アナウンサー、CA、タクシー運転手…各界のプロが実践する起床術。

睡眠に人一倍気遣う必要のある職業の人は、どんな睡眠の工夫をすることで、スッキリした目覚めを迎えているだろうか。日々の心がけについて、職種の異なる6人にインタビュー。

取材・文/小石原はるか 撮影/YUJI TAKEUCHI(BALLPARK) 取材・文/大木淳夫 撮影/今津聡子 取材・文/河合萌花 撮影/木村心保

初出『Tarzan』No.921・2026年3月12日発売

大下容子さん・稲垣啓太さん・ 吉澤翔太 さん

テレビ朝日アナウンサー・大下容子さん|眠れないことを恐れない。

大下容子(おおした・ようこ)/広島県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ朝日に入社。2020年6月、役員待遇のエグゼクティブアナウンサーに。初期の『ワイド!スクランブル』から『大下容子ワイド!スクランブル』までMCを務める。

テレビ朝日アナウンサー・大下容子さん

「お昼の顔」を担って27年。自分を律する“長距離走者”。

週に5日、午前中に始まる2時間超の生放送の司会を担当して27年。硬軟織り交ぜたニュースを伝え、コメンテーターやゲストの言葉を引き出し、ハプニングにも臨機応変に対応する番組の進行役はいかにもハードだが、大下容子さんは常に自然体でたおやかな雰囲気。その仕事ぶりを支えているのは、たゆまぬ睡眠の工夫だ。

「寝付きはいいほう」という大下さんだが、眠りの質を良くし、常にコンディションを保つ心がけを習慣化している。お風呂には血流促進効果の高いマグネシウムが豊富なエプソムソルトを入れ、カラダを芯まで温める。入浴後はシートマスクをしながらストレッチをし、カラダが冷めないうちに就寝。

枕は数多く試した結果、現在は低めの高反発枕に落ち着いた。また、好きな香りの石鹼と一緒にクローゼットにしまっておいた枕カバーを使い、優しい香りを感じながら眠りに就くのだそう。ただし「眠りが浅く、途中で2回は目が覚めます」とも。が、「焦らず、何も考えずにまた寝ます」。中途覚醒もまた習慣、と捉えているという。見習いたい、この境地。

起床するときに「あ〜、よく寝た!」と声に出すのは、先輩からの教えだ。「ポジティブな言葉を発することで、仕事に能動的に取り組めます」。そんな大下さんの姿が、視聴者の信頼を得ている。

テレビ朝日アナウンサー・大下容子さんの1日のスケジュール

月曜〜金曜のタイムテーブルはほぼ一定。上京する際、医師だった父に言われた「規則正しい生活を」という教えを実践している。その分、週末の一日は「一歩も外に出ず、好きなだけ食べて寝て、自分を甘やかしています(笑)」。

〈埼玉パナソニックワイルドナイツ〉選手・稲垣啓太さん|睡眠の中央値をずらさない。

稲垣啓太(いながき・けいた)/1990年生まれ。新潟県出身。埼玉パナソニックワイルドナイツ所属。日本屈指のプロップとしてワールドカップ3大会で活躍。昨季の負傷から復活し、今季リーグワン150キャップ達成。日本代表候補にも選出。

〈埼玉パナソニックワイルドナイツ〉選手・稲垣啓太さん

スクラムの最前線で戦うカラダを、良質な睡眠で修復する。

稲垣啓太選手にとって睡眠は、トレーニングや食事と並ぶ土台だ。ただし優先順位でいえば「回復」を生む睡眠と食事の比重が大きいという。

「カラダを成長させるのは回復。それが一番進むのは、寝ている時なんです」。

そのうえで稲垣選手が最重要に置くのが、疲労回復に大切な「睡眠中央値」をずらさないこと。「深夜1時から2時。ここを絶対崩さない」。毎日22時に寝て4〜5時台に起きる。「朝は“ボーナスタイム”。頭が冴えるし、早く起きると人が寝ている間に動けて効率もいいです」

7時間以上の睡眠はかえってだるくなるため、21時半には布団に入り「10時に落ちる」準備を整える。昼寝は15〜30分まで。「意識が落ちなくても、目を閉じていることが大事」。寝つきの工夫は呼吸にある。「3秒吸って、5秒止めて、6秒吐く」。疲労が強い日は、限界まで吸って限界まで吐く呼吸を一定のテンポで30回。「指先まで痺れてくる」感覚を合図に、頭の先から順にスイッチを切るイメージで眠りに入る。「寝ることに集中し、何も考えません」。さらに就寝4時間前からは食べ物を入れず胃を休ませる。

「寝ている時に内臓を働かせたくない。自分のカラダをしっかりといい状態にする。すべてはフィールドで最高のパフォーマンスを出すための準備です」

〈埼玉パナソニックワイルドナイツ〉選手・稲垣啓太さんの1日のスケジュール

睡眠の時間にカラダがしっかり休まるよう、日々の食事やカフェインを摂る時間を特に気遣う。カラダを起こすための第1の朝食は液体のみ、固形物は第2の朝食から摂取し、夕食は週末に作り置きした自炊のことも多い。

ANA客室乗務員・佐久間詔子さん|香り、寝衣、眠る時間も身の赴くままに。

ANA客室乗務員・佐久間詔子さん

国内外を飛び回り、時差を味方にする術を持つ。

「睡眠については深刻になりすぎず、“ムリしない”“考えすぎない”ことを大事にしています」

と話すのは、客室乗務員として国内外を飛び回る佐久間詔子さん。

「気持ちの良い目覚めには、心地のいい睡眠が一番大事。ステイ先にもお気に入りのパジャマやハーブティー、湯たんぽを必ず持参しています」とのこと。

国内外の行き来には、時差がつきもの。眠りの浅い日もあるそうだが、「休みの前夜は、とにかく“自分に優しく”。録り溜めたドラマを見て、好きな時間に寝て。目覚ましをかけずに寝ると、カラダの負担も和らいでいきます」と、思い切ったリフレッシュも欠かせない。

「ストイックに管理はしませんが、カラダの声には素直に。好きな香りや寝具を取り入れるだけで、目覚めが変わる気がします」と、今日も笑顔でフライトに旅立っていく。

ANA客室乗務員・佐久間詔子さん愛用の湯たんぽ

ANA客室乗務員・佐久間詔子さんのスケジュール

羽田からイスタンブールなどの長距離路線は、機内で数時間の休憩を取る。また、国際線の乗客に時差対策を聞かれたときは、機内で現地時間に合わせた睡眠と食事を摂ることを推奨。体内時計が合わせやすくなるそう。

MKタクシー乗務員・馬場一晃さん|仮眠は短く、睡眠はネクタイを緩めた後。

MKタクシー乗務員・馬場一晃さん

板前からドライバーへ。夜型の仕事に尽くす熟練者。

5年ほど前からタクシー乗務員として勤務する馬場一晃さん。前職は板前で、当時から夜間帯の仕事が生活の中心だ。

「明るい時に寝て暗い時に働く。一般的な動きとは逆ですが、その分“自分なりのスイッチ”はしっかり持っています。板前の時なら前掛け、今ならネクタイ。これを身に着けると一気に仕事のモードになりますし、逆に緩めることで自分をオフに持っていけます」

もちろん、タクシー乗務員にとっての最優先は安全運転。「眠くなる時はありますが、だからといって仮眠を長く取ることはしません。15〜20分ほど、あくまで最小限です」と、馬場さん。勤務終わりには職場近くで食事を摂り、帰宅したら寝支度をして床に就く。「寝る直前に食事をしないようにするのと、昼間でも室内は薄暗く」と工夫して、翌日の乗務に備えるプロフェッショナルだ。

MKタクシー乗務員・馬場一晃さんのスケジュール

夕方に起床して出勤、翌朝に帰宅するサイクル。休日もリズムを崩さないように極力同じサイクルを保っている。「もっと長く寝たほうがいい方もいるかもしれませんが、自分なりのベストがあると感じています」。

ホテルニューオータニ東京〈バーカプリ〉バーテンダー・吉澤翔太さん|起床と就寝に一定のリズムを刻み続ける。

ホテルニューオータニ東京〈バーカプリ〉バーテンダー・吉澤翔太さん

どんな時も一定にリズムを刻むバーテンダー。

〈ホテルニューオータニ〉内のバーに勤務する吉澤翔太さん。営業が24時までのため、就寝はどうしても明け方近く。

「だからといって、仕事のない日に早く寝たりはしません。仕事の日も休みの日も睡眠時間、入眠時間を一定にしたほうが、翌朝の良い目覚めを生むように感じるんです」と、秘訣を語る。

「寝る前に食べるものは、できるだけ消化の良いもの。お粥やうどんを選ぶことが多いです」と話すと、ひと手間加えたドリンクについても教えてくれた。

「就寝前にカモミールティーを飲むのですが、レモンで香り付けをしています。カモミールとの相性も良く、心が落ち着くと同時に、カラダも温まります」

口にするもの、眠る時間、起きる時間……一定のリズムを崩さないことこそ、吉澤さんの大切な軸となっている。

ホテルニューオータニ東京〈バーカプリ〉バーテンダー・吉澤翔太さんの就寝前に飲むカモミールティー

ホテルニューオータニ東京〈バーカプリ〉バーテンダー・吉澤翔太さんのスケジュール

「時間もそうですが、食べるものや飲むものも常に一定に、あまり変えないように」と、吉澤さん。「甘いものも食べすぎると頭がボーッとしてしまうので、控えています」と、仕事のパフォーマンスを考慮した心がけも忘れない。

北里研究所病院内科病棟看護師長・坂脇淳さん|眠れなくても“休む動作”をあなどらない。

北里研究所病院内科病棟看護師長・坂脇淳さん

カラダもココロもいたわるベテランナースマン。

坂脇淳さんの勤める病院は、日勤と夜勤の二交代制。「少なからずハードな仕事ですし、夜勤もあります。休みの日はカラダの休息ももちろんですが、友達に会ったり好きなことをしたりして、心もリフレッシュすることを後輩にも促しています」と、師長ならではの視点も。

「個人的には仕事の有無にかかわらず、睡眠を6時間取るようにしています。長く寝たい気持ちもありますが、リズムを大事にしています」。

夜勤は仮眠の時間もあるが、急患の対応に追われることも。「職場という環境で眠りにくかったり、ついスマホをいじってしまったりしがちですが、仮に眠れなくても、暗いところで横になって目をつぶる。これだけでもカラダは休まります」と、坂脇さん。

メリハリをつけた働き方を推進しながら、内科病棟トップマネージャーの職務を全うしている。

北里研究所病院内科病棟看護師長・坂脇淳さんのスケジュール

シフトによって勤務時間が異なるうえに、休憩も不規則。「夜勤は食間が長く空くため、糖分が摂れるようにチョコレートは常備しています」と、坂脇さん。仕事以外では外に出る時間も作ることで、うまく息抜きしているという。