減ると変形性膝関節症に繫がる可能性が高くなります」(山口さん)
毎日の膝下エクササイズの繰り返しが将来の膝痛を防ぐ。
7.歩行時は爪先の向きをシフト。
大股で一歩踏み出し、後ろ足で力強く地面を蹴る。こうした一般的に理想とされる歩き方ができれば、膝痛とは無縁でいられる。とはいえ、歩き方にはその人独特のクセがあるもの。そのクセをもっと手軽に矯正する方法もある。
「爪先の向きを定期的に内側、まっすぐ、外側に変えて歩くという方法です。向きは11時、12時、13時の方向くらいのイメージで。本来、膝はそのレンジのすべての方向に向けられるはずなので、意図的に異なる刺激を加えることが目的です」(山口さん)
通勤時、行きは爪先を外側に向け、昼休みの外出では爪先を内側に向け、帰りは爪先をまっすぐ。または電柱間ごとに爪先の向きを変えるなどの工夫を。
8.サバ缶と納豆で骨養生。

パントリーや冷蔵庫にサバ缶と納豆を備蓄しておく。別々に食べるのもいいが、高平さんのおすすめは両方混ぜてパスタに和えたりお好み焼きの具にするなどだ。
いくら運動を取り入れても材料がなければ骨の強化には繫がらない。骨の主成分といえば、ご存じ、カルシウム。骨の約7割がカルシウムとリン酸が結合したリン酸カルシウムで構成されている。
同時に欠かせないのがビタミンD。カルシウムはカラダに吸収されにくいが、ビタミンDの仲介で吸収率が高まるからだ。さらにはカルシウムの骨への沈着をサポートするビタミンKも摂りたい。
「これらの栄養素を豊富に含む食材がサバ缶と納豆。どちらも軟骨の材料となるタンパク質が豊富な食材なので、毎日の食事に積極的に取り入れましょう」(高平さん)
9.入浴時に正座の練習をする。

まず浴槽の中で膝立ちをして、行けるところまでお尻を下げていく。星座で関節や膝裏に痛みが出たらマッサージしてから再挑戦を。
入浴タイムは膝痛改善の絶好の機会。というのは、陸上では難しい正座の練習ができるから。
「膝が痛い人は、繰り返しの炎症で関節包、脂肪などの軟部組織が硬くなることにより痛みが生じています。ですので筋肉より、腱や靱帯など関節まわりの組織を伸ばすストレッチの方がより効果が望めます。浴槽の中での正座で膝まわりを伸ばして」(石崎さん)
浮力を利用すれば正座姿勢の負荷も減る。毎日の習慣にするだけで痛み軽減に。まず浴槽の中で膝立ちをして、行けるところまでお尻を下げていく。正座で関節や膝裏に痛みが出たらマッサージしてから再挑戦を。
10.縄跳びより水中エクササイズ。

陸上運動に比べて関節にかかる負荷は少ないが、水の抵抗によってある程度の筋トレ効果は得られる。長時間歩くなら水中ウォークがベター。
痛みがあるからといって安静を心掛けすぎてもかえって逆効果。動かさないことで膝の機能は低下し、ますます膝の痛みは増す。さらに骨の強化には運動による刺激が必須。とくに縦方向の物理的な刺激が加わると、骨を強化するホルモンが出るという話。ならば、ジョギングか? 縄跳びか?
「どちらも骨の強化には有効ですが、関節にとっては負荷が高すぎます。良かれと思ってたくさん歩いたら、かえって膝が痛くなったと訴える患者さんも。とくに縦方向の刺激では体重の何倍もの負荷が膝にかかります。運動は関節への負担が少ない水中エクササイズなどがおすすめ」(高平さん)
11.膝の内側をほぐしてケア。

片手で拳を握り、人差し指の第2関節で膝の内側をグリグリほぐしていく。左右ともに縦、横、斜め、全方位的にほぐそう。
膝痛を訴える人の多くは太腿の前、それも外側の筋肉が硬くなっている傾向がある、と石崎さんは言う。大腿四頭筋でいえば、真ん中の大腿直筋と中間広筋、外側広筋は酷使されすぎて硬くなりがち。
「一方、太腿の内側の内側広筋はあまり使われず、不活性化の状態。ここをセルフケアのマッサージで縦横斜め、全方向にほぐすことで力が入りやすくなり膝痛の緩和に繫がります。最初は痛みがありますが、少し痛みが引くタイミングがあるのでそこで終了してOK」



















