バルサかマンチェスターか。過酷な現実を突きつける、戦時下のサッカー映画|Move On Screen

話題の新作映画を通して、カラダや健康、生き方について考える。今回は、戦火のイラクで片脚を失いながらも、憧れのメッシを心の支えにサッカーを愛し続ける少年を描く『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』。逆境のなかで人は何を支えに前へ進むのかを問いかける一本。

text: Keisuke Kagiwada

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映画『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』のワンシーン

©A Team Productions | Column Film | 10.80 Films | Macgyver

今年の『FIFA ワールドカップ』において、期待通りの類い稀なるプレーを見せてくれたアルゼンチン代表のリオネル・メッシ。『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』は、そんなメッシに憧れる一人の少年の物語だ。

舞台は2009年。サダム・フセイン政権崩壊後のバグダッドは、スンニ派とシーア派の宗派対立や、米軍による侵攻と占領に翻弄され、危険地帯と化していた。

そんななか、〈FCバルセロナ〉時代のメッシのユニフォームを纏い、サッカーに明け暮れていた11歳の少年ハムディは、アメリカの民間警備会社〈ユニティ〉と反政府勢力の抗争に巻き込まれ、左脚の膝から下を失う。

ラジオ番組のキャスターは、そのニュースを報じた直後に間髪入れずに続ける。「次はスポーツの話題です」。異常が日常となっていることが、静かに伝わってくる。

悲劇はこれで終わらない。ハムディの父がユニティで通訳の仕事をしていたことから、一家は裏切り者の烙印を押され、母の故郷の村へと引っ越すことを余儀なくされる。

ハムディは、地元の少年サッカーチームへの入団を希望するも、片足ではキーパーも満足にはできない。心の拠りどころは、クラブワールドカップでのメッシの活躍をテレビで見届けることだけ。

しかし、肝心なテレビも故障してしまう。近所にはテレビがある喫茶店もあるものの、店主は〈マンチェスター・ユナイテッド〉を応援しているから居心地がよくない。宗派だけでなく、サッカー観戦においてすら、容易には解決しがたい対立が起きている。

いたいけな少年の前に立ちはだかるこの過酷な現実に、彼が着るバルサのユニフォームに刻まれたユニセフのロゴは、あまりにも無力だ。かくして、ハムディはテレビの修理代を稼ぐために、地雷原から武器を回収しようとするが……。

かつてイギリスの植民地支配下にあったイラクは、中東でいち早くサッカーを取り入れた国のひとつであり、熱狂的なサポーターが少なくない。劇中で描かれるバルサかマンチェスターかという対立も、その現実を反映したものだ。

実際、ハムディ役を務めたアフマド・モハメド・アブドラは、当時マンチェスターにいたクリスティアーノ・ロナウドのファンであったがゆえに、最初は出演オファーを固辞したという。「裏切り者にされる」と。

結果として堂々たる存在感でメッシの大ファンを演じたアブドラは、実際にロケット弾の攻撃に遭遇して脚を失っている。しかも、父を事故で亡くしたのと同じ日に。

つまり、冒頭にあるサッカーシーンは、アブドラの腰から上だけを撮ったショットと、別の子役が演じた腰から下のショットを、一見するとそうとはわからないように編集で繫げているのだろう。

劇中のハムディは病院のベッドの隣に寝ていた男の言葉を信じ……というか、そうでなきゃ困るという祈りに近い想いを傾けて、「脚はいつか生えてくる」と何度も語る。映画という魔法を使い、一瞬だけ実現したその夢のカラダを目にしたアブドラは、果たして何を思ったのだろうか。

『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』

イラク戦争下のバグダッドを舞台に、サッカーを愛する少年とその家族をめぐる悲劇を描く。監督のサヒム・オマール・カリファが、2015年アカデミー賞の短編実写部門の最終候補に残った同名短編映画をもとに、新たに長編映画として完成させた。8月7日より公開。WEBサイト