ピンポン玉のように人生が動く、 卓球選手が主人公の映画。|Move On Screen
話題の新作映画を通して、カラダや健康、生き方について考える。今回は、ティモシー・シャラメ主演の世界一の卓球選手を目指す破天荒な男の人生を描いた『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。人生に翻弄されながらも前へ進み続ける主人公の姿から、カラダと意志の関係を見つめ直す。
text: Keisuke Kagiwada
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『マーティ・シュプリーム 「界をつかめ』が描くのは、第二次世界大戦終結後間もないニューヨークのロウアー・イーストサイドで、世界一の卓球選手を夢見るマーティの物語だ。
と聞けば、『ピンポン』のような爽やかなスポ根映画を思い浮かべるかもしれない。しかし、マーティは卓球の腕前こそピカイチではあるものの、金と女にだらしがない自分勝手で尊大なクズ野郎。爽やかさのかけらもないそんな彼を、水を得た魚のように生き生きと演じているのは、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメだ。ちなみに、映画自体はフィクションだが、実在した卓球選手マーティ・リーズマンの人生に着想を得ており、この人も試合中に相手を恋人の話題で揺さぶったり、あるいは遠征先にストッキングを密輸して高額で売り捌いたり、相当なくせ者だったらしい。
映画はロンドンで開催された世界選手権の決勝で日本人選手エンドウに敗れた彼が、東京で再戦に挑むまでを活写していく。ところが、この間も虎視眈々と練習に励むようなスポ根映画でお馴染みのシーンは一切ない。中心となるのは、東京への渡航費を稼ぐべく、周囲を巻き込みながらニューヨーク中を駆け回る姿。マーティの落ち着きがない身体性が、映画にめくるめく疾走感をもたらしている。
しかし、やることなすこと数珠繫ぎ的に裏目に出続け、彼はみるみる窮地に追いやられていく。彼の転落っぷりは、警察から逃げる途中でゴミ捨て場に落ちる、ホテルで風呂に入ったら床が抜けて階下に落ちるといった具合に、派手なアクションを通して視覚化もされる。ここまでくると、マーティ自体が卓球台を飛び交うピンポン玉のようではないか。実際、彼は富豪から東京行きの切符を手に入れるため、尻をラケットで叩かれたりもするのだが。
じゃあ、卓球シーンが全然ないのかというと、もちろんそんなことはないので安心してほしい。とりわけクライマックスを飾るエンドウとの対決シーンはお見事だ。ティモシーは他の撮影現場にまで卓球台を持ち込み、7年もトレーニングを積んだそうだが、所作がとにかく美しい。振り付けを担当しているのは、ハリウッドにおける卓球監修の第一人者、ディエゴ・シャーフとその妻ウェイ・ワンだが(二人はなんと『フォレスト・ガンプ/一期一会』の卓球シーンも手掛けている!)、ウェイもティモシーのカラダの勘のよさを絶賛している。
「卓球は手を使うスポーツだと思われがちですが、実際は全身を使います。ダンスと同じように、全身の動き、フットワーク、タイミングが重要です。彼はそれを理解していました」
そう、この映画の卓球シーンはまさにダンスのようなのだ。不運な出来事の連続によって人生をピンポン玉のように弄ばれていた男が、最後の最後でラケットを握り、試合=人生を自らハンドリングしようともがく。確かに、スポ根映画とは呼べないかもしれないが、スポーツの試合を観戦するのに似た興奮と感動が、この映画には刻み込まれている。
『 マーティ・シュプリーム 世界をつかめ 』
卓球選手マーティが世界一を目指す姿を通して、アメリカンドリームの光と影を描く。宿敵エンドウは、1952年の世界卓球選手権ボンベイ大会で優勝した佐藤博治選手がモデル。演じたのは東京2025デフリンピックで卓球日本代表を務めた川口功人だ。2026年7月24日よりPrime Videoで見放題配信が開始。WEBサイト


